115話 人の恋路を応援(拒否権なし)
前回のあらすじ「お盆の始まり」
―翌日「ビシャータテア王国・カーター邸宅内」―
「そうか……」
テーブルの反対側に座っているカーター……そして王様が黒い魔石を箱の中に入れ始めた。
「となると薫と泉は、悪魔と人間のクォーターっていうわけか……」
「そうですね……」
王様はそう言って、ソファーに寄り掛かる。
「まあ、ユノとの付き合いを変える気はないがな……」
「え?そう…ですか……」
悪魔の血を引いてるのが完全に決まったから何か言われるかな……と思っていたので予想外だった。というより皆、悪魔の血を引いているという事に関して反応がずいぶん淡白のような気がする。
「まあ、こっちはそっちと違って色々な種族がいるからな混血というのも珍しくはない。まあ、今回は悪魔だが……そのくらいだしな」
「そうよね……まあ、薫が悪魔の血を引くのが確定した事で、ああ。やっぱりね。と私は思ったわ」
サキがお茶をすすりながら、自分の意見を述べる。するとカーターに王様、そしてレイスも首を縦に振った。
「前からそう思っていたと?」
「美女と見せかけて、男性を虜にして……そして真実を告げて、男の精神をズタズタにする!その時点で……」
「カーター……酷くない?」
「俺が最初に会った時はそうだったからな……」
カーターは何かを思い出している……が、すぐに首を横に振って、それを忘れようとお茶を口に入れた。まだそんなにトラウマだったんだ。
「ということで気にしねえから安心しろ!それとこの魔石はお前さんが預かってくれ。他の代表には俺が伝えておく」
「お願いします」
報告が済んだ所で時計を見る。10時……そろそろ戻らないと。
「確か……この後、墓参りするんだよな?オボン……でいいんだよな?」
「はい。僕の国ではお盆に死んだ先祖をお迎えして供養するっていう習慣があるんです」
「そうか……じゃあ、カーター。お前もいけよ」
「……はい!?」
いきなりの王様からの命令に一瞬の間を置いてカーターが驚く。
「そうね……この前、泉とキスしたんだし……責任は取らないとね」
そう言って、サキがまたお茶をすする。
「いや!!あれは事故で!?」
「乙女の初めてを事故で済ませるなんて……男として最低なのです」
ブスッ!!
レイスの一言に、カーターの体を見えない何かが貫くような音が聞こえた気がする。
「そうだな……この国を守る副隊長としてどうなんだろうな……」
ブスッ!!ブスブスッッ!!
どんどん見えない何かがカーターに刺さっていく。
「僕としては妹と思う泉を泣かしたら……容赦しないよ?」
ドスッ!!!!
見えない何かが刺さっているのは感じてはいたが……それはそれである。僕はさらに追い打ちをかけとく。
「は……はい……」
「よし。じゃあユノと一緒に行ってこいや。シーエには俺が伝えとくからよ」
「え?ユノも?」
「お前さんと付き合ってるんだぞ?当然じゃろ?」
「分かりました……それじゃあ、一足先に戻って準備しておきますね」
「早く準備させるからよろしくな」
「はい」
僕とレイスは部屋を後にして、エントランスにある豪華な螺旋階段を降り、豪華な装飾がされた扉を開けてカーターの屋敷を後にするのだった。
「……そういえば、カーターの屋敷に入ったの初めてかも」
「なのです」
グージャンパマを行き来して約半年……初めての訪問だったことに、僕たちは今さら気付くのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「薫宅・庭」―
「おお!家庭菜園順調じゃない!」
「うん。プランターから育てて、それなりに育ったら支柱と麻ひもを使ってグリーンカーテンの役割になるようにもしたしね」
「今日はゴーヤチャンプルだね!」
母さんはそう言うと、他の作物の具合も見始める。
「というか色々育ててるんだね」
「うん。前から興味があったんだけど、グージャンパマでも本格的に色々な野菜を育てることになったから僕も指導できるようにと思ってね」
「それで他には何を育ててるんだい?」
「他にも茄子とかトマト……後はピーマン。あっちに伝わらなかった野菜をメインに育ててるんだ。今度は白菜と大根を育てて、冬の……」
「はははは。大分、のめり込んでるね。無事育ったらこっちにもお裾分けしてくれよ」
「うん」
「ただいま……」
父さんと話をしていると、タクシーに乗って泉たちがやってきた。
「ふぁーー……疲れた……う~~頭痛い」
「昨日、遅くまで一緒に飲んでたッスもんね……」
タクシーが去った後、フィーロが鞄から出て来たのだが二人とも眠そうな顔をしている。
「随分、盛り上がったみたいだね」
「ああ。それは……」
「恋バナッスよ。泉の。うちは聞いていただけッスけどね」
「ああ~……しちゃったんだよね~!どうだった!?初めてのキスは!!」
母さんがオブラートに包むという事はせずに、ドストレートな言葉を泉に投げかける。
「そ、それは……!」
泉は恥ずかしさのあまり、口元を咄嗟に腕で隠して頬を赤らめた。
「お~~い!」
すると、ちょうどいい所に渦中のお相手がこちらに合わせた衣服を着て蔵から出て来た。
「おおーー!!あれが泉ちゃんの唇を奪ったお相手かーー!!」
またまた、母さんが言葉のレーザービームを今度はカーターに浴びせる。
「う、奪った!?いや?それは……!!」
カーターはいきなりの事に弁明しようとする。
「はいはい。キスしたのは変わらないんだから、素直に認めなさいカーター」
「そうですよ……我が国の騎士がそんなんでは務まらないですよ?」
すると、後ろにいたユノとサキがそれを遮る。その顔はいたずらを楽しでるような笑顔だった。
「おはよう。ユノ」
「おはようございます薫」
ユノが僕に朝の挨拶をすると、そのまま僕に近づき、僕の腕をその体に密着させる。
「お~お~~こちらもアツアツだね!!孫の顔が楽しみだよ!!」
「お義母さん!?そんな子供なんてまだ……」
「母さん……チェスト」
暴走気味である母さんの頭に空手チョップをお見舞いする。
「痛った~~い!!何するのさ?親の顔にチョップを喰らわせるなんて!?」
「皆がそのノリに困ってるから……」
「そうだよ明菜。ほら、あの二人が……」
父さんが指差す方向にはお互いに向いた状態の泉とカーター。目線を合わせないようにしているが、チラッとお互いに相手を見ようとして目と目が合うと、すぐさま目線を逸らす。
「あれ……どうするの?」
「じゃあ!墓参りに行こうか!!」
無視かい!!あれだけ振っといて無視するのかうちの母さんは!!
「まあ……ここ暑いし。さっさと行きましょうか」
相棒であるサキも無視するのかい!!
「あの二人にはこの位が丁度いいんですよ。きっと」
「そうかな?」
ユノはそう言うが……どうだろう?
「薫。そろそろ出発しないとお昼過ぎちゃうのです」
レイスに言われて時計を見ると、確かにそろそろヤバイ。
「じゃあ、車に乗ろうか……」
「じゃあ、泉ちゃん達は私達の車ね!!」
「え?」
「私、薫の車に乗るから頑張ってねカーター」
「は?」
……ということで、サキとユノ、それにフィーロがいそいそと僕とレイスを連れて車に乗車する。僕は事前にエンジンをかけていた車を発進させる。
「二人共……頑張って~~!!」
という、応援メッセージを送って墓場へと向かうのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「車中」泉視点―
薫兄の家を出発して数分。今、隣にいるカーターさんにどんな顔をすれば分からず、私は俯いている。
「明菜。安全運転で頼むよ」
「分かってるって!!」
前の二人はそんなことを気にもせず、いつも通りの会話をしている。
「……ああ。すまない泉」
「いいえ。あれは私が呼んだ……召喚獣のせいですし……」
「違う……こう……恋愛とか……異性と付き合ったことが無くてな。こういう時はどうすればいいのか分からなくて……」
「え!?」
その言葉に私は驚いた。あっちで買い物に付き合ってもらう事が多いのだが、その際にカーターさんは色々な女性に話しかけられている。その中には恋愛対象としてカーターさんと話している女性もいた。しかし、カーターさんはそんな女性への対応も違和感がなく普通に接していたので、それだから恋愛の一つ二つは経験済みだと思っていたのだ。
「ふーん……つまり、お互い初めての恋愛ですか……いいね~~!」
バックミラー越しにいい笑顔をしたおばさんの顔が見えた。
「おばさん!からかわないで下さいよ!!」
「いやね。あの子達が亡くなってから、少し寂しそうだったからね……愚息のとんでもない事に巻き込まれたお陰で大分、元気になったようだけど、ここはさらに……ってね!」
「え?泉のご両親……すでにお亡くなりに?」
「うん?泉。あんたカーターさんに話してなかったの?」
「うん。話すほどのことじゃないからさ。薫兄達も言わなかったし……」
「まあ、あの子達はそうするだろうね。当事者である泉ちゃんにとっても気持ちのいい話じゃないだろうからね……まあ、気にしないでね。これとそれとは別だし!」
「いや!?気にするなって言う方が難しいのですが……!」
おばさん……気にするなと言われるとより気になるのが人の心理だよ?ハッキリ言って困ると思うのだけど?
「……カーターさんあまり気にしないで下さいね。周りが何と言おうとも、私のペースで物事は決めたいので」
「ああ~……分かった。俺も今すぐとは難しいからな……気持ちが定まったら、しっかり俺の方から伝えたい」
「分かりました」
私は微笑みながら返事を返す。
「男としてアドバイスするけど……女性をあまり待たせちゃダメだよ?」
「わ、分かりました」
背筋を伸ばしてカーターさんが返事をする。今まで会話に参加しなかったおじさんのその目はいつもとは違って少しばかり鋭い気がする。
「いや~~ん!茂カッコイイ!!」
「最後にいい所を持ってただけだよ明菜」
そして、またいつも通りにイチャイチャし始める。おばさんとしてはガンガン後押しはするが今回はここまで、という事なのだろう。そして私がカーターさんを再び見ると頭に手を当てて考え始めてるのだった。




