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114話 お盆の始まり

前回のあらすじ「う~~わお!」

―お昼時近く「薫宅・書斎」―


「ふう~……」


 原稿が仕上がった僕は椅子に体を預けて、腕を上げて背を伸ばす。


「終わったのです?」


「うん。梢さんに頼まれていた書き下ろしもバッチリ」


「良かったのです」


 そう言って、レイスが眼鏡を外して本を閉じた。窓からは風が吹いて飾っていた風鈴を鳴らし、涼しげな音をたてる。外は太陽が照りつけていて、僕に暑さを思い出させる。……アオライ王国での一戦から事後処理と慌ただしく時間は過ぎて、すでに8月のお盆の時期である。


「暑いね……レイスは大丈夫?」


「暑さを和らげる衣服を着ているので、全然大丈夫なのです」


「そうか」


 集中してて感じなかった喉の乾きを今更ながら思い出す。


きゅ~~……。


 レイスからかわいい音が聴こえる。時計を見ると12時を過ぎていた。


「……今日はお昼は素麺でいいかな?」


「は、はい……」


 レイスが顔を頬を赤くしながら答える。僕は開けていた窓を閉じて、レイスと一緒に書斎を後にした。


「この後はどうするのです?」


「そうだね……」


~♪~~♪


 玄関の方からチャイムの音がする。こんな時間に誰が……?


「お~~い!薫!!玄関開けてよ~~!!」


 え、母さん?……あ、そういえばお盆に来るっていってたな。僕は急いで一階に降りて玄関の鍵を外し扉を開ける。


「やっほ~~!!来ちゃったよ。レイスちゃんも久しぶり!」


「お久しぶりなのです」


 そこにはスーツケースと手に袋を持った白いノースリーブワンピースを着た母さんがいた。……65歳なのにその姿は実家に帰省した子供にしか見えない。……というか来るなら連絡の一つくらい寄こして欲しい。


「って、父さんは?」


「うん?あっちだよ」


 振り向くと、蔵の先にある倉庫から歩いてくる父さんの姿があった。


「やあ。元気にしていたかい薫?」


「うん。なんだかんだあったけどね」


「そうか……ああ。昌達もこっちに後で来るから」


「といっても夜だけどね。っという訳でお昼まだだよね?はいこれ!!」


 渡されて中を確認すると、弁当が入っていた。


「鳥めし!こっちに帰ってきたしね!食べたくなっちゃった!!という訳でただいま~~!!」


 母さんは靴をポイポイと脱いで居間へと入っていってしまった。その後、父さんが母さんの脱いだ靴をそろえて家に上がった。


「じゃあ、お茶を入れて来るよ。麦茶でいい?」


「ああ。明菜と一緒にテレビでも見ながら居間で待ってるよ」


「私も行くのです」


 そうして二人が居間に向かった所で、僕はコップと麦茶を用意しに台所へと向かうのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「薫宅・居間」―


「あ~~!!美味しかった!!このタレが特徴的なんだよね~~……レイスちゃんも気に入った?」


「はいなのです!!」


「そういえば、また食べさせてなかったな……」


「そうなのかい?県の名物なんだから食べさせなさいよね?」


「焼きまんじゅうとかラスクとか……うどんは食べたんだけどね」


「かき氷は?夏季限定のあの名店は?」


「目立つから……」


「よし!じゃあそれ3時のおやつで行こう!」


「ほら明菜。薫が行けるか分からないだろう」


「いいよ。仕事も一段落付いたからね」


「そうか?それなら皆で行こうか」


「やったーー!!でも、まだ早いから……この前のバスジャック事件!あれ話してよ。かなり話題になったアレ」


「そういえば、そうだね。父さんたちもアレには驚いたよ。まさかバスを切っちゃうなんて」


「それじゃあ……」


 その後、母さんたちにバスジャックの件について話すのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数時間後「地元かき氷屋」―


「あんたも色々やってるね……」


「もう、感覚がマヒし始めてるけどね……」


「なのです……~~!!」


 レイスがかき氷を頬張ってために頭がキーンとなったのだろう。手で頭を押さえている。でも、それが治まるとまた次の一口へとスプーンを伸ばしていた。ちなみに他の人たちに見えないように僕の鞄と体で隠している。


「それで泉ちゃんは大丈夫なの?初めてのキスしちゃって」


「ああ……うん。まあ、大丈夫じゃないけどとりあえずは……何とか?」


 泉たちはいよいよあの祭典が始まったのでこの数日はレイヤーとしての仕事。今日までは東京にいるとのことだった。


「まあ、今は仕事に集中しているけどこれが終わった後は……」


「はは~ん。これはおばさんとしては何とかしたいところですな~♪」


「そっとしてあげなよ……」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ほぼ同時刻「某ビックサイト」泉視点―


「へっくし!!」


「夏風邪?」


 くしゃみした私を心配してレイヤー仲間の一人が訊いてくる。


「そうかも。衣装の最終調整で遅くまでやってたしな……」


「気を付けなよ~!まあ、私みたいに看病に来てくれる優しい彼氏がいるんならいいかもしれないけど……」


「そ、そうだね」


 彼氏……。この前のあの事件でついカーターさんの事を意識してしまう。


「へ?……何。その反応。まさか?」


「いや!違うからね!?」


「そんなことを言って~!何、キスまでとか言ったの?それとも最後まで?」


「いってない!!キスもあれは事故で……!あ!!」


「したの!!」


「うわ~!!誰!お相手の人ってどんな人なの!?」


「いや!?だから!!」


「(いい。話のネタにされてるッスね泉)」


「(フィ~~ロ!!)」


 気付かれないように、鞄に隠れているフィーロに私はツッコむのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―元に戻って「地元かき氷屋」―


「……何か。泉が大変な目にあってる気がするのです」


「何?精霊の予言?」


「どちらかというと女の感なのです!」


 そう言って、レイスはかき氷を口に含み、またまた頭を押さえる。


「後で泉ちゃんに何が起こったか訊いてみよ!!」


 泉のやつ……きっと盛大にくしゃみをしているんだろうな。と思いつつ自分も頼んだかき氷を口にするのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―夜「薫宅・居間」―


 かき氷屋さんから帰ってきた僕たちは仏壇に仏壇飾りを施した後、母さんにも手伝ってもらい僕は晩御飯の準備をする。今日は夏らしく、そしてお昼に食べようとしていた素麺を茹でて、おかずとして天ぷらを揚げる。居間に出来た料理を運んでいると玄関を開ける音が聞こえて中に入ってくる。


「お母さん。ただいま」


「お久しぶりです」


 夜になって、昌姉たちが家に来た。


「二人共久しぶり!元気にしてた?」


「ええ。それで明日は何時ごろにお墓参りに行くの?」


「お昼前には行こうか。泉ちゃんも早く帰ってくるって言ってたしね」


「明菜。皆が集まった事だし晩御飯を食べながらにしょうか」


 そして、晩御飯を食べながら何か変わったことが起きていないか?とか仕事はどうだ?とかありきたりな内容の話をする。


(ついにお盆休みが始まりましたね!!今回は国内旅行で意外な場所に観光客が押し寄せているそうです!!)


 テレビから流れる番組を見ると、その意外な場所というのはこの地域だった。


「だから、いつもより車が混んでたんだね……」


「そうだね茂。そして……その原因を作ってる張本人たちがここにいるしね」


 そう言って、全員が僕とレイスに視線を向ける。


「いや。しょうがないよね?警察にも頼まれてバスジャック犯を捕まえた訳だし……」


「まあ、それはそうなんだがな……」


(妖狸と妖狐も絶賛休業中でしょ~~!!)


 お笑い芸人が地域の名所を周りながら、僕たちをネタにはさみつつ笑いを取っている。


「あの芸人から名前の使用料を取ったら?」


「バレるから……」


「まあ、冗談だけど……しかし、ネタと言えばあんたのせいで尽きることはないわね~」


 母さんの言葉に全員が頷く。確かに僕自身がそれをネタに小説を書いているくらいだ……ネタはある。


「あ。そうだ」


 母さんが何かを思い出したようで、箸を口に入れたまま自分のスーツケースのところまで歩き、中をあさり始める。


「明菜……行儀が悪いぞ」


「ふん…ふふ~ん……」


 箸を入れたまま母さんが何かを喋る。その光景と見た目のせいでもはや子供にしか見えない。すると、何か箱を取り出し持って来る。


「ふぁい」


 それを僕に渡す。僕はそれを受け取る。


「これって……何?」


「うんとね……多分、魔石だと思う」


「ええ?」


「ど、どういうことなのです?」


 母さんの意外な一言にレイスは箸で持っていた精霊サイズで揚げたイモ天を落としてしまう。


「それ……母さんを火葬したときに出て来たんだ。職員の人は確認不足で貴重品を壊してしまって申し訳ない!って言ってたんだけど……そんなの見覚えなくてさ……」


「それで明菜と二人でこれを見た時に、薫が見せてくれた魔石じゃないのかと思ってね。まあ、あの中に無い()()()()だけどね」


 その父さんの発言に驚き、そして慌てて箱の中を開ける。


「黒い……魔石」


 そこには、割れて幾つかの大きな破片になった黒い魔石があった。するとレイスが近づいて確認する。


「……魔力を感じます。間違いなく魔石なのです」


「やっぱり!!で、それ何の魔法が出来るの?」


「分からない……」


 僕は箱を閉じて、母さんの質問に答える。


「この石は悪魔が落とした物しか確認できていないんだ」


「悪魔……ということは?」


「おばあちゃんは魔族の中でも悪魔と呼ばれる存在の可能性があるってこと」


「へえ~……私、悪魔と人間とのハーフか……何かいいね!!」


 そう言って、母さんが親指を立てる。


「となると……私と薫ちゃん、それに泉ちゃんはクォーターってことかしら」


「……何故か納得するな」


「武人君の言う通り、僕も思うよ」


 二人が素麺を黙ってすする。……火葬の後に出て来た魔石。ということはこれはおばあちゃんの体内にあったことになる。割れたのは……火葬による高温のせい?しかし……。


「大きい……かも」


 今、笹木クリエイティブカンパニーに保管している物はあの悪魔が他の二体の悪魔から魔石を取り込んだ事によって大きくなった物と、僕が雷刃で感電死させた物の二つなのだが……これは前者のより大きいかもしれない。


「これ預かっても大丈夫?」


「いいよ。形見といえば形見になるんだろうけど、母さんから受け継いだ物は他にあるし……それにあんたらが持った方が良さそうだしね」


「ありがとう」


 明日の早朝にグージャンパマに言ってこの事を報告しに行こうと、僕はそう思うのだった。


―「割れた黒い魔石」を手に入れた!―

内容:薫のおばあさんである典子さんの中から出て来た黒い魔石。これからの調査に役立てましょう

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