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113話 自業自得とクリア報酬

前回のあらすじ「召喚獣暴走中」

―「港町ダゴン・船着き場上空」―


「じゃあ、いくよ!」


 僕たちが噴水広場を飛び立った後、セイレーンに対してカシーさんのオクタ・エクスプロージョンが発動する。シェムルにも当たればよかったのだが、避けられてその全てがセイレーンに当たる。最強の爆発呪文の威力はセイレーンにダメージを負わせて少しだけ動きを止めた。その間に素早く僕たちはセイレーンの真上に移動、そしてアイテムボックスから巨石を取り出す。


「ステッキィ・ファイヤー!!」


 そして事前に打ち合わせしていた通りに、この巨石に目掛けてカーターたちが魔法を放つ。すると粘着のある炎を纏った巨石の出来上がりである。岩の表面が熱で溶け始めている。


「いくのですよ薫!!」


「……万物の根源たる炎を宿し巨石よ。今こそ星の力を借りて悪魔を鎮める力となれ!!火之迦具土神(ヒノカグヅチ)!!」


 高温の炎を纏った巨石を最大まで重くして落とす。それを見たセイレーンと戦闘中のシェムルは高速ですぐさま距離を取ってしまうが、セイレーンには灼熱の巨石が直撃。そしてそのまま突き抜けて海にぶつかり……盛大に爆ぜる。


「「「グギャアアアアアアア!!!!」」」


 その巨大な爆発の衝撃は、周囲にいた他の魔獣をも巻き込みダメージを与える。


「ちょ!ちょっと避難!!」


 サキの言葉を聞いて急いで僕たちも避難する。


「ちょっと……やりすぎちゃった」


「盛大に水しぶきを上げて何を言ってるんだ!!」


 ……いや。本当に予想以上だったのだ。高層ビルの屋上ぐらいの高さまで来るとは……。


「これを狙ってやったのよね!?」


「えーと。水蒸気爆発って言って、火山の噴火とかの……」


「そんな自然現象を港町で再現するな!」


 爆発の影響でセイレーンから逃げていた魔獣が爆発に巻き込まれ空を舞う。


「グギャアアアアアアア!!!!」


 すると、空に飛ばされて逃げ場所のない魔獣に髪の槍が次々へと刺さっていく。……それは爆発の中心部から出ている。


「嘘!!まだ生きてるの!!」


「……いや。終わりみたいだ」


 カーターがそう言うと、髪は弱々しい物へと変わり、そのまま泡によって白く濁った海に沈んでいった。


「終わった?」


「……いや。まだだよ」


 僕はそう言って鵺を黒剣に変えて構える。目の前にはアイツが。


「これが召喚獣……か。予想以上だったよ。参ったねこれは……」


 やれやれ、というようなポーズを取っているシェムル。大量にいた海の魔獣はすでに指で数える程度しかいない。しかもそれら全てが大ケガしている……そしてシェムルも。


「どうするの?まだやる気?」


「お生憎様。これで僕は撤収するよ……それじゃ!」


 猛烈な突風を起こされる。それによって咄嗟に僕は鵺を盾にして構えて防ぐ。僕の後ろにいたカーターも剣を構えるが……突風が起きた中心部には誰もいなかった。


「帰ったのかしら?」


「血まみれの腕を押さえてたしな……」


 それでも警戒をする……が、何も起こらない。


「おーい!!大丈夫ですか!!」


 すると、シーエさんたちがこっちへと近づいてくる。


「こちらは終わりました。四天王は?」


「撤収した……みたいだ。片腕を酷く損傷したみたいだしな」


「なるほど」


「と、いうことは終わったのか……疲れたぜ~……」


「なのです」


 ここに集まった全員が安堵の息を浮かべる。魔獣はまだいるが、現在進行中で各国の賢者さんが撃破している。


「それで……被害は?」


「……行方不明者多数……ですね。今の所、死者はいないようですが」


「え?これだけの騒ぎなのに?」


「魔獣が現れた瞬間、すぐに市民は避難しましたし、戦っている者達は弱いですがプロテクションがかかった魔石を所持してますからね。クラーケンに掴まって圧死とかアダマンタイトに喰われるとか、一撃で致命傷にならない限りは……」


「そうなんだ……」


 今の所は死者がいないのは良かったけど……。


「薫さん。あまり気を落とさないで下さい。魔獣がいるこの世界ではこのような事がよくありますから。それに戦いに出る者はそれを覚悟してます」


「そうだぜ。むしろお前たちがアイツを引き付けておいてくれたからここまで早く倒せたってのもあるからな?」


「……うん。二人共ありがとう」


 今までは犠牲者が運よく出なかったが今回はそうはいかないだろう……。そう思うと素直には喜べない。


「とにかく噴水広場まで戻るのです。今回の一番の功労者を労わないと」


「そうだな」


「ええ。あの悪魔召喚士を労わないと……」


「ふふ!そうだね。それじゃあ戻ろうか」


 僕たちはまだ煙が立ち込めている港町へと戻るのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数十分後「港町ダゴン・噴水広場」―


「「すいませんでした……」」


 噴水を背にした僕と泉はオルデ女王にどけ座して謝罪する。


「全くです!悪魔が降臨したと思ったら、今度はそれを吹き飛ばすほどの大爆発!魔獣を討伐してもらえたのは助かりましたが!メチャクチャですよ!!」


 僕たちと泉たちのお陰で、魔獣は全て討伐は出来たが……港や海に近い家屋が大変なことになってしまったらしい。


「と・く・に!!薫さんのあの爆発ですからね!!あれで港に津波が起きて家屋が破壊されたんですから!!」


「誠に……申し訳ありませんでした!!」


 ただ、謝る事しか出来ないのだった。やはり彗星は街中で使う物じゃない……。


「まあまあ。落ち着いて下さいオルデ女王。そもそも、あれらがこのまま暴れていたらこの町自体がなくなっていた所です。むしろ、この程度で済んだと喜ぶべきですよ」


 アオライ王国の賢者さんがオルデ女王を鎮めようとする。


「だってだって!」


「……オルデ女王?何か喋り方が違くね?」


「そうね……それに、いつもの、ポワ~ン。とした雰囲気じゃないわね」


 マーバとサキが僕たちの後ろでそんな会話を始める。


「そ、それはこんな状況ですから」


「……お母様から聞いたんですが、オルデ女王って結構したたかな方なのです」


「え?レイス!……様」


 オルデ女王がレイスを呼び捨てしようとする。


「それにですが……調略しようとして、会議の際に出された薫の飲み物に媚薬を入れるのはマナー違反だと思いますよ?」


 そう言ってレイスが、ニコッ!と笑みを浮かべる……え?


「……レイス。それもっと詳しく」


「いや……媚薬なんて?私は元気の出る薬を……?」


「オルデ女王って本当はワガママ娘って聞いたことがあるから……まあ、納得ね」


「欲しい物は何としても。だったか?ハリル達の情報通りだったな」


 カシーさんとワブーが納得している。つまり、いつものアレは猫を被っていた訳か。


「え?いや……その!?」


「陛下はこのような性格でして……我々も振り回されています……はい」


「ちょっと!!あなたまで!!」


 アオライ王国の賢者もここで自白する。と、なると……。


「なるほど……今回の件で何かと問題ありと難癖をつけて僕をここに留まらせるおつもりだったと?」


「え……いや~その?」


 オルデ女王が露骨に言葉を濁し始める。


「これだけ被害が出てるのに何を考えてるんですか!!」


 僕のその一言で周りにいた各国の賢者さんたちからもブーイングが起きる。


「いや!あなたのようにチョロ……コホン。優秀な人材を……」


「チョロい!って言おうとしましたよね!!」


 僕は鵺を黒剣にして構える。


「雷刃」


 更に電気を帯びさせる。


「ちょ!私、ここの女王ですよ!!」


「大丈夫です。刃は落としてありますから……ただ、きつい灸をすえるだけです」


「兵士!止めなさい!!あなたも!!」


 アオライ王国の賢者さんは手でばってんを作って、その命令を断る。他の兵士さんたちも、我関せずだったり、頭を掻いて困った表情を浮かべたりする。


「どうやら、味方する者はいないようですね?」


「ぬ……ぬぬぬ~~!!だってあまりにもビシャータテア王国が利益を独占し過ぎじゃないですか!!少しはこっちにも!!」


「そのことには僕も思う所はあります……が、それと今回の件は関係ありません!!何より!すでに僕には婚約前提でのユノとお付き合いしてるんですよ!!なに媚薬を使って、略奪愛をしようとしてるんですか!」


「それですよ!それ!あなたを独占なんて一番の大利益じゃないですか!そもそもですよ!?男性が見ただけで虜になるような美人で、女性が付き合ったら絶対自分に自信がなくなるようなあなたと結婚するなんて何か裏がありますよね!?」


「あ、それ禁句!」


 カチーン……。


 僕の頭の中の何かがキレた。……僕は黙って黒剣の刃を復活させる。僕自身もそうだがユノを馬鹿にされたのも許せない。


「ふぇ!?な、なんですか!」


「薫兄……そう言われて、彼女にフラれたし……」


「ご愁傷様なのです」


「し~らないッス」


「……え?」


「……オルデ女王……お命覚悟……!!」


「きゃーー!!謀反です!だ、だれか!!」


 チラッとアオライ王国の賢者さんと兵士を見ると、両手を合わせて合掌していた。


「謀反って……誰が、いつ、あなたの家臣になったんですか!!その根性!ここで叩きな……え?」


「え?どうかしま……した…か……」


 この噴水広場は海より少し高い場所にあって、オルデ女王の背後には海に続く坂道になっている。そしてその坂道から歩いてくる青い髪をした美人……いや、召喚獣がいた。


「セイレーン!?」


「あの爆発攻撃を喰らったのに!?」


「というより巨石で本体を貫いたぞ?そ、それなのに……」


 あの時、一緒に倒したカーターたちが驚いた表情を見せている。


「あ、悪魔が~~!!」


 すると、セイレーンが地面から水で出来た触手を出して……その先っぽでオルデ女王に強烈なビンタを喰らわせた。


「ヘヴッゥ!」


 オルデ女王は変な声を出しながら、壁に強く叩きつけられた。オルデ女王に灸をすえようとしたが、セイレーンに先越されてしまい。僕は呆気に取られ……そのまま黙って黒剣をブレスレットに戻す。


「……自業自得ですよ陛下」


 アオライ王国の賢者の言葉に、ここにいる一同が頷く。すると、セイレーンが頷いて気が逸れていた僕に近づいて来て……ほっぺにキスをしてきた……。あ、これか。


「え?どういうこと!?」


 突然のその行為に周りが驚く中、僕は冷静にこの行動に対して解説する。


「このセイレーンってゲームだと討伐完了後に今の僕にやったような演出があるんだ。クリア報酬としてね」


 こいつ以上の敵はそのゲームには存在しないため、報酬としては称号とトロフィー。そしてこの美女……という名の疑似餌からのキスというのが報酬なのだ。


「泉ったらゲームの再現率高すぎるよ」


「いや~。想像してたら思い出しちゃって……てへ?」


 そう言って、頭を軽く叩きベロをチラッと見せた。そんな中、セイレーンは海の方に手をかざしてかなり大きな触手を発生させる。そしてその触手を陸地で破裂させる。その破裂と同時に多くの人が放り出される。


「まさか……海に落ちたりして行方不明になった人達!?」


「あれだけの数を回収したのか……?」


 それを見たアオライ王国の兵士さんたちと賢者たちが救助のために放り出された人たちへと走っていってしまった。ふと、僕がセイレーンの方を見ると笑顔を見せる。


「……どうやらクリア報酬だって」


「ありがとうねセイレーン」


 そう泉が言うと、今度は泉のおでこにキスをする。精霊である泉とフィーロには頭を撫でて、そしてカーターの方へと向かう。


「泉たちは召喚士として……僕たちとカーターたちは倒した報酬ってところかな?」


「そうみたいだね」


 そして、サキの頭を撫でて、カーターに……うん?何か戸惑っている?というより何かを考えている素振りをしているような……?そんな事を僕が考えていると、セイレーンはまずカーターに、少ししゃがむように。そして泉に向かって、こっちに来て。というジェスチャーをし始める。


「え?何だろう?」


 そして、泉が近づくと泉の後ろに触手を発生させてそれが絶妙な力加減と方向で押し、セイレーンはぶつからないように後ろへとどいた。そして、ちょうどセイレーンの指示で真正面を向きつつ少しかがんだカーターの顔に泉の顔がぶつかる。いや……これ、唇同士が当たったかな?


「わお」


 あまりの出来事にサキの語彙力が著しく低下する。しかし、そんな中二人は微動だにしない。


「……~~!!!!」


 泉の意識が復活したのだろう。急いで言葉に出来ない何かを発しつつ、その場を数歩だけ離れてあたふたしつつ最後には赤くなった頬を両手で押さえる。


「わ、わた……私、初めて……なのに!!!!」


 男性と初めてキスをして顔を真っ赤にさせる泉。一方、カーターは……?


「し、しっかりして下さい!!いい大人なのに何、倒れてるんですか!?」


「そうだぜ!!ここは男としてな……!!」


 シーエさんたちが横に倒れたカーターを起こして肩を揺さぶっている。するとセイレーンが僕たちへと手を振りつつ少しずつ消えていき、最後には核となっていた魔石が砕け散った。


「……流石、悪魔ッス!!」


「だね……」


「それで……どうするのです?この状況?」


「シーエ任せたわ。私達は後処理に行くから。薫。行きましょう」


「ちょ、ちょっと!カシー!?」


 珍しく慌ててるシーエさんにその場の全てを預けて、僕たちはこの戦いの後処理へと向かうのだった。


―クエスト「港町ダゴン防衛線」クリア!―

報酬:大型海洋魔獣の素材多数、オルデ女王の本性、悪魔のキス?

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