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112話 セイレーンの第二形態

前回のあらすじ「キレイな薔薇には棘がある」

―「港町ダゴン・海上」―


「左!」


 僕の声に反応して、ユニコーンは左へと避ける。そこを水で出来た魚が襲い掛かってくる。


「前なのです!!」


 すると今度は前から、合体して大きくなった魚が口を開けて襲い掛かってくる。


「二人共!水破斬!!」


 僕は水破斬でそれを切断する。


「き、切り倒したのです……というか、これそもそも水ですよね?何で掴んだり出来るんですか~!!」


「うーん……多分これが泉たちにとってこれが普通の水じゃないと思っているからだと思う」


「どういうことですか~!!」


 現在進行中で魚の群れから逃げてる僕たち。そのためかレイスがやや絶叫気味に、疑問になったことを僕に訊いてくる。


「これは魔力を含んだ水。それだから掴めて当然。それに……」


「ああ!薫!前、前から触手が!!」


「……ああ。ユニコーンこれは避けずに飛び込んで!」


「(え?だってこれ!!)」


「いいから!」


 ユニコーンは僕の言葉を信じてそれに飛び込むと、それはスルリとすり抜けられた。


「え?」


「これアイツの攻撃の一つでミラージュだよ」


「ミラージュって泉たちが使っている?」


「あれ。こいつの専用技なんだ。で、ちなみにアイツの幻想なら僕が見抜けるから安心して」


「見抜けるって……見抜くポイントがあるんですか?」


「うん。まあそこの設定を一部は本物とかに変わってなければだけど」


「あの……これ。鬼畜ゲーってやつじゃ?」


「そうんなんだよね……あ、あれは本物だから避けて。それに上から魚が来てる」


 ユニコーンが指示を受けて素早くすり抜ける。この召喚獣の恐ろしい所は水で作った幻想に本物の攻撃を仕掛けてくること、さらにその幻想はその場にいるキャラのマネもする。よってこいつに集団で戦うと……。


「下。同士打ちが始まってのです」


 ということで、ゲームだったら疑心暗鬼に陥ったプレイヤーたちが同士打ちを始める。さらにそこへ魚の群れがやって来て一方的な蹂躙を行う。


「やっぱり。泉は魔法使いとして才能があるんだろうね……と、雷撃!」


 ギリギリの位置で攻撃を避けて、さらに魚の群れを魔法で撃ち落とす。


「さ、才能って?」


「泉たちにとって魔法で使う水は自分の指示で物を掴めるし、この位置で幻想を見せたいと思えば勝手にご都合主義が働くものだと考えてるって事。そうじゃなければ、水属性に適応のある僕たちもミラージュを使えるしね」


 魔力は本当にご都合主義の塊なのだろう。僕の黒星を使った時に投げた鵺が術の終了時に戻ってくるように、飛翔を使ったユニコーンが空を自由に翔ることが出来るように……。魔法の才能とはどれほどそのご都合主義が利用できるのかになるのだと思う。


「そういえば、いくらやっても不発でしたね……。って!下!!下に~!!」


 ユニコーンが体を捻らせて下から来た魚の群れを避ける……って!レイスが吹き飛ばされた!!


「鵺。虫取り網!!」


 僕は即座に鵺で網を作り、それでレイスをキャッチする。


「大丈夫!?」


「……私…虫扱いされたの初めてです……」


「ゴメン……咄嗟に思いついたのがこれだったから……」


 網を近くに寄せて、レイスを網から解放する。レイスは飛ばされないように僕の巫女服の胸元へと避難して、顔だけ出す。


「……もうここから出ないのです」


「うん。アレが倒されるか術が終わるまでここにいていいから」


 そんな話をしつつアレ……つまりハープを弾いているセイレーンを見ると、さらに歌を歌い始めた……恐らくはアレが本物だな……そこに近づく敵はことごとく、水で出来た魚の群れに死ぬまでボコボコにされている。そんな中にそれらをかいくぐっているシェムルがいた。


「シェムルが倒せば止まります……でも、それじゃあ、周りにいる魔獣が……」


「(数はある程度減っているけど、まだまだたくさんだよ?)」


「大丈夫。とりあえず、逃げるのが先決。隙があれば領域から逃走するから」


「でも、たくさんいるのですよ~!!」


 上から魚の群れが落ちてくる。しかしユニコーンがそれをすいすいとすり抜けていった。


「ほ、本当にユニコーンと契約して良かったのです……って!」


 そしてついに、シェムルがセイレーンに近づいて黒い剣で一気に切り倒した。すると、セイレーンは断末魔を上げ、魚の群れが水になって海上に落ちていく。


「よし!そうしたら、全力で逃げるよ!!」


「(りょーかい!)」


 そして、僕たちは戦闘領域から抜けて、港町がある方へ急いで避難する。


「って逃げてよかったのですか?」


「大丈夫!第二形態があるから!」


「え?」


 麒麟の雷霆万鈞のようにアレにも必殺技という名の形態変化がある。するとセイレーンが断末魔を上げながら()()()()()が海から飛び出してくる。


「……ば、ば、バケモノ~~!!」


「(な、何あれ!?し、死んでるよね!?)」


「魔法で作った呪文だから生きてるという表現は……どうかな?」


 二人がアレを見て悲鳴を上げている。なんせセイレーンの本体は白い長髪、死斑に青白い血管が浮き出ている白い肌をしたデカい生首なのだから。あの美人な姿は仮……というか撒き餌である。


「ダッシュ!ダッシュなのです!ユニコーンちゃん!!あれは危険です!変な呪いをかけられるのです~~!!」


 アイツには呪い染みた攻撃パターンは無いのだが……しかし、無言でユニコーンがさらに速度を上げて港町へと避難する。今までで一番早い速度である。レイスはセイレーンのあの姿を見て涙を浮かべている。


「薫!レイス!大丈夫か!!」


 反対側からカーターたちが飛んできた。


「大丈夫!とりあえず港町に避難しよう!」


「薫!!あれ!説明して!!明らかに悪魔でしょ!!あれは!!」


 サキが泣きながら説明を求めている。


「ゲーム内での話だけどね。アイツのせいで大都市が一夜にして消滅したって設定で……」


「そんなの呼ばないでいいから!!それで止める方法は!?」


「麒麟と同じように魔力が切れれば止まるよ」


「キシャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」


 セイレーンの本体が奇声を上げて攻撃を開始する。あの形態の攻撃は白い髪。あれが武器になる。それが束になって槍上になったかと思うと、叩きつける攻撃ではあまりダメージが無かったアダマンタイトの堅い甲羅からではなく口から串刺しにする。そして、他の髪も束になってどんどん敵を突き刺していく。中には逃げようとして髪に捕縛。そして、幾つもの髪の槍で貫かれていく。アレの攻撃はただそれだけなのだが、ゲームだと広範囲でかつ速く、一撃一撃が致命傷。しかも髪は堅いために破壊がなかなか難しい。ただ製作者たちの情けなのか、この状態になると空を飛ぶ魚の群れ、ミラージュは使ってこないので同士打ちの心配はなくなる。ただ……その攻撃と見た目はなかなかの恐怖である。


「あ、ああ……こ、怖いのです……」


「そ、そうね……ゆ、夢に出そうね……」


 二人がカタカタと体を震わせている。


「何で泉達はあんな召喚魔法を?」


「ああ。あいつとはゲームで何百回も戦ってやっと勝ったからね……だから僕が麒麟の行動パターンを覚えてるように、泉もあれなら完璧に覚えてるんだと思う」


 このボスはそのゲームの裏ボスとして登場。他のプレイヤーと共闘して戦うのを醍醐味としたゲームなのと、かつそいつのライフゲージの高さからプレイヤーたちは当然ながら共闘して戦うのだが、第一形態のミラージュでことごとく同士討ちを始めて、そこに魚たちの群れによる攻撃で瞬く間に全滅してしまう事で討伐不可能なバグとして扱われた。


 そして同じように戦っていた泉がふとあることを閃く。それは、これを一人で戦うのを生放送するというのは面白いんじゃないかという事だ。ちなみに僕もそれに付き合わされて少し離れた所で待機していてバックアップ出来るようにしていた。


 結果は……なんと第一形態を数時間をかけて撃破し第二形態まで追い詰めた。そこで攻撃パターンの変化による猛攻でヤバそうだったので僕も討伐に加わり、さらにそこから数時間かけて討伐した。これがセイレーンの初討伐ということで、一時SNSで騒がれたのはいい思い出だったりする。


「なるほど……イメージがしやすくてパートナーに教えるのも楽だったからということか」


「そういうこと。この魔法って如何にイメージを鮮明に想像出来るかが大切だから」


 港町に移動しながら、召喚魔法について説明する。


「それじゃあ、この魔法はこの前の麒麟みたいに必殺技は放たないのか?」


「こいつは今のこの姿が必殺技だからね」


「二人共~!大丈夫!?」


 港町にある噴水広場まで行くと泉たちがこっちへ手を振ってくる。僕たちはそこへと降りていく。


「泉!アレいきなりださないでよ!」


「ゴメンゴメン!薫兄達のことすっかり忘れてたよ……」


「とりあえず無事でよかったッス!」


「それで……アレっていつ消えますか?」


 オルデ女王が指差す方向には今も魔獣相手に殺戮の限りを尽くすセイレーンが……うん?


「あれ、こっちに近づいて来てないかな?」


「そういえば……そうだな」


「そうね……」


 カシーさんたちも僕の意見に賛同する。どんどん港町に近づいてくるセイレーン。そしてその原因も分かってくる。


「シェムルがおびき出してるのです!」


 シェムルが港町を背にセイレーンと戦闘中という名の回避をしている。そして、そのシェムルを追うセイレーン……生首だけなのにどう動いてるのか疑問だが……。


「上手く避けるな……」


「感心してる場合ですか~~!!あの巨大な悪魔がこっちに来てるんですよ~~!!」


「大丈夫……泉たちが……」


 その泉たちへ振り向いて顔を見ると青くなっていた。……まさか。


「返還……できない?」


 泉は僕の方を見て首をコクコクと縦に頷いた。


「……ワブー。オクタ・エクスプロージョンいくわよ」


「ああ」


 ワブーがカメラを降ろして、カシーさんと一緒にセイレーンを止める準備をする。


「じゃあ、僕も……カーターたちにも手伝って欲しいんだけど」


「何をする気なの?」


「久々のあの魔法を使おうかなーって。泉たちは召喚魔法で疲れてるだろうから休んでて。アレは僕たちが討伐してくる」


「ゴメン!」


「よろしく頼むッス!」


 僕たちは再び海の方へと飛翔する。そしてカーターたちにこれから使う合体技を説明するのだった。

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