111話 邪霊神セイレーン
前回のあらすじ「海の魔獣のオンパレード」
―「港町ダゴン・海上」―
「はは!!」
「(うわ!あぶな!!)」
ユニコーンがシェムルの黒い斬撃を避ける。
「まさかユニコーンに乗ったまま空中戦が出来るなんて!そうか。あの時、そいつに乗って逃げたって訳か!!」
「ご名答だよ!!」
僕たちは高速で移動しつつ、水連弾と雷連撃をメインにして戦う。
「ほっと!!当たらないよ!!」
シェムルと戦闘を本格的に開始して、何も無い海上まで誘い込めたけど……。どうやらシェムルは風属性使いみたいだ。風による高速移動……そして。
「水連弾!!」
「ふっと!」
シェムルが華麗に避けて、僕たちとの距離を詰めて剣による攻撃を仕掛ける。僕はそれを黒刀で受ける。
「この!」
レイスが僕と鍔迫り合いをしていたシェムルにピンポン玉の氷の弾で攻撃する。それを首を動かして避けるが、今度はどこからか発生した水の弾がシェムルにの横から飛んできてそれが命中して弾き飛ばされる。しかし水弾のため殺傷能力は無く、本当にただ弾き飛ばされただけだった。
「……面倒だね。3対1ってところかな?」
「やっと攻撃が当たったのに全然ダメージが無いのです」
「(だねー……)」
「やっかいだね……君のその風の防衛魔法。さっきから風を発生させて、その風の変化で攻撃を避けてるんでしょ?」
僕はシェムルを観察した結果を伝える。これで少しでも動揺させることが出来ればいいんだけど……。
「……驚いたね。そこまで分かった奴、久しぶりあったよ。たいていはその前に切り刻まれたのにさ」
「さっきの近距離からの水属性の攻撃には対応してなかったからね。レイスの攻撃は自信の反射神経で避けたけど、流石に死角からの近距離は無理だった……でしょ?」
「はは……!!本当に面白いね君は!!女性相手にここまで苦戦するとは……」
「男……」
「うん?」
「僕は男だよ」
「……へ?」
シェムルが明らかな動揺する。
「今なのです!」
ユニコーンがその隙をついて高速で接近し、僕は雷刃で切りかかる。
「ちょ!」
それを剣で受け止められてしまい、距離も取られた。
「は?男?ユニコーンに乗ってるのに?」
「それ以上は訊かないでくれないかな……!?」
「ふ、フハハハハハ!!!!……本当に君は面白いよ!!楽しみがいがある!!」
「何か……バカにされた気がする……」
「落ち着くのですよ薫」
「(そうだよ)」
二人に落ち着くように促される。それはそうなんだけど……。
「後はキリンって魔法が見たいけど……使えないんじゃしょうがないよね?」
「待ってくれるなら使うけど?」
「はは……お断りだよ!」
そして、再び戦闘を開始しようとしたその時、港町からパァンン!!と音がする。
「なんだ?」
その音に、シェムルと僕は戦闘を止めて隙をつかれないようにお互い警戒しつつ一度そちらを見る。すると、今度は青い光が眩しく輝いている。
「……まさか……召喚魔法?」
「多分、使ってるのは泉とフィーロなのです……」
あ~あれか……この真下にいる魔獣の数を相手にするにはちょうどいいやつだろうな…………ん?
「あれ?これって僕たち巻き添えになる?」
「……あのお風呂場での騒動の時、私、髪を洗ってて見てないので分からないのですが……そんなヤバイのですか?」
泉たちがどれだけ再現できるかの問題だが、ゲームでのアレの攻撃パターンを考えるとかなりヤバイ。
「……ユニコーン!全速力で避難!!」
「(え?りょーかい!?)」
僕たち急いでその場を離れようとする……が。
「逃げれると……?」
逃げようとする方向にシェムルが先回りして攻撃を仕掛ける。それを籠手にした鵺で受ける。
「アレの餌食になりたくない!」
「アレ?」
そうアレ!早くこの場から……しかし、僕たちの行動も空しく……飛んできた青く光る魔石が、僕たちの近くに着水。そして、あれが海上に現れた。
「(わーお……)」
「キレイ……」
「邪霊神セイレーン……」
手にハープを持ち、水色の青い髪をした超絶美人な女性……いや。青い悪魔がこの地に降り立ったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「港町ダゴン・海の見える噴水広場」泉視点―
「出来たわ。これで水属性の魔法が強化されるわ」
手に持った手帳を閉じたカシーさんがそこから数歩下がる。カシーさんがいた場所には人が一人入れるぐらいの大きい魔法陣が出来ている。
「後は……」
私は自分の杖、ヨルムンガルドを手に持つ。魔石は……。
「うちが持つッス」
フィーロが魔法陣の中に入って魔石を上に掲げる。私も魔法陣に入って準備が完了する。
「じゃあ、合図をするわ」
そう言って、カシーさんたちが上空に赤い球を打ち上げてそれが破裂する。
「これで全員に伝わったな」
「ええ……ワブー。召喚獣の記録をお願いね」
「ああ」
ワブーが手に持った小型カメラを構えていた。研究記録として撮るとのことだ。
「おーい!」
すると、遠くからカーターさん達が近づいてくる。
「全員退避が終わった!いつでもいいぞ!」
「で、どんな奴がでてくるのか……美人で怖いって?」
「「え!?」」
カシーさん達がこれから使う召喚魔法の情報を聞いて驚いている。
「それは見てもらえれば……さてと……」
私は気を引き締める。確か薫兄は集中力を高めるために呪文みたいな詠唱をしたって言ってたな……となるとあの敵キャラが言ってたセリフね。目を瞑りあれを倒すために何度も見る羽目になったシーンを思い出す。
「人々の苦痛と疑心に快楽を見出し邪神よ……」
「邪神?」
「汝に施されし、おろかな神の楔は解かれた……」
「ん?」
「今こそ汝、その悪意で世界を包み堕とせ!」
「ちょ!!」
「見よ!これぞ人々の恐怖から現れし狂気!邪霊神セイレーン!」
何か合間合間で変な言葉が聞こえたけど、そこには全く気にせずに詠唱を言い終える。そして、私が目を開くと、ものすごく青く輝く魔石が海に向かって飛んで行った。
「成功した?」
「後は見守るだけッスね……」
「いや!?お前ら変な事を言ってなかったか!?邪神とか悪意とか!?」
「うん?だってゲーム内だとそんなセリフを敵キャラが言ってたから……」
「だからって邪神を呼ばないで下さい~~!!」
ふと声のする方を向くと、オルデ女王が兵士を連れてこっちに来た。
「今、邪神って言いましたよね!?どんなヤバイ奴が出るんですか~~!?」
「大丈夫ですよ。流石に本当に世界を滅ぼすような力は無いはずですから」
「世界を滅ぼす!?……待って!はずじゃないですよ!?はずじゃ!?」
オルデ女王が泣きながら訴えかけてくる。ただ……。
「ふう……」
私はその場に座り込む。
「ちょ!泉!?」
「って?大丈夫ですか~!?」
「薫兄みたいに、ぶっ倒れはしないけど……疲れた」
「やっぱり召喚魔法は負担が大きいのね……」
「それを軽減する方法も考えないとな……」
皆が邪神を呼んだことに驚きながらも私の心配をしてくれる……カーターさんが顎に手を当てて何か考えている?
「ってカーター?あなたさっきから静か……というか額から汗を流してどうしたの?」
確かに、考えているというかしくじったというか……そんな表情を浮かべている。
「……薫とレイス……あいつら今、海上で戦っているんだが……」
その言葉に全員が、しまった!という顔をする。
「だ、大丈夫なはず……あれの攻撃パターンを把握してるはずだし……」
「俺達が薫の所に……!」
「待ってください!!行くなら第二形態の時に!!第一形態だと周囲に仲間がいるのは危険です!!」
「仲間がいると危険?どんな魔法なんですか~~!?」
「あれ……人?」
近くにいた兵士の一人が指を差す。その先には魔獣が暴れている海の中にポツンと人型の召喚獣が現れていた。ワブーがすかさずカメラを向けている。
「泉……」
「何ですかカーターさん?」
「第二形態になったら言ってくれ。すぐ薫の所へ飛んでいく」
「……分かりました」
まあ……SNS上では超有名な理不尽モンスターとして紹介されているけど……一緒に討伐したから問題ないでしょう!……多分。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「港町ダゴン・海上」―
「二人共!全力回避!!攻撃より回避専念!」
「(何?何が起こるの?)」
ユニコーンが訊いてくるが、そんな事お構いなしにセイレーンは手に持っていたハープを引き始める。神話とかに出て来る通常のセイレーンとは全く違うゲームオリジナルの完全なる別物。今のセイレーンの行為はただの挑発。周囲の敵……というかプレイヤーにここにいると知らせているだけの行為。そして、海にいた魔獣はセイレーンの挑発を受けて集まってくる。
「グフォオオオオオオ!!!!」
そして、巨大な鮫型の魔獣がセイレーンをその大きな口で襲う……するとセイレーンが弾け、その瞬間、そこから水で出来た魚たちが大量に現れて周囲を漂い始める。それはどんどん増えていき、海を……そして空と、ありとあらゆる空間を埋め尽くしていく。
「グフォ?」
先ほどの鮫に魚の集団が突っ込む。鮫はそれを大きな口で攻撃をするが、魚は二手に分かれて避けて、そして集団は鮫の胴体を包みこむように泳ぎ、そしてその形を変える。
「あ、あれ死んだな」
僕がそう言うと、それはクラーケンのような触手になり、先端が鮫をそしてもう片方は海上にくっつく。そして、それは鮫を上空に持ち上げて海上に叩きつけ始める。それを何度も……何度も何度も叩きつける。そこにはただ相手が死ぬまで海上に叩きつけるという無慈悲な行為……。
「(え?何あれ?)」
「空泳ぐ魚の群れ。っていう技だよ。効果は見ての通りで水で出来た物理破壊が不可能な水の魚が集団で襲い掛かって、ああやって敵に攻撃を仕掛けるっていう技。攻撃方法は多種多様。唯一統一されてるのは、相手が死ぬまでその行為を何度も繰り返すというぐらいかな?」
「(……何それ?)」
「それがセイレーンっていう召喚獣だよ」
そう言って、僕は涼しい顔で海の上でハープを引いているセイレーンを見る。
「これが召喚魔法……ね?」
シェムルが僕たちの周囲を泳いでいる魚を眺めている。
「大した事無いかな?」
シェムルがそう言うと魚の群れが襲い掛かっていく。しかし、シェムルはそれを風魔法で破壊する。そして、一部が僕たちを襲う。
「逃げて!こいつらからは逃げて!」
「(分かった?)」
僕たちはシェムルを置いて逃げる。
「だから逃がす……と?」
後ろを見るとシェムルの足に水の触手が巻き付く。
「さっき風で!?」
すると触手はシェムルを振り回し始めようとする。
「くそっ!!」
しかし、また風魔法で触手を破壊し抜け出す。でも、またすぐに再生し襲い掛かる。
「な!?」
物理がダメなら魔法で攻撃するのは正しい。しかし、所詮は水なので瞬時に再生する。魔法による攻撃はあくまで回避するための方法である。すると、シェムルもこれが破壊出来ないことを知って逃げ始める。僕が目線を変えると魚の群れは既に上空にもいて海上の空を覆い尽くている。
「泉……これで死んだら恨んでやる……」
SNS上で理不尽と謂われた悪魔からの超絶回避ゲーの始まりである。




