109話 情報交換
前回のあらすじ「あっさり味のスパイ」
―「薫宅・書斎」―
「そんな報告無かったわ」
「そうですか」
「となると……ドローンを飛ばした奴らはその二人組ってことね」
「一人はカイトって男の人ですね。もう一人は上手く聞き取れなかったですけど……」
「カイト……ね。本部長と話し合ってみるわ。何か分かるかも」
「お願いします」
これで何かしらの情報を得られるかもしれない。後は警察に任せよう。
「いいわよ。それより……あのイケメンの二人。まだこっちに来ないの?」
「そこですか……まあ、もうしばらくは無理かとあっちもすごく忙しいですから」
「分かってるわよ。でも、最近あの二人を見るためにひだまりにちょくちょく行ってるからね~……」
確かに交流という事で時々バイトしてもらってるけど……ご飯を目的に来て下さい……。
「まあ、明日あちらに向かうのでその時にでも聞いてみます」
「よろしくね~~♪それじゃあ♪」
そう言って、橘さんは電話を切るのだった。
「あのドローンの持ち主見つかったのです?」
今日一日、泉と衣服の作成してついさっき帰ってきたレイスが尋ねてくる。
「うん。やっぱり無許可みたいだけどね」
「でも、どこの誰かが分かって良かったのでは?」
「そうだね」
ジューーーー!!
「あ、やば!コンロの火つけっぱなしだった!」
急いで台所に戻って火を消す。鍋から盛大に吹きこぼれてしまった。
「ふう~……」
「何か手伝う事ありますか?」
「それじゃあ……」
僕は雑巾で吹きこぼれた個所を拭いていく間に、レイスにうどんが載った皿に野菜を盛り付けてもらう。今日の晩御飯はサラダうどん、そしてカボチャの煮物……お酒も一杯いきたいな……。その後、少し遅くなった晩御飯を二人で取って、明日の予定の為に僕たちは早く就寝するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―翌日「聖カシミートゥ教会・会談の間(仮)」―
「すいませんでした。うっかりしてましたわ」
「お気になさらずに。特に衣服にかかったとかなかったですし……」
会議が始まる直前に僕に注がれていたお茶を、娘の近況を聞きに来たソレイジュ女王がカップに寄り掛かった瞬間に零れるという事件が起きた。
「どうも娘と同じでうっかりというのが多くて……」
「まあ、ソレイジュ女王。薫もいいといってるからここまでにしておいてくれ。こいつも困るしな」
「サルディア王の仰る通りです。気にしないで下さい」
「はい。分かりました……」
そう言って、ソレイジュ女王が席に戻っていった……一瞬、オルデ女王を見たような?
「それでだが……ヘルメスか」
「あ、はい」
ローグ王の言葉に気を取り直して、僕たちの世界で起きた事件を各国の王様に報告。それがグージャンパマから来た物の可能性がある事を伝える。ちなみにだがこの前の会談の間は修理中の為、別の部屋で行っている。
「あれだけの肉体変化を起こすと、体の筋線維がズタズタになるのと元通りを繰り返して……まあ、考えたくもないような激痛で死ぬかもね。まあ、今回は早い段階で薫さんがポーションを使った事で死んではいないようだけど……」
僕を診るためにこっちの世界に来てしまった曲直瀬さんが報告する。あの後、こっちの世界の為に花田さんという女医さんとこちら向けの医学の指導もやっていていただいている。また、事情を知っているという事で県警からの要請を受けてバスジャック犯の診察もしたそうだ。
「あっちの医学に精通している私が断言します。あの変化はありえない。と」
「そうですか……」
「となると魔族がすでに?」
ヴァルッサ族長の言葉に皆が不安そうな表情を浮かべる。だが……。
「憶測だが……無いかもしれん」
「どうしてだ直哉殿?」
「神霊魔法だ。もしあいつらがヘルメスと繋がっているなら、神霊魔法……つまり、雷の仕組みをしってるなら薫の放つ雷撃にあそこまで驚くことはないはずだ」
「そういえば、シェムルも言ってたよ。これが神霊魔法か。って」
「それじゃあ……関係はねぇってことか?」
「全くとは言えないが……ただ、これまでの話を聞く限りないと思うぞ」
直哉の言う通りであって、もし魔族がヘルメスとつながりがあるなら、あっちも科学というのが伝わっているはず。そして世界には元素となる物が存在していて、厳密には違うかもしれないけど……魔法とはそれを魔力でコントロール出来る手法の一つと知るはずだ。むしろ……。
「……皆さんに訊くんですけど、異世界の門は各国で研究してたんですよね?」
「え~。そうですよ~」
「厳しい決まりの中だがそれでも研究を行っていたのはどこも同じだろうな……それがどうしたのだ薫?」
「なら、魔族も研究の中であっちに迷い込んだ者がいるんじゃないですか?それが協力してるとか……または死骸が残っていてそこから魔石を取り出した……とか?」
魔族は単体での魔法が使用可能である。もしかしたら異世界の門も使えるかもしれない。
「前者はどうでしょう?彼らは私達を支配しようとしていた。それなのにあちらの人間に協力するとは思えないかと、むしろ後者の方がピンと来るものがありますね」
「ソレイジュ女王の言う通り、後者の可能性が高いと思うぞ?」
「どちらにしても無視できない案件ですね……私共、ソーナ王国はヘルメスの調査に協力するつもりですが……」
「ドルコスタもだ。あっちにもそんな脅威があるというなら、今のうちに取り除くのがいいだろう」
他の国の代表も対ヘルメスへの協力を申し出てくれる。
「それでは皆さん。魔族そしてヘルメスの調査に関して各国が協力するということでよろしいですかな?」
コンジャク大司教の言葉に全員が手を上げて同意する。
「とは言っても、こちらは表立った行動は出来ないから、やはり薫殿に迷惑をかけるのだが」
「まあ……気にしないで下さい。僕の小説のネタにもなるので」
「だが……個人で調べるのも警察に頼んで調べるとしても少し難しいだろう。何かしら対策を練らないとな」
サルディア王の言う通りである。こっちを知る関係者じゃないと困るし……。
「直哉は何かいい案無い?」
「ある」
直哉の言葉に皆が顔を向ける。
「それは?」
「……私の会社のスパイが誰かが分かった。そして情報がどこに行ってるのかもな」
「え?スパイって!?」
スパイって……本当にいたの?
「まあ……そろそろあっちも潮時だろう。近々、会いに来ると思うぞ。お前にな」
「それって誰?」
「お楽しみだ!まあ、安心しろ悪い奴ではないはずだ!……多分」
多分って……。まあ、警察にお願い出来るような人だから、どんな人かは想像できるけど……。というより、僕たちの身の安全は守られるのかが心配だけど。
「ということで、今度はそいつらにお願いすれば問題無いだろう。お前も想像はついてるだろうしな」
「でも……」
「大丈夫だ。そこの曲直瀬医師もすでに連絡を取り合っているぐらいだからな」
ここにいる全員が一斉に、え?と声を上げる。何とスパイがここにいると!?
「まあ……検疫の関係で依頼されましたから。あ、ちなみに未知のウイルスとか病原菌は見つかりませんでした」
この前の健康管理と称した献血はそれですか……。
「それはいいが……誰かは言えないのか曲直瀬殿?」
「あちらから正体を明かすとのことなので……」
「分かりました」
「分かった。っていいのか薫?」
「すでにどんな人が来るかはある程度は想像出来ているのでどんな大物が来ても問題ありません。それで曲直瀬医師から見ても協力を仰げる方ですか?」
「問題無いと思いますよ。私も、そしてここにいる花田も融通をかなり利かせてもらっているので」
隣に座っていた花田さんも頷いている。
「それなら今はいいです。協力を仰げる人なら問題ありません」
「そうしたら、その方に協力を仰ぐという事でよろしいでしょうか?」
「僕はそれでかまいません」
僕がそう言うと他の代表も、それなら。ということでこの話はここまでとなった。
「それでは……」
「大変です!!」
コンジャク大司教が次の議題に入ろうと何か言おうとしたところで修道士が扉を乱暴に開けて入って来る。
「会議中、許可なく入ったことをお詫びします!」
「それはいいです。それで何が?」
「アオライ王国から伝令!大型の魔獣達に港町ダゴンが襲われているとのことです!!」
「え!?あそこは!」
「えーと……ダゴンってどんなところなんですか?」
「今、魔獣との戦いに備えて戦備の中心となっている町であり、王都です!な、何とかしないと~~!!」
オルデ女王が慌てている。
「薫殿!済まないが頼めるか!?」
「大丈夫です!ただレイスが……」
「ビシャータテア王国にいる泉さん達とカーター達をすぐに呼んできます」
今回もレイスは泉たちと行動をしていたため、ここに来る際に一緒に来て、サルディア王の護衛として会議中静かにしていたシーエさんたちが泉たちを呼びに動き始める。
「カシーとワブーはどうするんだぜ?」
「そこはハリル達にお任せします……ということでいいですか?」
「心得ました」
「すぐ呼んでくるとしよう」
僕の横にいつの間にかいた二人はそう言ってまた消えた。
「戦える者をアオライ王国へ!!自国の警備は怠らないように!!」
アオライ王国で起きている魔獣との戦いの為に各国が動き始める。
「僕も準備しとこう」
僕は一室を借りていつもの服へと着替えるのだった。




