108話 何か情報を!
前回のあらすじ「国家参入!」
―事件から翌日「笹木クリエイティブカンパニー・第一工場」―
「凄いですね……このドローン。良い技術者が丹念に作った力作ですよ」
笹木クリエイティブカンパニーの社員の一人が僕の持って帰ってきたドローンを見てそう感想を述べる。今、僕は直哉と榊さんに橘さん、それと各国の賢者と一緒に昨日の事件について話し合いをしている。
「これは部品を買って一から作り上げた物ですね。それだから販売元から個人の特定は無理ですね。あ。それと薫さんがこれを壊して持ってきて正解でしたよ。これ……発信器です」
そう言って、社員さんが部品を取り出して見せてくれた。
「そう……できればどこの誰か特定にいたるような物があればと思ったんだけどね~」
「部品はどこからだ?」
「基本は日本ですね。それと後は……自作。3Dプリンターを使ってのオリジナルかもしれないですね」
「はあ~……それじゃあ無理ね」
せっかく持ち帰ってきたが、無駄骨に終わりそうだ。
「逆に言えば資金が豊富な優秀な技術者といえます。何せ薫さんの画像を見せてもらいましたが音が全くしない。プロペラ、モーターなどかなり改造してるんだと思います」
「つまり、その技術を使って儲けてる可能性もあると?」
「憶測ですが……」
「まあ、そちらはそれで調べてみましょうかね……あまり期待はしないでもらいたいけど」
「うん」
橘さんの表情からして恐らくいい成果は出ないだろう。
「それで黒の魔石の件なんだけど……」
「一部削られたとかは無かったわ。それだからもしあの肉体変化が黒い魔石をしようしたとしたら、ここのとは別物よ」
「注射器の中身を調べれればいいのだけど……あれは警察庁に持っていかれたし……これもお手上げね」
つまり、何も情報を得られなかったということ……か。
「そういえば黒い魔石って何なの?」
「それが……不明なのよね。何に特化しているのかが掴めないのよ。あの悪魔で考えると火属性、巨大化、形態変化……それと多少の精神操作かしら?」
「他の賢者もその意見に賛成だ。ただ、それを使える人物がいないから実験も出来ないがな」
「そう……」
「とりあえず、あれの管理に関してはより厳重にしとく。他のグージャンパマから持ってきた資材と一緒にな」
「資材?」
「私達がこちらの開発で利用できないかと思いまして持ってきたんです。えーと……基盤というところにこれは使えないかな~……とか」
「こちらの商品の売り上げがそのまま研究資金になるからなここは各国協力してやるぜ。この前のミスリルとかは最高だったぜ」
「ははは……」
ローグ王からは、え?こんなに!?と驚いて目を丸くして開いた口が塞がってなかったけど。
「私からもお願いするわ。どうやら不審な輩がウロチョロしているみたいだし。そもそもドローンを許可なく飛ばしている時点で捜査対象よ。この事は本部長にも言っておくわ」
「そうえいば……橘さん。本部長さん大丈夫なんですか?僕たちに協力を仰いでたし……」
「そのことだけど……特に処分は無い。って長官から直々に言われたそうよ」
「そうなんですか?」
「ただ……彼らの動向はしっかり監視するように。って言われたそうだけど」
「……彼ら。か」
妖狸が男だと知っているということだ。
「だから、今はマスコミとかの対処で忙しい。って言ってたけどね。あ、忘れてたけど、今度、正式にお礼を述べに伺うのでよろしく。だって」
「う、うん。分かった」
何かどんどん事の内容が大きくなってるような……リアルで夜道に後ろから刺されかねない気がする。
「それじゃあ、私は戻るわ」
「はい。ありがとうございました」
そう言って橘さんは工場から立ち去っていった。
「それじゃあ、僕もひだまりに戻るね」
「ああ。また今度、昼時に行くからな」
そして、僕も工場を後にする。魔族に四天王……そしてヘルメスに国家……何かどんどん凄い事に巻き込まれている……小説にしっかりと生かさないと!!ひだまりの仕事が終わったら小説家としてのお仕事も頑張ろうと思いつつ、僕は笑顔で車に乗り込むのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―その日の夕方「カフェひだまり・店内」―
(今日のイチオシ!は昨日と引き続きヘルメスのバスジャック事件についてお伝えします)
テレビで昨日の事がやっている。お客さんの中にも今回の事件に興味津々なのかテレビの方を見ている人もいる。その映像には僕がバスの天井を真っ二つにしてる所や、筋肉ダルマを妖狐が吹き飛ばし僕がトドメを差す所、そして僕がそいつを元に戻す様子がかなり長い映像として流れる。
(まずは……ヘルメスのアレですよね)
(ええ。今回の件で公になったことで、あの肉体変化は他の国でも起きている事が分かりました)
(医学から見てもあの変化はありえません。普通なら変化に対応できずに死んでもおかしくないはずです)
(ただ犯人は全員生きているようですが……)
(ええ。恐らくは妖狸が適切な処置……あの液体を掛けたことで一命を取り留めた所でしょう)
(他の国では捕まえる際に死亡。その多くは暴れてしばらくたっての心臓発作が原因と噂されています)
(噂ですか!?原因分からんのですか!?)
(一部市民からもその点では批判が出ているそうです。政府の隠蔽だと)
(前々からはネット上ではそんな話が出ていましたが……今回のこの映像が決め手になりましたね)
映像を見ると、ヘリからの中継だけではなく、どこからの建物の屋上から撮っているものもある。これだけの映像が残っている理由として妖狸騒ぎで多くのマスコミが集まってたのが原因とも言っている。
(妖狸騒ぎからのこの事件……多くのマスコミがひしめく中で隠す暇も無かったでしょうね)
(ヘルメスもそうですが妖狸と妖狐……彼女達は一体?)
(もはや、ただの凄腕マジシャンで済まないですね)
(今回の件でより多くのメディアが彼女達に注目しています。それにあの生物も、あれは馬では無く本物のユニコーン……そして、小人も生物として実在するのでは無いかと……)
(警察!警察は何か知ってるんですかね!?妖狸に捜査協力を頼んでるぐらいですし!!)
(記者会見ではその日たまたまパトロールしていた巡査が彼女達を発見。ただ捕まえるのは不可能と判断して、その場で事情聴取をしていたそうです)
(そこで、今回の事件が起きたから捜査協力を申し込んだと……)
(信じられませんな~~……)
(多くの専門家もこの説明に一部否定的です。なお今回の事件で妖狸に捜査協力を仰いだ本部長の処分は行わないとのことです。……次のニュースです)
「はあ~!!凄い事になってるね!!薫ちゃんもそう思わないか!?」
「そうですね……」
テーブル席で気持ちよく飲んでいるおじさんたちから訊かれる。はい。そうですね。当の本人からしてもそう思います。とは言えないので自然な感じで嘘を付く。このおじさんたちは常連でここが居酒屋では無いのは分かってるので大騒ぎしたりすることは無い。ただ僕に絡んでくる程度だ。まあ……キャバクラの女性みたいな感じらしいが……。
「しかし……本部長の処分しなくていいんかね?」
「出来無いみたいですよ。今回、本部長の処分をすると多くの市民から批判がくる恐れがあるからって。知り合いのお巡りさんが言ってましたよ」
「まあ今回、犠牲者ゼロ。バスの運転手も一命を取り留めた。しかもだ!犯人も全員生きたまま確保!その要因は妖狸達も関係してるからな~……まあ、適切な判断と言えるな!」
そう言って、笑いながらチョリソーを頬張りキンキンに冷えたビールを勢いよく飲む。
「しかし……妖狸達ってどこに住んでるんかね?この辺りって噂にはなってるけど?」
「そうそう!結構訊かれるんだぜ!この辺りにちょっと変わった噂は無いか?ってね!いや~!いい美人の外人女性だったよ!!ははは!」
「それは羨ましいな!しかし、そう言うと薫ちゃんが妬いちゃうぞ~!」
「男としてそれはありません。酔っ払い過ぎですよ」
これ以上は変な絡まれ方をしそうなので、マスターのいるカウンター席へと避難する。
「大変だな」
「ここはガールズバーじゃないんだけどね」
「確かに」
「薫ちゃん。それで大丈夫なの?」
「昌姉?」
「これだけ騒ぎになるとどこかの誰かに知られたりとか……」
昌姉が少し首を傾け、手を頬に当てて訊いてくる。
「今の所は……大丈夫かな。泉もそんな人はいないよ。って」
「そう?」
「うん……ただ、違法にドローンで僕たちの事を探っている人がいるみたいだけどね」
「昨日言ってた件か……何か分かったのか?」
「ぜんぜん。詳しい人でも流石に……」
「薫ちゃん達が心配よ……女の子だけの暮らしは危険だし……」
「……全然心配してないでしょそれ?」
「心配してるわよ。もしかしたら薫ちゃんを知った暴漢が薫ちゃんの寝込みを襲い掛かって……」
「そして、こいつにコテンパンにされて庭の木に逆さ吊りにされる……と」
「マスター……僕をどんな風に見てるの?」
「はははは!冗談だ。まあ、何か違和感があったらさっさと警察に相談しろよ」
「分かってるって」
~♪~~♪
お客さんが来たようだ。
「いらっしゃいませ!」
入り口を見るとそこには男女の外国人がいた。姿からしてジャーナリストかな?
「二人なんだけど?」
「それでしたらこちらへどうぞ!」
女性の方が流暢な日本語を喋る。僕は二人を席へと案内する。
「ありがとう」
「こちらメニューなんですが……日本語分かります?」
「ええ。大丈夫よ」
「そうしましたらご注文がお決まり次第呼んで下さい」
「分かった……」
「お!美人の外人さんじゃねぇか!」
飲んでいたおじさんが女性の方を見て反応する。先ほどの話に出ていた人ってこの人か。
「はいはい。迷惑になるので絡まないで下さいね」
昌姉がすかさずおじさんを嗜める。そのままおじさんは昌姉とお喋りを始める。絡み酒か……あのおじさん。
「申し訳ありませんでした……」
「いいわよ。今日、あの人に取材したのは本当だし」
「取材……となるとジャーナリストの方々なんですね」
「ええ。昨日の事件もバッチリ取材したわ。ねえ。カイト?」
「……」
「お相手の方……元気が無いようですが?」
男性の方は顔面からテーブルに突っ伏している。
「まあ……色々あってね。カイト!注文しないと迷惑よ」
「だって……僕の…ドローンが……」
「へ?」
ドローン?今この人……。
「こいつドローンを使って警察に没収されたのよ」
「ああ!なるほど!」
「薫ちゃ~ん!!注文いいかい?」
「はーい!それではごゆっくり!」
お客さんがナイスタイミングで呼んでくれた。……ドローン。まさかこの二人?僕が注文を取りつつ、二人を見ると女性の方が男性に対して何か小声で怒ってるようにも見える。
「橘さんに訊いてみるか……」
この後、普通のお客様として彼女達と接するのだった。まあ……僕を男と分かって盛大に驚かれるのだったが。




