107話 実は結構バレている
前回のあらすじ「延長戦」
―「車両内」ミリー視点―
「うわーーーー!!!!僕のドローンがーーーー!!!!」
カイトが画面を前にして号泣する。妖狸の方がかなり用心深い奴みたいで、中にはいっていた発信機もやられたようだ。
「残念でした。さて撤収しましょうか」
「ミリー!!!!慰めてくれないかな!!!!」
「また、作ればいいでしょ……それより、あれよあれ。何?ユニコーンって?聖獣と契約してるって何?賢者としても破格のレベルでしょ!?」
「ぐすん……まあ、そうだね……。しかも、僕のドローンを捕まえたあの術……間違いない風じゃないアレ重力操作だよ……。まさか、あんな呪文が出来ているなんて……うぁああああーーーー!!!!」
私は両耳を塞いで、このやかましい声を遮断する。しかし重力操作か……。となると地属性の魔法使いなのかしら?とりあえず、私は運転席に戻って路肩に停めていた車を走らせる。
「それでどうなの?警察からは何か分かったのかしら?」
「いや。そっちは見つからなかったよ」
「……そっち?」
「……アメリカ。CIAから情報が取れたよ」
「CIA!?待ちなさいよ。じゃあ!あっちは妖狸達が何者か知っちゃったってこと!?」
そんな所にカイトがハッキングしたことにも驚きだがそれどころでは無い。
「いや。分かったのは妖狸に接触した人物だ」
「誰?」
「笹木クリエイティブカンパニーというところに勤めている会社員だ」
「詳しく聴かせなさい」
その後、カイトが手に入れた情報を運転しながら私は聴くのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―バスジャックから数時間後「アメリカ・ゴルフ場」菱川総理の視点―
「そうか……後の事は頼む。ああ……それじゃあ」
友人である警視総監からヘルメス逮捕の報告を受けて、安堵しながら電話を切った。
「何かあったので?菱川総理」
これからゴルフボールを打つために軽く素振りをしていた還暦を過ぎた男性から英語で尋ねられる。
「ヘルメスですよ。たった今、確保されたと」
私も英語でその問いに答える。
「ああ。それは大変だったな。わが国でも我が物顔で暴れていて大変だよ。ただ……いいのかなこんな風に、私とゴルフに興じていて?」
「ご心配には及びませんシャルス大統領。それに……先ほど、あなたが話された方はCIAの関係者じゃないですか?報告の内容は今回の事件…」
「ふふふ……そうだとしたら?」
「あなたも人が悪い……今回のアメリカ訪問からのこのゴルフ。周りからは普段と変わらない訪問と見せかけて、こんなところで重要な話をするためなんて少々大胆なのでは?」
ここにいるのは私達二人にお互いの付き人一人ずつ。あまりにも不用心だが他の誰かに聞かれる心配は無い。
「ははは!まあ、彼女達は注目の的だからな!……で?あのヨウカイと言われる彼女達は何者だ?」
彼女達……か。どうやら妖狸達の正体には至ってないようだな。
「だと思いましたよ……。妖狸達が活躍したあの大火事の際に彼女達と接触した人物が有名なスマホの地図アプリを位置情報をオンにした状態で使ったという報告を受けた段階でそちらに伝わったと思いましたよ……火災現場に向けて建物をすり抜けて移動してるように映ってたんじゃないですか?」
「ああその通りだ。お陰様でその男性が何者かで、その男が勤めている会社が出している浄水器が謎の技術を用いて作られた事も分かっている。……それと君は知っているかな?ヨウカイが君達が極秘に開発した謎の兵器を装備した兵じゃないかとね……。そんな情報一切流れていないぞ!どこの機関だ!!と、何も知らない各国のスパイは大慌てだよ!ハハハ!!」
「ですね……私も内調から受けてますよ」
「その様子だと……あれは君達の国が作った兵器では無いと?」
「国は関係していません。ただ、何が起こっているかは全て把握してます」
「ほう……それではあれは何なのだ?」
「唐突ですが……大統領は魔法を信じますか?」
「……非現実的だね」
「その非現実的が起きてしまったんですよ。我が国で」
「ほう。その証拠は?」
「これです。恐らくそちらが調べた浄水器にもこれが入っていたかと」
私は持っている魔石の一つを取り出す。大統領は素振りを一旦止めてそれを受け取る。
「……石。報告とは色が違うようだがね」
「それは魔石でも火を宿しているそうです。人が念じる事で火を発生させることが出来るそうです」
「ほうほう……どれ」
そう言うと、掌に乗せていた魔石から火が出て消える。それを何回か繰り返す。
「これは面白い」
そして次は緑色の魔石を持ち、私が使い方を説明するとそれは風を起こし始める。
「お気に召して何よりです。そちらはプレゼントしますよ。使用可能期限は半永久的で、しかも周囲の環境に影響しないそうです」
「何だと!それは本当か?」
私のこの発言にさっきまで冷静だった大統領が驚きを見せた。無理も無い。半永久に使えるライターと言えば少々しょぼい表現にはなるが、これがもっとたくさん用意出来て、それを火力発電に使用出来たら?……エネルギー資源を多量に使わない夢の半永久的に動く発電所の完成……それは多くの国にとって脅威に感じるだろう。
「ええ。既にあちらでは少なくとも千年以上は使い続けられていて、市民も簡単に手に入るこっちのライターと同様の扱いだそうです。まあ、あっちでの調査が進んでいないので本当に半永久で環境に影響を及ぼさないかは確証はないですが……」
「あっち?」
「……異世界。彼女達は我々の住む世界とは違うもう一つの世界へ行けるゲート。それの第一発見者ですよ」
「な!?」
「そして、こちらの人間であちら……グージャンパマに自由に行けるのも妖狸達のみだそうです」
「…………なるほど。これは」
私の言葉に驚きつつ、手で口元を抑えて考え始める。
「君は……これをどうするつもりかね?」
「正直言って、要検討中ですね……こんなのがポンポン周囲に出回ってしまったら我が国がこの星の終末時計をゼロにしかねない……ただ他の国が黙って見ていないでしょうが……」
「ああ!分かってる!!……それもそうだがこんなのがあのヘルメスにでも渡ってみろ。君の言う終末が来てしまう……これは慎重に扱わないといけない件だ」
「分かっていただき助かります。本当ならあちらにご招待したいところですがね」
「君は行ったのか?」
「いえ。行ったのは私の……」
私は大統領にこの情報の入手経路を説明する。
「……なるほど。道理で情報の拡散がここまで少ないわけか……」
大統領は首を振って理解したという仕草をする。
「……とりあえずですが、そろそろ妖狸達と直に接触するつもりですよ。今回の事件で彼女達は警察と関係があるのでは?とスパイ達も考え始めるでしょうからね」
「……ああ。そうだな」
その後、しばらく黙ったままゴルフをプレイしていく。そして、大統領が見事にチップインを決めると再び話し出す。
「今回、我々もそちらに協力しよう。異世界のゲートが日本にある以上、輸出してもらうにもそちらの国の許可が必要になるだろうしな」
「ありがとうございます」
この反応は予想出来ていた。日本への変な対応をすればグージャンパマの各国が黙っていないのだから。
「だから……君達に情報を少し」
「情報?」
「先ほど話したCIAからの、この情報が何者かにクラッキングされた」
「な!?CIAにクラッキング?」
「それとだ……眉唾だと思っていたが今、君の言ったグージャンパマという異世界を知ってる組織がある」
「まさかヘルメス?」
「いや。彼らはラエティティアと名乗っている」
「ラエティティア……」
「恐らくだが……そこが今回CIAからの情報を盗んでいる」
「何故そうだと?」
「永遠に燃える火、止まることの無い風、そして永遠に光り続ける光……それらを可能にする石……」
「まさかそれを持っていると?」
「……それを見たという話もある。しかし、それが永遠と確たる証拠も無ければ、こことは次元が違う世界から来た神秘の石と言ってるからただのオカルト集団かと思っていたがな」
「……でも日本では聞かない組織の名前ですね」
「彼らの組織は日本には無い。何故かは知らないが……」
「ああ……いや。分かりました」
納得した。すでに妖狸がその答えを披露している。
「というと?」
「我が国の陸地の面積が圧倒的に少ないからです。偶然にも今回は日本の国内、しかも陸地にゲートが固定できたようですが、それまでははるか上空だったり、海の底とかもあったらしいですから」
「どうりで国土が大きいところばかりに支部を設けていたわけだ」
大統領が大きなため息を吐いた。これまでの情報量に頭が追い付いていないのだろう。近くにいる付き人は聴き入って一言一句逃すまいという感じだが。そんな話をしつつ次のホールに向かうためにカートに乗り込む。
「そして、ラエティティアもヘルメスも同様に未知の技術を持っている可能性がある」
「未知ですか……」
「ああ。今回のそちらの事件で公になってしまうだろうが、ヘルメスが使用したあの肉体変化は他の国々でも起きている。報道に出る前に各国がもみ消してはいたがね」
「ラエティティアも?」
「ラエティティアの方は良く分かってはいない……が、ある国の政権を裏で潰した可能性があると不確かな情報が出ていたのだが……どうやらそれも本当だろう」
「ヘルメスにラエティティア……そしてグージャンパマ……どんな関係が?」
「それを調べられるのは君達だけだろう。もし必要なら大使も使ってやってくれ。それとだがこれからはより念密な情報管理を。私達も信頼できる数名にしか今回の件を伝えない」
「分かりました……ちなみに、妖狸達には話しても?」
「……事の中心にいる彼女達に伝えないで調べるのは不可能だろう。それと笹木クリエイティブカンパニーにも……な」
「そうしたら……」
自分の付き人に予定を入れてもらう。彼らと会う予定を。




