106話 事件解決…そして謎
前回のあらすじ「マッスル!マッスル!筋肉はマッスル~♪」
*明日も投稿します。良いお盆を!
―「笹木クリエイティブカンパニー・事務所」直哉視点―
「な、何だあれ?」
テレビには謎のマッチョが映っている。見ていた女子社員の一人はその異常な見た目に嫌悪感を表している。
「薫さん大丈夫ですかね……」
「それは大丈夫だろう。そもそもあの悪魔と戦って生きてるんだからな。それにいざとなれば上に逃げられるしな」
「あ、なるほど」
肉弾戦しか出来ない飛べない相手が遠距離攻撃が可能な飛べる相手とまともに戦えるはずがない。
「ただ……そうなると、どうやって相手を生きたまま無力化するかだな」
私はまた黙ったままテレビを見始めるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「高速道路」―
「ウオオオオーーーー!!!!」
ユニコーンが相手の攻撃を見て高速で躱す。
「すまない。少しだけ考えるから時間をくれ」
「(りょーかい!)」
ユニコーンが自動で避けてくれるので、相手を確保する方法を考える。
「やっぱり雷刃なのです?」
「そうだな。スタンガンの要領で……いや。そもそも雷撃でいいような……雷撃」
僕は試しに黒剣状態の鵺を前に出して雷撃を放つ。そして走ってくる筋肉ダルマに直撃した。
「効かん!効かんぞ!!ファハハハハ!!!!」
確かに少しだけ動きを止めただけで全く効いていない。それを見たユニコーンは攻撃してくる筋肉ダルマを冷静に躱す。
「……ダメか」
「もっと強い攻撃は?」
「雷刃だと切ることになるが……」
「それでも犯人……大丈夫かも」
ここまで頑丈なのだ。結構なんでも切っている名刀級の鵺の斬撃。さらには獣王撃でも軽症の可能性がある。
「それに……隙が欲しい所だな」
しかも、こいつ意外にスピードがあるのだ。避けて殴れなくもないけど……と、そんな事を考えていると筋肉ダルマはバスへと走り出していった。アイツまさかバスの人を!?そう思っているとバスから悲鳴が上がる。しかし……すでに魔法使いが杖を構えていた。
「トルネード!!」
上級魔法であるトルネードの威力で流石の筋肉ダルマも浮かび上げられる。
「妖狸!レイス!行くッス!!」
僕たちは打ち上げられた筋肉ダルマのさらに上に飛び、僕はユニコーンから筋肉ダルマに向かって飛び降りつつ鵺を籠手にする。相手も僕たちに気付いて手を前にして防御態勢をとるが問題無い。
「獣王撃!!」
強力な斥力の衝撃で筋肉ダルマは高速道路へと落ちて、ちょっとしたクレーターを作った。そしてそのままゆっくりあいつの近くへと着地する。
「……倒した……のです?」
物語ならお約束である、いきなり襲い掛かってくる!があるかもしれないと籠手を装備した状態でファイティングポーズを取って構えていたが……起き上がって来ない。
「……これは死んで無いかの心配だな」
そう言って、戦いを少し離れた場所で見ていたお巡りさんたちも見に来た。……流石に塀の中に入るような事は勘弁して欲しい。そして、一人のお巡りさんが慎重に筋肉ダルマに近づいて確認を取る。
「……どうやら気絶してるようだな」
「そうですか……ただ、これをどうやって捕まえれば……」
「とにかくバスを安全な場所へ移動させたらどうだ?」
「……そうだな。楓!そのままさっきのサービスエリアまで運転してくれ!」
「はい!」
「あ、待って!……こいつらはパトカー行きよ!」
バスからの泉の声を聞いて、すぐにお巡りさんたちがバスへと向かい犯人二人に手錠をかけて状態で連れ出しパトカーに乗せた。その際にバスに爆破物が置かれていないか確認も取って移動を開始する。
「ありがとう!!」
乗客が僕たちにお礼を言いつつバスはサービスエリアへと走り去っていった。
「良かったッスね」
「ああ……それで、これをどうするかだな」
残された筋肉ダルマに僕たちもお巡りさんたちも困り果てる。
「こいつ手錠ぐらいじゃあ引き千切るぞ?」
「そうだな……」
「ロープで縛る!なんてそれも無理ぽいっすね~」
「そんな物があるのです?」
「流石にそれは無いっす~!」
変なポージングして答える……なら何故言った?
「うーん……妖狸」
若干、チャラいお巡りさんの言動に不快感を感じているとレイスが袖を引っ張って訊いてくる。
「うん?何だレイス?」
「ハイポーションは?あれって体を元の状態に戻しますよね?」
「そういえば……そうッスね」
「しかしそれだとこいつのケガだけ回復させてすぐに襲い掛かってくる可能性もあるのだが……いいか?」
僕はお巡りさんに試しにハイポーションをかけていいか確認する。すると、先輩と呼ばれていたお巡りさんから許可を貰えたので、皆には離れてもらい、僕はアイテムボックスからハイポーションを取り出してかけてみた。するとすぐに筋肉が収縮していき……元の姿に戻った。
「これで大丈夫か?」
「恐らくは……な。あの注射器も回収だな……」
ハイポーションをかけたがまだ気絶している犯人はそのままお巡りさんに手錠を掛けられて連れていかれた。
「そういえば……バスをここから移動させちゃってますけど、現場検証とかはよかったんですか?こういうのって先にやってますよね?」
「ああ……まあ、あのままだとバスがこいつに襲われかねないし。緊急避難ということで、それにいつまでも道路を封鎖とはいかないからな」
「へえ~……」
泉が疑問に思ったことを訊いて納得する。ということで無事に事件が終わったし……。
「妖狐。帰るぞ」
「あ、うん」
そのまま、僕たちはユニコーンに乗る。…………誰も僕たちを止めないけどいいのかな?
「捜査の協力……感謝する!」
そう思っていた僕たちにお巡りさんたちは敬礼。少々、その行為に驚きつつも僕たちは答礼してその場を離れるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「高速道路」ある先輩警官の視点―
妖狸達が馬に乗ってどんどん空へと走っていきその姿が小さくなっていく。
「いい~んですか!逃がしちゃって!」
チャラいこいつがふと疑問に思ったことを訊いてくる。
「まあ、助かったのは本当だしな。それに……ここで捕まえたら市民から非難轟々だ」
「でも……それでも警察官である俺達は捕まえないといけないのでは?」
他の奴らからも逃がしていいのか訊かれる……が。
「……安心しろ。すでに逮捕済みだ」
「「「「へ!?」」」」
ここにいる十数人の警官達が驚き声を上げる。俺も楓と別れたあの後にパトカーの無線から本部長のこの連絡には驚いた。
「俺も聞いた時は驚いたがな……まあ、所在は本部長が把握しているらしい。今回は民間人としての協力を仰いだそうだ」
「ほ、本当ですか!?」
「言っとくがこれはここだけの話だからな!他の誰にも言うなよ!……というわけで、ぼっとしてないでさっさとやることをやるぞ。ここ……暑いしな」
今は夏。高速道路上は灼熱地獄である。さっきまではこの事件で気にしていなかったが、汗をたっぷり含んだ服が肌にくっついて少々不快だ。
「……ですね。それじゃあこいつら連行しますね」
「ああ。で、お前はここでの現場検証な」
「え~!!そんな~!ありですか~!!」
「ありだ。さあ。やるぞ!」
チャラいこいつに罰を与えつつ、事後処理を始める。あいつらにここまでやってもらったんだ。後は俺達の領分、しっかりやらないとな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「高速道路から少し離れた上空」―
「ふう…終わった……」
「そうッスね……」
犠牲者を出さずに済んで、泉たちが一安心している。
「でも……あれはなんなのです?」
「分からない。僕もあれには驚いたもん」
ヘルメスが使ったあの異常な薬。人を超人に変える薬……少し気になる。
「レイス。あれから魔力の感じって……した?」
「……実は少しだけ」
「うちもッス。ただ気のせいかもぐらいッスけど」
「(魔力アリだったよ?ちょっと気味悪いけど)」
ユニコーンからも予想外の返答が来る。泉の方を振り向くと首を縦に振る。
「精霊にユニコーンが魔力を感じてるならもはや気のせいじゃないね」
「そうね……薫兄どうする?」
「関係する所に急いで報告するよ。こっちにも魔石……恐らく黒い魔石が出回ってる。ってね」
ユニコーンの気味悪いという証言。それはきっとここにはない魔石である黒い魔石のことだろう。そうえいば黒い魔石のこと何か分かったのかな?確か直哉の会社に今は厳重に保管していると思うんだけど……。
「(……ねえ。変な奴が飛んでる)」
「うん?変な奴?」
「私の方も言ってるよ。さっきから一定の距離を取って飛んでるみたい」
「追跡ッスか!あのゲームみたいな!」
「あ、あれなのですね!あれはドキドキしたのです!」
二人がユノと女子会した日の話をしてる。どうやらスパイゲームとか潜入ゲームをしたらしい。
「それで……一気に近づけられる?」
「(余裕!!)」
「それなら……頼む!」
僕は妖狸スイッチを再びオンにする。するとユニコーンが反転して高速で走り出す。すると確かに目の前に小さい何かが飛んでいた。
「鵺。網」
僕は鵺を虫取り網にしてそれを捕まえよう網を振る。するとそれは急いで下に降りた。チラッと見えたそれはドローンだった。
「レイス!ゴリラチンパンジーモンキーで使ったあれ使うぞ!」
「了解なのです!」
僕は鵺を黒い球体にする。
「黒星!」
呪文を発動させて、それをドローンに目掛けて投げる。ドローンがそれを避けようと当然移動する。が、その直後に術が発動。ドローンはそれにしばらくの間、抵抗するがその努力も空しく鵺に吸い寄せられる。威力が強すぎたためか一部がひしゃげた。
「よし!捕まえたのです!」
鵺がドローンをくっつけたまま手元に戻ってくる。
「便利ね。それ」
遅れて、泉たちも近くまで来る。
「意外に使いどころがあるな、この術も……さてと」
鵺を籠にしてドローンをその中に閉じ込める。
「ドローン……どこの?」
「分からん……」
「それで、か…」
僕は慌ててフィーロの口……というか顔を手で塞ぐ。
「~~!!~!!」
恐らく、何をするッスか!!放すッス!!と言ってるんだろう。
「済まない。今も操作している者に音声込みの映像を送っているかもしれないからな……」
僕はそう言ってそっと手を離す。
「分かったッス……。でも、痛かったッスよ!」
「悪い悪い。今度、焼きまんじゅうをおごるから……」
「もっと高いのを要求するッス!」
「ラスク」
「オッケーッス!」
そう言ってフィーロが親指を立てる。その親指がキラっと光ったような気がした。
「では……」
僕はそれを確認する。カメラは当然あった……かなり小さいし競技用ドローンっていわれる物かな?
「持ち帰る必要があるな」
「それじゃあこのまま……」
「いや。その前にこれを壊す。ということでレイス」
「え?いいのですか?」
「発信器を付けてるかもしれないからな……」
「じゃあ、私達がやるよ。フィーロ行くよ!雷撃!!」
泉が杖を前に出して雷を発生させようとするので僕は慌てて鵺ごと上に投げる。その直後に雷がドローンに直撃して煙を上げる。そして再び僕の手元に落ちて来たところで両手でキャッチする。
「……危なかったぞ」
「ゴメンゴメンって」
色々、気になることが出て来たこの事件。この後の予定を考えながら自宅へとユニコーンを走らせるのだった。
―クエスト「バスジャック犯に裁きを!」クリア!―
報酬:謎のドローン、ひだまりでの特製冷パスタとかき氷




