103話 バスジャック発生!
前回のあらすじ「薫の収益が上がった!(ただし不労所得ではない)」
―翌日「カフェひだまり・店内」―
「おはようマスター」
「おう。おはようさん。今日も暑いな……」
「ここらへんは周辺が暑いでよくニュースになるもん。しょうがないよ」
今日もこの辺りは茹だるような暑さ。車から出て店に入るほんの少しの距離でも汗をかいてしまう。
(次のニュースです。以前、逃げたヘルメスのメンバーがの追跡が行われています。警察は……)
「……まだ捕まらねえのか」
「そうだね」
ニュースの内容としては東京にあるヘルメスのアジトに踏み込んだ所、中にいた数名を取り逃がしたということで、警察が現在追っているとのことだ。
「もしかして……呼ばれたりして?」
「勘弁してよ昌姉……スイーパーなんて危険なんだからさ」
「それもそうね」
そんな事を喋りながら、身支度を整えて開店の準備を始める。
(速報です!逃げたヘルメスのメンバーが観光バスを奪い逃走中とのことです!繰り返します……)
「なんか……不味い事になってるね」
「そうね」
それでも呼ばれることはないだろう。なんせその事件が起きたのは東京。ここまで来ることは無いのだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―1時間後―
(バス運転手を銃で重傷を負わし、観光バスをバスジャックした盗賊団ヘルメスの残党は今現在、高速道路を使い猛スピードで警察の車を引き離しています!)
ヘリコプターからの中継を交えながらニュースが流れていく。猛スピードで走っているバスの後ろをパトカーが追っている。危ないと思った一般車は急いで端へと避けていく。何人かのお客さんも集中して見ている。
「……県内に来てるわね」
「いや~~……まさかね……」
「その前にバリケードを使って停めるんじゃないのか?」
「そうだね……」
すると、バスの横に一台のパトカーが近づいていく……すると、急にパトカーはブレーキをかけたのだろう後ろへと下がっていく。最初はバスから犯人が発砲したのかと思ったがそれはすぐに否定される。
(高速道路上で爆発が起きました!ヘルメスの残党は爆弾物を所持した状態です!)
「これ…かなり不味いだろう……」
「……いや…まさか………」
すると、ポケットに入れてたスマホが振動を始める。スマホをゆっくり手に取り画面を見るとそこには橘さんの名前が……僕はお客さんに聞かれないように厨房に入って電話に出る。
「はい。成島です」
「薫ちゃん!すぐに自宅に戻って頂戴!」
「バスジャックですか?」
「ええ。爆発物所持で人質も大勢だわ……それにちょっと問題があるの……」
「問題ですか?」
「あいつらの走っている高速道路の進路上で大きな事故があったの、それで今多くの車が立ち往生してるわ」
「このままだとそこに突っ込むと……?」
「可能性があるわね。それと……最悪な事にその中にタンクローリー車も混じってるわ」
猛スピードで走ってるバスが停車している車列に衝突。そしてタンクローリー車にも衝撃が加わって……僕の頭の中で大爆発が起きる。
「だ、大惨事じゃ……」
「ええ。もしかしたら盗賊団の残党がラジオとかで状況を把握して高速を降りるかもしれない。でも……その可能性にかけるにはあまりにも危険すぎるわ」
「それで……僕たちに何を?」
「……手段は問わないわ。暴走バスを安全に停車。そして人質全員の救助をお願い」
「高難易度!?」
「SATも動いてるでしょうけど、その前に事故が起きる可能性の方が高いわ。本部長の協力も仰ぐからお願いしたいの」
「今、レイスが泉と一緒にいるんだけど?」
「今、鈴木に頼んで連絡してるわ!とにかく急いで!」
橘さんはそれだけを言って電話が切れた。少々乱暴に切った所からして大分慌てているようだ。
「薫?」
いつの間にか後ろにいる昌姉と一緒にいたマスターに訊かれる。
「……スイーパーのお仕事だってマスター」
「……行ってこい。しっかり帰って来いよ」
「うん」
「泉ちゃんも?」
「連絡を入れているって。だからもう向かっていると思う」
「そう……ケガしないようにね」
「りょーかい!」
「終わったら泉達も連れて来い。美味しい料理を用意してやるからさ」
「うん。それじゃあ、いってきます!」
僕は店を後にして、橘さんに指定された自宅へと車を走らせるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「薫宅・居間」―
「橘さん。準備出来ました」
僕は巫女服を着て妖狸の姿になって、居間でテレビを見ている橘さんと合流する。すると玄関から扉の開く音が聞こえる。
「おまたせ!」
「すぐに準備するッス!」
そう言って、レイスも一緒にそのまま家の2階に上がっていってしまった。
「これで泉ちゃん達の準備が出来たら作戦会議ね」
(現在もヘルメスは逃走中です!同じ自動車道で走行中の車は最寄りのパーキングエリアに…)
(2度目の爆発です!それにより警察車両がスリップを起こし防音壁に衝突しています!)
テレビからはボンネットから煙を出したパトカーが映っている。
「凄い事になってるね……」
「やばいわね。あのままだと……」
「(橘!聞こえるか!)」
橘さんの電話から声が本部長の声が聞こえる。どうやらスピーカー状態で電話をしていたらしい。
「ええ。聞こえているわ。状況は?」
「(今、パトカーで追跡中だ。しかし相手が爆発物を使用している以上、迂闊には近づけない)」
「そうね……」
「おまたせしました!」
「なのです!!」
居間に泉たちが入ってきた。
「それじゃあ、このままパトカーを使って追いかけるわ。そして近づいた所で魔法を使って何とかして欲しいんだけど……」
「間に合うの?」
「あなた達が飛んで行く速度って高速で走る車には間に合わないでしょ?」
「う~ん……間に合うと思う」
「へ?」
「私もイケると思う」
「距離は大丈夫なんッスか?」
「おそらくは大丈夫なのです。聖獣の名は伊達じゃないのです」
「せいじゅう?」
「となると侵入だけど……泉。フィーロ。お願いしていい?」
「私達が侵入するの?」
「うん。橘さん。どんな方法でもいいんですよね?」
「え、ええ」
「(いや!待ってくれ!どんな手段でやるつもりなんだ!?)」
「多分これが一番相手の意表を突いて、かつ侵入するのに楽かな?って思う方法なんだけど」
僕は作戦を時間が無いので簡潔に伝える。
「……え?出来ちゃうの?それ?」
「(ま、待ってくれ!?え?そんな事が?)」
「新魔法ってそれだったの!?」
「うわー……大胆ッスね」
「一応、魔法は昨日の段階で成功しているので……問題無いと思うのです……」
「ただ……この作戦一つだけ欠点があって……」
「何?」
「……バス。誰が停めるの?」
全員がその場で黙る。確かに車を運転しているから停めるだけなら……と思うが少し心配になる。
「(ちょっと待ってくれ……)」
本部長が何かを話ししたり紙を捲ったりする音が聞こえる。
「(いたぞ!今、追いかけているパトカーの中に大型免許を持っているヤツが一人いる!そのパトカーをパーキングエリアに待機させる!)」
「その人って女性?」
「(え?……ああ、そうだが……どうかしたのか?)」
「よし!そうしたら私と一緒に行動してもらえればオッケーだね!」
「じゃあ……クエストいってみようか」
「おおーなのです!!」
「いっちょ成敗ッス!!」
―クエスト「バスジャック犯に裁きを!」―
内容:高速で走行中のバスに乗り込んで犯人達を捕まえて中にいる人達を助けましょう!
「何がオッケーなのかを説明して欲しいのだけど?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「薫宅・庭」―
僕たちは居間から庭に出る。ちなみに橘さんが大粒の汗をかいている中で、僕たちは巫女服のお陰で猛暑の中でも汗をかいていない事に気付き、ボルグ火山がどれだけ暑かったのかが今さらになって分かった。
「それでどうやって移動するの?」
「待ってて……おいで。ユニコーン」
紋章が地面に浮かびそこからユニコーンが出現する。取れていた角も完全に復活している。
「(今日はどうしたの?)」
「ちょっと悪い奴らを退治するんだけど手伝ってくれる?」
「(いいよー♪)」
ユニコーンの了解も取れたところで、馬具を取り付ける。その隣では同じように泉たちがユニコーンの乗馬の準備をしている。
「ユニコーンって……薫ちゃんってやっぱり男には見えないのね……」
「ははは……」
「こっちは準備オッケーだよ!」
泉たちの方を見るとすでに準備が終わっていた。僕もユニコーンに跨りいつでも出発出来るようにする。
「つまりこれで空を走るって事かしら?」
「そういうこと」
「また妖狸人気が復活しそうね……」
橘さんがそんなことを言いながらユニコーンに触れようとすると、すかさずユニコーンが離れる。
「薫ちゃん?あなた性別偽証してないわよね?」
「してない…うん。してない……」
「なんで自分に暗示を掛けるような返事なのかしら?」
「ここ最近、余計に男に見られないことが多くてつい……」
「疑心暗鬼になるってどれだけなのよ……」
「(おい!!そんなやり取りしてないですぐに来てくれ!!)」
本部長さんからツッコミが入ったので、魔法を発動してユニコーンを浮かせてどんどん高度を上げる。
「薫ちゃん!これ!」
橘さんが何かを投げて来たのでそれをキャッチする。
「その携帯なら本部長と連絡が取れるわ!後はその指示に従ってちょうだい!」
「分かった!携帯電話お借りしまーす!!」
「いざ出陣ッス!!」
「者ども続けー!!」
「……二人共ノリノリなのです」
二人共……人の命がかかってるので、真剣な対応でお願いします。
「(そうしたらサービスエリアに向かってくれ。場所は……)」
本部長から目的のサービスエリアを聞き、それがある方角へとユニコーンを走らせるのだった。




