102話 臨時収入
前回のあらすじ「四天王シェムル襲来!」
―「カフェひだまり・店内」―
(今日の特ダネはこれ!盗賊団ヘルメス集団逮捕!)
「日本にいたヘルメスの奴らどんどん捕まるな」
「薫ちゃんのアレが効いたみたいね」
「うん。本部長さんから橘さんを介してお礼を言われたよ」
ほとんどの学校が夏休み期間に入った7月。朝のニュースで盗賊団ヘルメスの特集が流れている。僕が妖狸として活躍したあの事件で派手にぶっ飛ばしたリーダー格の男も意識をすでに取り戻したらしく、彼らへの厳しい取り調べと捜査の結果、あっちこっちにあったヘルメスの隠れ家が発見。また団員も捕まっていってるそうだ。
(国内でのヘルメスの脅威がこれで少しでも減ってくれたら嬉しいですね)
(そうですね。ただ、まだ完全に去ったわけではないのでこれからの捜査に注目ですね)
(そうですね。それでは次のニュースです。夏休みが始まったという事で各旅行会社が……)
「妖狸に関してのニュースも大分落ち着いたわね」
「それでいいよ。あの服でテレビに映るって恥ずかしくてたまらないんだから」
「まあ、そうだな。そういえば警察からは依頼は来ないのか?」
「そこまでの事件は無いってこと。この前の事件だって十分に警察で対応できる内容だしそうそう僕たちに依頼するってことは無いってさ」
「そうなの?残念なような嬉しいような……」
「おかげさまで、僕としては執筆がはかどるからよかったけどね」
「売れているのか?」
「うん。梢さんからも、徐々に人気が出て来てる。って、次巻の販売もいつとか決まったしね」
~♪~~♪
お店のドアのベルが鳴ったので、お客さんが来たと思って対応しようとする。
「いらっしゃいませ!ってどうしたの直哉?それに紗江さんもこんな早くに?」
「ああ。おはよう薫。ちょっと話があってな」
「おい。朝早いとはいえ外暑かっただろう?アイスコーヒーでも出してやるから座って話しな」
マスターがそう言ってアイスコーヒーの準備をする。僕たちはテーブル席に座り話を聴く。
「それで話って?」
「ああ。実はお前にうちの会社に入ってもらいたくてな。泉も一緒に」
「どうして?」
「実は……我が社での売り上げに貢献していただいた薫さんたちに何の謝礼も無いのはどうだろう。と社員と賢者一同思った次第でして」
「それで、うちの会社に社員として入社してもらって給料やボーナスという形で渡せるから他の方法よりも遥かに楽なんだ。ああ、もちろん出社とかしなくていいからな。あくまで形として入ってもらいたい」
「なるほど……それはいいけど」
「お前……あまり気にしていないようだが本当なら莫大な利益を得てもおかしくないからな?それこそ逆に、お礼をよこせ!!って言える立場だからな?」
「それに妖狸とかの件で薫さん達がバレた時に、我が社が開発した実験用のパワードスーツを使ったという事にしてうやむやに出来ますし」
「それって迷惑じゃ?」
「実はこれ警察とも相談したんです。銀行にたまたま実験用の高性能パワードスーツを着用して日常生活が送れるかを実験してた薫さんがいて、あの時は仕方がなくその力を犯人達の制圧に使用してしまったということにしよう。ってそうすれば我が社としては知名度が上がりますし、警察の方も厳重注意程度で済ませられるからってことで」
「レイスたちはどうするの?」
「精霊は高性能ナビゲーターとして適当にごまかしておく。異世界も含めた全てをバラす時は理由も含めて説明すれば問題無いだろう。それにバレたらバレたで唯一の魔石を使用しての開発できる会社ということで大々的に売り出せるしな。どう転んでも利益は得るし会社が潰れるような事は無いだろう……まあ、警察の上層部に指示を出している奴らはどう考えているかは分からないがな」
「ということなんですが、薫さんどうですか?」
「断る理由は……無いかな。利益も受け取れるし」
「それなら今度、書類とか用意しておきます。これでお姫様とのデート資金を確保できますね!」
「もう知ってるの!?」
「カシー達が教えてくれた。各国の賢者からは避難轟々だったがな」
「そうなんだ……」
「これで薫ちゃんは安定した高収益を得られるようになったわね」
「そのためにも、あっちの世界を救わないといけないんだけどね」
「そうなのよね……心配だわ」
「だな」
昌姉、マスターの二人から心配される。
「その事だが……魔王軍との戦いが有利になるような道具の開発をしている」
「薫さんたちの強化アイテムってところですかね」
「え?それってどんな物なの!?」
パワーアップアイテムなんて何とかライダーとかを彷彿させるようなワクワクする内容だ!!ぜひ小説に反映させたい!
「出来てからのお楽しみだ。意外にも開発が順調でな大量生産も可能かもしれない。それを全魔法使いにに配備できれば………来たる戦いで有利になるはずだ。この前の四天王にもな」
「ありがとう直哉」
「……お前からの素直な礼は違和感あるな」
「ん?じゃあ罵声とかがいいの?このドM!」
「社長って確かにドMですよね……そうですよねドM」
「私はドMでは無い!!っと、そろそろ会社に行くぞ。開発を進めないとな」
「はい。それではまた。マスター。今度は食事しに来ますね。コーヒーありがとうございました。」
「ああ」
直哉たちはマスターに礼を述べて会社へと戻っていった。すると今度は店の電話が鳴り始める。
「私が出るわ」
そう言って、昌姉は電話を取り話始める。
「(……気を付けろよ薫。お前に何かあれば悲しむのはアイツなんだからな)」
「(分かってる)」
小声でマスターに注意される。皆を泣かせないように……そしてパワーアップアイテムの登場を心待ちにしつつ店の仕事に戻るのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―昼過ぎ「カフェひだまり・店内」―
「こんにちは!」
額に汗を浮かべた泉が店に入って来る。カウンター席に座り持っていた鞄を上に置くと、そこからフィーロと昨日から泉の家にお泊りしていたレイスが顔を出す。
「駐車場を歩いただけなのに暑かった……」
「今日もこっちで仕事か?」
マスターが泉に訊きながらお冷を出す。
「うん。しばらくの間は念のために……ね」
泉がお冷を飲みながら答える。ボルグ火山での四天王シェムル襲来以降、しばらくの間は僕たちはこちらの世界で待機してもらうという事になった。各国、警戒を上げて警備をしているが今のところは特に大きな被害は無いとのことだった。またカーターたちも警備と魔法と剣の練習のためここの所会っていない。
「カーターたちに会えなくて寂しいんじゃないの?」
「そうなんだよね……。まあ、ユノちゃんと付き合っている薫兄の方がもっと寂しいと思うけど」
「いきなり僕に降らないでよ!?」
「まあまあ。それでご注文は?」
「あっさり和風冷パスタ……多めに。それとアイスティー」
「分かったわ。それじゃあ待っててね」
「それと薫兄」
「うん。何だい?」
「今日も練習したいんだけど……いいかな?」
「いいよ」
「ありがとう」
ボルグ火山以降、僕は泉に護身術を教えている。とは言っても攻撃ではなく回避や捕まった時に脱出する手段とかをメインにだが。
「それと服のパワーアップ完了だよ。ユニコーンから採れた角をほんの少しだけ使用しただけなのに水属性が大幅にパワーアップしたから。カシーさんも驚いていたな……」
「薫の持っている大きな角を丸々一本使ったらどうなるの!!って言ってたッス」
「そうなんだ……」
ソーナ王国で手に入れたユニコーンの角は実験のためにほんの少しだけ削り、ソーナ王国とビシャータテア王国に提供した。それによってソーナ王国ではそれを溶かした水に例の防御用の魔石を浸けた所、大幅に強化出来た魔石が出来たという事で現在進行中で大量生産しているそうだ。そしてビシャータテア王国では同じように溶かして衣類の染色に使ってみたということで……結果は泉の言った通りである。
「これで強力な水属性魔法が使えるのです」
「ということは……あれが使えるかも!」
「そうなのです!」
「なになに?何か新しい魔法を作ったの?」
「うん。ただ形状とか速度とか問題があって未完成だったんだけど、今回の件で出来るかも」
レイスとテレビを見ていた時に、これ作れないかな?ということで練習していた新魔法。雷属性と地属性の魔法は色々と特殊な強化版があるのに対して、水属性は特になかったので、ちょうど良い。ということで作って練習していたのだった。
「おーい薫。仕事中だぞ」
「あ、ごめんマスター。つい話に夢中になっちゃた」
僕は仕事に戻る。
「レイスもありがとうね。お陰で衣装のパワーアップ出来たし今度の大型イベントの衣装なんとかなりそうだよ!」
「お役に立てて良かったのです」
「今回は薫を連れていかないんッスか?」
「まあ、今回は他のレイヤーと一緒だからね。それに……あの大人数に薫兄を投じたら……」
仕事をしつつ泉たちの話を聴いているが、それは勘弁して欲しい。あんな大型のイベントに参加なんてしたら……。考えただけで寒気がする。
「薫さーん!注文お願いしまーす!」
「はーい!」
その話を聴かなかったことにして、僕は仕事に戻る。
(続いてのニュースです。盗賊団ヘルメスの一部メンバーが…………)
テレビからはまたヘルメスの特番が流れているな……。と何気なく聞きながら。




