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100話 ボルグ火山

前回のあらすじ「パワーアップアイテムのフラグ立つ!」

 ジメジメした梅雨の時期が終わり、いよいよ夏本番。夏だ!海だ!そして……


「か、火山だぁぁーー……」


 泉が岩肌に座りながら、首をガクッと下げる。


「まさか、よりにもよって夏の地元よりさらに熱い場所にいくことになるなんて……」


「なのです」


 各々、持参したタオルで額の汗を拭きつつ喋っている。


「アイスランス」


 シーエさんたちが大きな氷を地面に突き刺さる形で出す。お陰で少しだけ涼しくなったが、氷がすぐ解けているところからしてあまりもたないだろう。


「はい。飲み物。念のために保冷剤を入れたクーラーボックスに入れてからアイテムボックスに収納しておいてよかったよ……」


 僕は弱っている泉に飲み物を投げる。泉はそれを両手で受け取り、同じくうなだれていたフィーロと一緒に飲み物を飲み始めた……ということでただいま僕たちはグージャンパマにある広大なボルグ火山の一角にいる。どうしてこうなった理由は一週間前に遡る。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

― 一週間前「カフェひだまり・店内」―


「貴重な素材の回収?」


「はい。」


 ハリルさんたちが閉店後の店内に現れて、要件を述べる。


「前回、ソーナ王国での素材の回収を他の国々の方が聞いて、うちも頼む!!ということでして……」


「え?他の国全て!?」


「いえ。ドルコスタ王国、ガルガスタ国の2ヶ国です。それで今回はドルコスタ王国からの依頼をお願いしたいのです」


「ガルガスタはいいのです?」


「それは気にしなくていい。というのもそちらは事前の調査が必要でな。こちらでの生活があるお前達に頼むのに迷惑がかかるということでまた今度になった。まあ、調査が終わり次第行ってもらうことにはなるがな」


「それじゃあ……ドルコスタの方は分かってるの?」


「はい。ただ……場所が厳しいところでして……空を飛べる薫さん達4人とシーエ達にいってもらう予定です」


「厳しい?」


「ボルグ火山……の火口内なんです……」


「……火口内?」


「はい……」


「…………今回パス出来ないかな?」


 そんな危険で暑い場所にはっきり行きたくない。


「言いたいことは分かるんだがな……ローグ王が言うには強力な武器を作るのにそこにしかない金属が必要らしい」


「金属って……鉱山から採掘して精製が基本だよね……それってかなりの量が必要?」


「いや、既に純粋な金属として採れる代物だ。かなり軽いから運ぶのも簡単だ。それとアイテムボックスにも入れられるから問題ない」


「探すのも簡単ですよ。何せ火口内に似合わない銀色に光ってる金属らしいですから」


 その情報を聞かされて、僕はゲーム内で頻繁に出るあの金属の名前が浮かんだ。


「それって……ミスリル?」


「はいそうですが……ご存じで?」


「う、うん……まあね」


―ということで、クエスト「灼熱のボルグ火山からミスリルを回収せよ!」―

内容:ミスリルをなるべくたくさん回収しましょう!熱中症対策は忘れずに!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―現在に戻って「ドルコスタ王国・ボルグ火山火口より少し離れた場所」―


 そして今日の朝、ドルコスタ王国の王都よりイスペリアル国からの方が近いって事で、僕たちはイスペリアル国からユニコーンに乗ってひたすら南に進んでここまできた。……ちなみにシーエさんは男性。ユニコーンには乗れないので宙に浮いたままロープで引っ張ってここまで来た。風船のように浮いている鎧を着た人を引っ張るその光景はなかなかシュールだった。


「ユニコーンには少し離れた場所で待機してもらってよかったよ」


「そうだね……こんな温度じゃ弱っちゃうよ」


 泉がそう言ってペットボトルの中身を一飲みする。


「あまり長時間はいられないですね。」


「こんなとこにいたら茹で上がる……シーエ…私にもくれ」


 シーエさんたちも僕が渡した飲み物を飲んで渇きを潤している。鎧を着たままで。


「あの暑くないんですか?」


「一応、魔石の効果で内部は快適にする効果が働いているので脱がない方がいいのですが……それでも暑いですね。プロテクションも使ってるんですが……」


「僕なんて千早を脱いじゃったけどね……」


 僕は早々に千早を脱いでアイテムボックスに入れてしまっている。


「今度は千早にも施しておくッス」


「そうね……フィーロの言う通りかも」


「というけど……泉?何で脱がないの?」


 暑い暑いといってるけど、泉は千早を脱ごうとしない。


「絶対に透ける……薫兄のインナーが見えるんだもの」


 泉に言われて今、着ている長襦袢を見るとうっすらと黒のインナーが見えた。


「私も薫兄みたいに着ておくんだったよ。そうすれば私も脱げたのに」


 そう言って襟をパタパタと仰ぐ……おそらくだが、シーエさんたちがいなかったら脱いでたんだろな……きっと。薫兄ならそれぐらい問題ないから!って。泉の僕に対する男としての評価はそこまでに低い。


「よし!さっさと終わらせよう!!」


「そうッスね」


 そう言って泉たちが立ち上がる。僕たちもその意見には賛成なのですぐに火口へと出発するのだった。


「それとシーエさん……泉の言葉に反応して、急に僕から目を逸らさないで下さいよ」


「女性の肌着を見るのはいかがかと……」


「男!」


「はいはい……あちいからさっさといこうぜ……」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数分後「ボルグ火山・火口」―


「まあ、飛んでいけるからあっという間だよね……しかし……」


「あ、暑い……」


「と、溶けるッス……」


「あち……」


 本来ならこの火山の幾つもの急な傾斜がある山肌に沿って登山しなければいけないのだが、僕たちは空を飛んで一気にここまで来てしまった。火口からは煙が出ている。


「ローグ王が頼んだ理由がよーーーく分かりました。ここに数日間も滞在なんて通常は不可能です。それこそ莫大な費用に高級な魔道具を使わないと無理です」


「いかに早く目的地まで行って採掘できるかの勝負だもんね……」


「それだけではないのです。その後にミスリルを持ち帰らないといけないのです。これはかなり厳しいのです」


「ヘリコプターがあればな……」


「ここらへんに着陸出来るような広い場所が無いから無理だよ」


「無いなら……造ればいいじゃないの」


「そんなのはいいからさっさと回収するッスよ……死ぬッス」


「だぜ……」


「じゃあ降りようか……皆、アレを装備して」


 僕たちはアイテムボックスから笹木クリエイティブカンパニー製の火山ガス用マスクを取り出す。しかも今回は精霊用のサイズも用意してある。


「直哉たちに感謝だね」


「お礼にミスリルを持っていてあげるのです」


 お礼にミスリルってなかなか凄い気がする。ともかく、僕たちはマスクを装備して、さらに防御魔法をかけて万全の状態で火口内に降下していく。火口内は広く中心部分では赤いマグマが見える。


「そういえば……魔獣っているのかな?」


「かなり前の調査では火口内にはいなかったということです。いるとしたら私達が空で飛び越えてしまったあの急な山肌だそうです」


「……ちなみに名前は?」


「サラマンダーです。飛ばない小型ワイバーンをイメージしてもらえれば……」


 ああ……お馴染みですね。と口には出さずに心の中に留めた。そして火口内に着地。ミスリルは…………。


「上から見えていたけど……凄いね。これ……」


 泉が思わず言葉を失う。それはそうだ。なんせ目の前に水晶のような形状をした大量のミスリルがあるのだから。


「レアなんだよね?」


「人がよりつかないから手付かずなんでしょうね……きっと」


 レアなはずのミスリルが取り放題……。ただよく見ると、少し黄色がかっている。


「硫黄かなこれ?」


「多分。となると硫化水素とか危険な成分が溜まっているかもしれないね……」


「この前の爆風消火の要領で吹き飛ばすッスか?」


「いや。それは止めよう……ここ活火山の火口だし」


 下手な刺激を与えて噴火!なんて勘弁して欲しい。


「とにかく、最速!最高!最善!最大!で回収しよう!」


「なんかネタが入ってる気がするッスけど……でも、たくさん集めるのは賛成ッス!」


「ですね。まあ、これだけの量を全て回収するのは無理だと思いますが……」


「それじゃあ、始めようか!せ~えの!」


 僕は鵺をピッケルに変える。そして思いっきりピッケルを振り落とす……!!


「……薫兄?どうしたの?」


「薫……そもそも鉄より堅いそれを手で掘削しようなんて無謀だぜ」


「わ…忘れてた……」


 僕は鵺を手放し、ジンジンとした腕の痛みが治まるまで必死に堪える……。それを見たレイスが僕の腕を優しく撫でて少しでも痛みが和らぐようにしてくれる。


「これってどうすれば採掘できるんだろう……とりあえずウィンドカッターで切ってみようか?」


「うッス!」


「いくよフィーロ!……ウィンドカッター!!」


 泉たちの風の刃が直撃する。すると、多少は切れたがそれでも地面から離れない。


「これは当初の通り地面の下を掘って取るしかないですかね……」


「だな。とりあえずスコップで掘るしかないんだぜ……」


 シーエさんがアイテムボックスからスコップと手袋を取り出す。


「肉体労働か……いや……閃いた!アイテムボックスで!!」


「地に埋まってるせいで収納は出来ませんね。アイテムボックスの能力の関係で物体に何かしらの拘束力があると回収できないんですよね……」


 え?シーエさん。それ初めて知ったんだけど?まさかそんな制限があるとは思ってなかった。


「ということで頑張るッスよ泉!」


「……こんな暑い所でどれだけ採れるのかしら」


 泉の言う通りだ。確かに地面から掘るなんて作業でミスリルを回収するとしたら、ほんの少しだろう。僕は少し痛みが和らいだところで鵺をブレスレットの状態にして、どうすれば効率よく採取できるかを考える……うん?


「……ねえ?これって引っこ抜けるんじゃ……」


「いや。それは無理ですよ……ほら」


 そう言ってシーエさんが自分より体より大きいミスリルを引っ張る。確かに抜けない。


「シーエさんそのまま……レイスちょっと来て」


「はいなのです?」


 僕はレイスに使う魔法を教えて、それからシーエさんが抜こうとしているミスリルの近くまで来て手を地面に当てる。手からは熱いくらいの熱を感じる。そんな事を思いつつもある魔法を使う。


「アース」


 すると地面が少しだけ振動する。するとシーエさんが引っ張っていたミスリルも少しずつ抜けていき、その背丈より大きいミスリルの結晶が取れる。


「ダイラ……タンシー?」


「いや……どちらかというと液状化現象かな?アースで地面に少し強い振動を連続で与えて、ミスリルにかかる力を減らしたんだ」


 大きな地震によって電柱や住宅が沈むという現象が起きることがある。これが液状化現象。本来なら地下の水位が高い砂地盤が振動によって起きるという一定の条件が必要なのだが、それを魔法であるアースで振動だけで地中を構成しているであろう礫や砂、さらに細かいシルトや粘土なんかを強制的に小規模で揺さぶっている。まさかの攻撃技として全く使えない地属性魔法アース。まさかの有効活用である。


「そうか……ミスリルってかなり軽い金属だったもんね」


「うん。それだから後は人力で抜けるんだ」


「「「「…………」」」」


「って?皆どうしたの黙っちゃって?」


「いや~お前がいて本当に良かったぜ!かなり楽に採掘出来るぜ!」


「マーバの言う通りですね……思った以上に早く。そして大量に採れそうです」


「知識の有り無しって重要ッスね……」


「なのです」


「とにかく、早く抜いていこう。いつまでもこんな熱い場所にいられないし……」


 この後、黙々とミスリルを採掘……というよりは採取をしていった……その光景を遠くから見ている存在がいるとらは知らずに。

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