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9話  変態野郎に鉄槌を

前回のあらすじ「捕まった。」

―「ビシャータテア王国・ベルトリア城壁屋上」シーエ視点―


「……おかしいですね?」


「そうだな」


 城壁の上で戦況を確認する。明らかにこの勝負は勝敗が付いている。それなのに彼等はどうして攻めてくるのか?


「どうしたんだぜ」


「この勝敗はすでに決しています。それなのに何故攻めてくるのか……?」


「そうね。すでにあちらの兵士たちは満身創痍。とてもこの城壁を攻略できるとは思えないわ」


「あそこにいるカエル顔の男が大将だと思うんだが」


 カーターが望遠鏡で周囲を確認しながら話を続ける。丁度、相手の指揮官を見ているようだ。


「諦めている訳ではなさそうだな」


「そうですか」


 諦めていないということは何かしら策があるはず……。そういえば。


「さきほどの魔法を使ってこない?」


 城壁を壊す魔法があれから使われていないことに気付く。あれだけの威力……恐らく、魔法使いであるカエル男が使ったはず。


「そういえば最初に放たれた後撃ってこないわね?」


「…? 相手の精霊が見えないな」


「精霊が見えない?」


 魔法を使うために一緒のはず。それなのに何故?


「シーエ隊長大変です!!」


 1人の兵士が慌ててこちらに来る。そのまま矢継ぎ早に報告する。


「スパイがもう1人! 薫さんを人質に!」


「何だって!!」


「薫が!!」


 その時、城壁の窓から小さい何かが飛び出てきた。そのタイミングで後ろにいた馬に乗っていた指揮官が最前戦に出て、そして魔法を使う。先ほどの窓の下の地面が風で巻き上げられ、その状態が維持される。また窓から誰かが飛び下りる。……それは薫さんだった。


「そういうことですか……。まさかスパイがもう1人いたとは。」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―同時刻「ビシャータテア王国・ベルトリア城壁通路」―


 窓の下はあいつが放った魔法だろう風が下から吹いてくる。ビルの3~4階から飛び降りるのは流石に無理……。


「下りろ」


 後ろにはナイフを突きつけてくる騎士。周りにも騒ぎを聞いて集まった騎士がいるが僕が人質なっているということで近づく事ができない。僕は再度下を見る……無理。ノーバンジで飛び下りて無事な高さじゃないって!!ふと背中を押される。浮遊感が襲いそのまま落ちる。


「死ぬ……」


 ボソッと呟く。30歳は短い命とは言えないかもしれないけど長くもない。このまま……。色々な考えが頭の中で浮かんでくる。と急に落ちる速度が減速する。そしてそのまま四つん這いになって地面に着地する。少し呆けているとさっきの騎士も降りてくる。


「男なのになさけねぇな~。顔が女なら心も女ってやつか?アハハ!」


 いや何も知らない人が同じように飛び降りたら絶対同じようになるって……というかこれディスられているよね。


「ほら! 早く立て!」


 またナイフをこちらに向けて命令する。イラっときてそいつを睨みつける。けどナイフを突きつけてくる戦闘のプロ相手なんかに何もできない以上、僕は命令通りに立ち上がる。そしてあの大将の前に進むように命令されたのでそのまま従う。敵大将の前に来ると、馬から大将が降りてくる。近くで見ると余計にアンコウっぽい顔だった。そのまま僕を城塞の方に向けて、首元にナイフを突きつける。


「おい! 我の言葉が聞こえているか。抵抗してみろこいつがどうなってもいいのか!? 大切な異世界の客人なんだろう?」


 大声でドラマの強盗犯がいうようなセリフを吐く。我ってどれだけ偉ぶってるのだろうか……。首元のナイフが冷く、すでに攻撃は止んでいてさっきとは違って静かになっている。


「そちらが今やっていることは明らかな条約違反です!! 今すぐ人質を放しなさい!!」


 シーエさんが説得する。魔法使いであるシーエさんたちも同じように城壁屋上から降りてきていた。


「こんなことをしても自分の立場を悪くするだけだぞ!!」


 カーターも説得に入る。この行為は僕たちの世界での非戦闘員への非人道的な処遇ってとこなんだろうけど。だがこいつは……。


「ふん。そんなの関係ないわ!!」


「関係なくないでしょ!? あんたらの国の女王も黙っちゃいないわよ!!」


 サキの声が聞こえる。


「あはは!! それはどうかな。こいつがいれば異世界の情報を得られる。そうなれば新しい武器の開発もできるではないか。現にスパイの1人はこいつにやられたらしいしな。その武器を大量に生産できればこちらの軍事力が高くなり、どの国も手がつけられなくなる……問題ないはずだ!!」


 アンコウ男がそう言うと、スパイだった兵士が僕から奪った催涙スプレーを前に出す。


「そんなの無茶苦茶だ!!」


「ええーい!! うるさいうるさい!!」


 駄々をこねている。こんな考えで何で大将なんて務まっているのか分からない。危ない状況なのに聴いてて呆れてしまった。ただ軍事力が強ければいいなんて……そんなのうまくいくわけがないのに。


「そもそも薫がこんな事されて、素直に協力するわけないでしょ!!」


 サキの言う通り全くである。と思ってると裏切り者の騎士が近づいてくる。その顔は嫌みな笑顔だった。


「なに……こうすればいいんだよ!!」


 そう言ってナイフを僕の右腕に突き刺す。あまりにも唐突に……ほんの一瞬何をされたかが理解できなかった。でも……。


「あっ……ぐっ……!!」


 痛みが走る。僕は思わず痛みで声を上げそうになる。痛みで息が上手く出来ず目からは涙が出た。


「てめえら!!」


「いいのか!! これ以上怒らせると今度はこいつの足が血まみれになるぞ?」


 イカれてる。従わないなら暴力ですぐに解決するなんて正気じゃない! すると今度はアンコウが僕のお尻をいやらしく触り始める。


「まあ、我のためにも早く降伏して欲しいのだがな。こんな女はそうそういないしな。」


「あんた最低ね!!」


 サキが大声で叫ぶ。ムカつく。そうだよね。こんな痴漢野郎……サイテイナヤツダヨネ。


「おい。そいつは男だぞ」


「ギャハハ!! 残念だったナ!!」


「何? チッ。こんな顔して男なんて気色悪いやつだ!!」


「全くだな!」


「ギャハハ!!」


 大声で笑う痴漢ども……いいかげんにしてくれないかな? 僕の怒りはピークに達している。人のお尻を勝手に触って、勝手に評価して気色が悪いとか何言ってるのかな? 騎士? 魔法使い? こんなやつら電車の中で僕に痴漢行為してきた野郎と何も変わらない。そう変わらない。だから……だから……バツヲアタエナイトネ。


「さあ!早く降伏しろ。さもな……ヒベブ!?」


 僕の後ろにいるアンコウ男の顔目掛けて渾身の裏拳を繰り出す。感触的には鼻の骨が折れただろうか。今の攻撃で首元のナイフが離れて自由になる。僕は鼻を押さえて突っ立ているアンコウの頭を手で掴みながら足払いをしてその後頭部を地面におもいっきり叩き突ける。


「!?」


 痛みでアンコウがナイフ放り出し頭を両手で押さえる。しかし僕はそれを気にすることもなく、仰向けになったアンコウの前に立ち、男として大切なアソコを踏み抜く勢いで踏みつける。


「ギャアーーーーーー!!!!!!!!!!」


 アンコウ男が大声を上げる。こんな奴に従っていたなんて……まあとりあえず、今はこれでいいか。次はあのスパイでも……。


「へっ?」


 地面に転がっているアンコウが持っていたナイフを僕の思わぬ反撃に驚いていたスパイに向かって投げる。ナイフの投擲技術は無いので適当ではあるが、ただ怯ませるぐらいの気持ちだった。当然スパイはそれを避けようとして体勢を崩す。すかさず僕はスパイに近づきながら腰に着けていたもう一つの防犯グッズを刺されていない左手に取る。一見キーホルダーにも見えるそれはスティンガーと言われる防犯グッズで突起の部分を相手にぶつける武器である。用途は他にも車に閉じ込められた時の緊急避難やツボ押しに使えるのだが、今回はムカつくこいつの顔面をぶちのめすのに使う。体勢を崩しているスパイの顔面に渾身の力でためらいもなく振り抜く。


「あっ!…がっ!」


 相手の右頬に突起部分が食い込む。続けてお腹に目掛けて蹴りを喰らわせる。ただ鎧を身に着けているので怯んだだけだった。


「この!クソ野郎が!!」


 スパイが奪った催涙スプレーを僕の方に向ける。しかし僕はそれを気にせず接近する。


「くらえ!?」


 催涙スプレーから噴射されない。呆気に取られているスパイに対して僕は男の右頬に目掛け、突起の部分をぶつける。油断していた所に打撃を加えたため今度は地面に倒れる。そして催涙スプレーが自分の方に転がってくる。


「残念だったね。催涙スプレーは誤射防止のためにセーフティーロックっていうのがかかっているんだ……」


 スパイに見えるように催涙スプレーのロックを解除し、そのまま呆然と見ていた精霊らしい奴に目掛けて吹き掛ける。


「ギャアーーー!! め、目が!! 目がーーー!!!!」


 どこぞの大佐の台詞言いながら、悶える精霊。顔だけではなくあっちこっち触りながら、そのまま地面を転がりながら悶えている。どうやら体が小さいため、体中にさっきのスプレーがかかり全身に激痛が走っているようだ。顔だけでも苦しいのに体中とは…どれだけ苦しいのだろう。……まあ、そんなのはどうでもいい。


「さてと、次は君の番だよ」


 スパイは慌てて体を起こし後ずさりをするが、かなりの距離まで届くので、そのままスパイに思いっきり吹きかける。すると顔を押さえ悶え始めるが動かないように体を足で押さえつける。刺された恨みがあるので、これでもかと……馬乗りになって、相手の口をこじ開け、その中に容赦なく吹きかける。


「さてと……」


 こいつはこれぐらいでいいや。僕は立ち上がって、スパイを自由にしてあげる。そのまま地面を惨めに転がってる姿は実に滑稽だった。


「……」 


 最後のメインディッシュ。アンコウ男にこれを吹きかけようと近づく。あそこを押さえながら引き攣った表情で僕を見る。さっき一緒に馬鹿にした2人が今現在、もがき苦しんでるのだ恐怖でしかないのだろう。……より恐怖を与えるため口の端を吊り上げ僕はわざと笑顔を浮かべる。


「はは……! どうしたの? 何でそんな表情を浮かべるの?」


「く、来るな!悪魔!」


「心外だな。違反行為をする君たちの方が悪いんじゃないかな? それにさ、あそこに悪魔のような格好している精霊? がいるし。君たちの方が悪魔じゃないの?」


 僕の笑顔に、言葉に、恐怖を感じたのだろう。あそこを思いっきり踏んだせいかそれとも太っているせいか後ずさりする速度がかなり遅い。しかし、来るな! か……まあ、この距離なら十分な射程距離だし。


「分かった。これ以上は近づかないよ」


 僕は立ち止まり笑顔で答える。息を荒げていたアンコウは少し安堵した。


「地獄に逝け……」


 僕はその場から吹きかける。アンコウが一瞬、完全に沈黙。そして……。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!」


 このスプレーを食らった誰よりも大声で叫ぶ。もがきながらゴロゴロと地面を転がる。目から涙を流し、鼻からは鼻水を垂らしながら。少なくともこれで30分ぐらいは地獄を見るだろう。しかし……。


「トドメだよ!」


 最後は自分の手でやらないと気が済まない……! アンコウ男がちょうど顔面を地面に向けたタイミングでおもいっきり後頭部を踏みつける。踏みつけられたアンコウ男は体をピクピクさせながら動きが止まる。


「ふう~~……」


 呼吸を整え、気持ちを落ち着かせる……これで僕の気も済んだ。痴漢野郎死すべし慈悲は無い。今思うと、その時の僕は実に晴れやかな笑顔をしていたと思う。笑顔で辺りを見渡す。


「あ」


 ……敵の兵士たちと目が合う。変なスイッチが切れた僕の額から汗が出る。痴漢連中をしばく!! とそこまではつい怒りでやってしまったのだが……ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ。目の前に大勢の敵がいる。無茶な戦闘のおかげで、既に敵はボロボロの状態だけどそれでも数が結構いる。圧倒的に不利。あ、右腕がすっごく痛い。そうだ右腕刺されたんだった……あ、オワッタ。


「はは……」


「「「ひぃ!?」」」 


 僕が笑うと敵の兵士から悲鳴が起きる。恐怖で相手もすくんでいるが、僕は僕で緊張で汗が止まらない。剣を持っている。弓を持っている人もいる。魔石のはめられた杖を持っている人もいる。いつでも僕を仕留めようとすれば仕留められる状況に、僕は諦めて頭の中で両親への感謝と先に逝くことへのお詫びをしていたりする。


「か……薫? 大丈夫か?」


 ふと呼ばれ、後ろを向くとカーターやシーエさんたちが駆けつけてくれた。


「う、うん。大丈夫……じゃないや」


 刺されて出血してる右腕を見る。


「そ、そうか。とりあえず治療しないといけないのかな?」


 何か言い方が変だ。というより様子がおかしい。


「何か言葉が変だけど?」


「あーー。えーと」


 カーターが言葉に詰まっているしシーエさんは黙っている。何か変な気がする。どうしたのだろうと思ってるとサキが答えてくれる。


「さっき薫がものすごい勢いでそこに転がってる奴等をやっつけたでしょう?」


「それがどうしたの?」


「あまりにも薫の動きが早すぎで攻撃は的確に急所狙い。それを見て2人が警戒しているだけだぜ」


「え?」


 あまりにも意外な答えに戸惑う。サキとマーバは特に気にしていないようにみえるけど。


「え? じゃないからな薫。お前はあっという間に、魔法使いを含む敵を3人蹴散らしたんだぞ!! あの動き只者ではない。どこかの武術の達人の動きだ。それなのにお前はただの一般人って偽ってるから……」


「本当にあっという間でした。そちらの指揮官はともかくこの裏切った男は我々の中でも武道に長けている男です。それをいとも容易く制圧する。私自身、薫さんと素手でやり合うとしたら勝てる自信がないほどの動きでした……相手の兵士達も先ほどの戦いを見て戦意喪失しているくらいですし」


 シーエさんが冷静に答える。騎士である2人からして、僕の動きってそんなに凄かったのか?


「ご、ごめん。僕自身あまり自覚してなくてそれで……あれ?」


 目の前がグラつく。気持ち悪い。


「薫?」


 グラつきが酷くなり、視界も徐々に暗くなっていく。そしてそのまま地面に向かって倒れる。


「薫!!」


 カータが咄嗟に僕の体を支えてくれた。そして僕はそのまま意識を手放したのだった。

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