表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

14時10分

作者:

「…この式は、先ほどの数を代入することで解くことができ…」


昼食を取り終え、どうにも頭がふわふわとし始める午後の授業。僕を含めた、教室中の生徒から溶け出した眠気が、空気に混ざり始める。それはやがて、柔らかな重さをまとい、ゆっくりと、いろんなものの境を曖昧にしていく。


「…したがって、求められる数の値は…」


声がだんだんと遠のき、それが言葉なのか、単なる音なのかいよいよ判断がつかなくなる。




不意に誰かが、教室に漂う空気の中に溶けた。




それは静かで、一瞬の出来事。

注意しなければ、その出来事に気がつかないかもしれない。



そうこうするうちに、1人また1人と溶けていく様子を、窓際の後ろから2番目、僕は静かに眺めている。


僕の左側、少しだけ開いた窓から入るかすかな風が、校庭からホイッスルの音と生徒の笑い声を運ぶ。


僕の右側、教室中に蔓延する空気に飲まれることなく、黙々とノートをとり続ける彼女。


時計の針の動き、板書の音、椅子を引く音、先生の声、風とそれにのって運ばれる音、昨日寝る前に聞いていた音楽、さっきノートの端に書いた落書き…


そんな些細なことの1つ1つが、なぜだかとても鮮明で。



突然鳴り響くチャイム。



先ほどまで漂っていた空気が、一瞬のうちに圧縮され、消えてしまった。


「今日はここまで、起立。」


夢か現実かはっきりしない中でも、身体は自然と立ち上がる。



いつの間にか僕自身も、空気の中に溶けてしまっていたらしい。



時計の針は、15時を示していた。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ