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プロポーズ(練習短編)

作者: 伊崎詩音

プロポーズの日という事らしいので2時間くらいで叩けるだけ叩いてみたので内容薄くても勘弁してくだしい

「これは……」


多分、今私は見つけてはいけないモノを見つけてしまったのだと思う


同居が始まって早8年、もうそろそろ30歳が見え始めた20歳後半戦へと差し掛かった私と彼は関係も良好でケンカはすれど尾を引くことは滅多になく、基本的には非常に好調で仲睦まじい関係を保ててると言えるだろう


そろそろ結婚したいな、なんて頭の片隅で考えつつも、そこを女の私から口にするのは私の理想からしても違うし、彼にも男としてのプライドがあるだろう


そんな感じで彼からのプロポーズを待ちつつ、将来のことを考えていた、そんな時に見つけてしまった


「どう考えても、結婚指輪、よね……」


黒いケースにシルバーのリング。その頂点に輝くのは宝石の王様、ダイヤモンド


中々立派な大きさのダイヤが付いており、かなりの値段がするだろうそれを私は一緒に住んでいるマンションのクローゼットの中で発見してしまった


元々このクローゼットは彼が使っている場所で、彼が仕事に使うスーツやらコートやらがビチッと糊まで決めてある状態で保管されている


そんな彼の勝負服とも言えるスーツ達が保管されているクローゼットの影、まるで隠すように置いてあった袋をクリーニングから戻って来た冬用のスーツを下げておくためにたまたま開けた私が、たまたま訝しんで開けてしまったのが今回の原因だった


「どうしよう、これ絶対見つけちゃいけない奴だ……!!」


プロポーズとはサプライズだ。少なくとも日本にいる女性は意中の男性からロマンティックな夜景を見ながら突然のプロポーズを受ける的な、そんなシンデレラストーリーを夢見ているに違いない


私だって、サプライズでされたら嬉しさのあまり泣いてしまう自信がある


だが、それはサプライズだからこそ起こる感情の爆発と言える


渡されることが分かっていると自然と身構えてしまい、突然のことにも動じなくなってしまうのだ

それは彼が練りに練っているであろうプロポーズの計画を破壊してしまう事にも直結する


「と、とにかく元の場所に戻そう!!見なかった事にしないと……!!」


私は何も見なかった、そうするしかあるまいと判断した私はいそいそと結婚指輪と思わしき物を元あった場所に戻し、何事も無かったかのようにピューっと部屋から逃げるように立ち去ったのだった





その後のことは散々だった


何をするにも先程の事が気になって気になって、普段熟している筈の家事がまるで手に付かない

一体何時のタイミングで渡されるのか、いやそもそも本当にあれは私に渡される物なのだろうかと言うあまつさえ彼を疑うような考えも頭に浮かばせては首を振って頭から追い出そうとする


しかし、結局のところ気になってしまい、今日の家事は何時もの半分ちょっとくらいの進行率で終わってしまう結果となった


「はぁ……」


「どうした?今日溜め息多いぞ?嫌なことでもあったか?」


「えっと、別に嫌なことでも何でもないんだけど。むしろ良いこと?いやでもうーん」


「なんだそりゃ」


彼が帰って来る時間に間に合う様に無理やり合わせて作ったちょっと手抜きの夕飯であるぶっかけ風うどんを啜りながら、彼は私のいつもと違う様子に首を傾げ、何かあったのかと心配してくれる


ここが彼の良いところであり、警察官という職らしい人の機敏に敏い職業的なスキルが光るところだろう


捜査一課、と呼ばれる部署に所属しているらしい彼は主に傷害や殺人などと言った如何にも刑事らしい事件に携わっているらしく中々に危険の伴う仕事だ

過去にも怪我をして帰ってきたことが度々あり、ニュースでそういった事件が起きた時は大丈夫だろうかと心配になってしまう


ひたむきで正義感が強く、人の感情やちょっとした変化や物事の違和感に気付ける彼は警察官になってその頭角をメキメキ現し、今や同期の中では一番の出世頭の警部補だ


私と彼のなれそめも、学生時代に痴漢にあっていたところを彼に助けられ、私からのアタックに彼が推し負けたなどと言うエピソードがあるが、まぁそんなことは今はどうでもよい


「そう言えば、俺の部屋入った?」


「ぶぇっ?!」


「なんだよその返事」


問題はこのピンチをどう切り抜けるかである


いや、やましいことは決してしていない。別に彼の部屋に入ってはいけないなんてことは今まで一度も無いし、不用意に物を漁るなんて真似も一度もしたことはない


今回はたまたま、たまたまちょーっと余計なものと言うか見つけてはいけないモノを見つけてしまっただけなのだ


ここは彼のためにも努めて冷静にならないといけないのだ、頑張れ私


「まぁいいや、なんかクローゼット開けっぱなしだったから入ったのかなって思ってさ」


「う、うん、クリーニングから戻って来た冬用のスーツとかを戻すのにね。ごめんね、閉めてなかったみたいで」


「あぁ、いやそれなら良いんだ。むしろわざわざありがとう」


そう言うと彼は空になっていた丼ぶりを手に立ち上がり、ごちそうさまでしたと台所へと丼とお箸を持って片付ける


さっと洗い物を済ませた彼はちょっと部屋に用があると言って一旦リビングから出て行くのを見送ったところで


「はぁぁぁぁぁぁぁ」


私は特大の溜め息を吐いて、緊張を解す


やはり彼は敏い。警察官と言うだけあってちょっとした変化も見逃さない辺り流石と言うか、こういう時はこちらの心臓が止まりそうになるほど適格だ


だが、あれを見つけてしまったという事には流石に気が付いていないだろうと思い、私は目の前のダイニングテーブルへと突っ伏すように身体を預けた


やはり隠し事は疲れる


「随分疲れてるな」


「いや、うん別に誰のせいでもないから気にしなくていいよ」


部屋から戻って来たらしい彼が労いの言葉を掛けてくれるが何が原因という訳でもない精神的疲労感、強いて言うなら自業自得なこの感情にどうにか折り合いをつけるべく、だらける私を見て、彼がくつくつと笑うのが聞こえる


「それって、コイツのせい?」


そう言って、テーブルの上に何かが小鳥と置かれる音が聞こえたので見上げると


「へ?」


そこには、さっき見つけてしまった結婚指輪と思わしきダイヤの指輪がケースの蓋を開けて置いてあった


「えっ?へっ?なんで???」


「見つけたんでしょ、コレ?だからそうやってうんうん唸ってた、違う?」


お前昔から隠し事苦手だもんなぁと笑う彼を他所に私の頭はパニックだ


何故今、このタイミングでこれが私の目の前にあるのだろう

こういうのってなんか夜景の見える展望レストランとか、星が綺麗な見える海辺とかそう言うロマンティックな場所で愛の言葉と共に渡されるものではないのかとかいろいろな事が私の頭の中を過ぎる


「うんうん、作戦は成功らしいな。練った甲斐があった」


「ど、どういうこと?えっ」


「今日お前がクリーニングに出したスーツを取りに行ってくれることは几帳面なお前なら完成日時に合わせて取りに行くのが分かってたから。そうでなくとも明日明後日には間違いなく取りに行くだろう?」


「そ、そうだろうけど」


いやだから何故そんなことをするのだろうか、とパニックになっている私の頭は冷静に物事を考えることが出来ずとにかく彼の言葉だけをなんとか理解しようと努力する


悪戯が成功したみたいな彼の笑顔にちょっとイラッとしたのは内緒だ


「そうしたらいつもしてくれてるようにクローゼットにしまってくれるだろうから、わざと気付くようにコイツを置いておけば幾らお前でも気になって中身を見てくれる泥うと思ってな」


「で、でもなんでそんなこと……」


わざと見つかるようにした、つまるところ彼の言い分はそういう事なのだ


あれは隠されていたようで私に必ず見つかる様に置いてあった物だと


「そろそろ結婚をってのはお互いに考えてただろ?そうなるとやっぱ男からなんだろうけど、俺にはどうにも女性が好みそうなロマンティックな演出ってのに自身が無くてさ。此処はサプライズを仕掛けながら、俺らしく、俺の本心をそのままに君に伝えようと思ったんだ」


「う、うん……」


少年の様な笑顔から一転、彼の表情は決意を固めた大人の男の表情になり、ドクンとその目に真正面から見つめられた私の心臓が高鳴る


本気の彼の目。あの痴漢に襲われてた私を助けてくれた時と変わらない目に私の心は年甲斐もなくときめく


「俺は警察官だから、時には危ない事件の捜査に加わるし、怪我だってする。普通の人が体験しないような事に首を突っ込むのが仕事だからさ」


目を伏せ、一言一言を噛み締めるように紡ぐ彼の言葉がスッと私の耳に入って来る


そう、彼は警察官。危ないことにも率先して身を投じる仕事だ

だから、私は彼の帰りを必ず待つべく、このご時世には似合わない専業主婦と言う選択肢を取るべく今も仕事にはついていない


彼が帰るこの場所を守るのが私の役目だと信じて


「この家に帰ってくれば君が変わらず笑顔で迎えてくれる。この日常ってやつを俺は大切にしたい。そう、俺は誰かの日常を守るために警察官になったんだ、だからそんな俺の日常を支えてくれるお前には感謝している、そしてこれからもずっと俺と一緒にいてほしいと思ってる」


「……はい」


ドキドキを通り越して、すでに心臓はバクバクだ

真剣にみつめる彼の表情に顔が沸騰しそうになるが、それ以上に既に感極まって鳴きそうな自分もいる


ちゃんと私は彼の日常を守れている。彼が警察官という非日常から日常に戻って来る時の道しるべに私はなれていたのだ


「お前を心配ばかりさせると思う、それでも俺にはお前が必要で、お前でなくちゃいけなくて、必ずお前を守る。だから



――結婚してくれ」


「……はい!!」


待ち望んだその言葉が耳に飛び込んで来た時、もう極まった感情が抑えきれずにボロボロと目から涙となって零れ落ちる


思わず両手で涙を拭うと、左手を取られスッと婚約指輪が左手の薬指に収められる

そこからはもうダメだった


良い大人になったというのに止まらない嬉し涙に彼が困ったように笑う


ロマンティックでもない、理想的なプロポーズとはまるで違うまさかの自宅のリビングでのプロポーズ

それでも私には嬉しいサプライズには違いなかった


「ずっと、ずっと一緒だからね」


「あぁ」


だって、私にとって生涯で最高のプロポーズなのだから



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