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詩集  作者: 矢作 日和見
16/20

白雪


 冷酷な針葉樹林は冷たく凍えそうな零下の霧をまとい。

 霧吹きのように氷の粒が彼の手をかちかちに固くしてしまう。


 つもりたての新雪と同じほの青い明りをともした白色になった彼の手は。

 パリパリと音を立てながらキャベツのように砕けていって。

 それもまた風に乗って輝くダイヤモンドダストの一部となるのだ。


 すっかり手をなくした彼は笑って今度は服を脱ぎ始めた。

 凍えてしまうだろうにすっかり身にまとうものを捨て去って身軽になってしまった彼は、生のみなぎる肌色のなめらかな肌を惜しげもなく氷の妖精たちに与え捧げ。

 全身はやはり凍り付いて美しい白磁の彫刻となり深い深い雪原へと埋まっていく。


 吹雪はひどくなるばかりでごうごうと全てを凍り付かせ押しつぶし跡形もなく白い二次元的な平面になるに違いないと確信したので。

 やはり凍ってしまうと強固になる一方で壊れやすくなってしまうのだから使い慣れたケータイのように地面に投げ捨てるなんていうのはもってのほかで。

 大切に溶けないように切り出して玄関に飾ってやろう。そうすれば彼は永遠に永遠なんだ美しいままでいられる。


 だから私は掘り始めたひたすらに積もり続けていく中で、手編みのマフラーで暖まりながらオモチャのスコップで一心不乱に掘り出すのだ。

 しかし足を踏み入れた瞬間もうこれは駄目だと悟ったのは深くブーツが地面に突き刺さったからであって。

 溶けた雪が足元に付いて大変重苦しくなりまして、これは底なし沼よりもやっかいなもので踏んでも固まるばかりで持ち上げようとも周りにへばりつきまして。


 このままだとおそらく私はずるずると雪に埋もれて彫像になってしまうのだろう。

 辛うじて厚着の下には体温がかすかに残り血管も詰まっていなかったのでやりくりはできるが。

 埋もれてしまっては身動きがとれないからじわじわと体に染み込んでくる白雪には抗えないわけで。

 私はきっとこの数日の間に熱をすっかり失ってしまうだろう。


 右を見てごらん。雪に埋もれた木々が慣れた様子で雪の衣を着こなしている。

 左を見てごらん。雪に埋もれた岩々がすっかり自分を忘れ去ってしまっている。

 前を見てごらん。雪に埋もれた川がその流れを絶やし氷の言うままになっている。


 ただ言えることは寒いということなのだ。冷蔵庫の中よりよっぽど寒い。あそこはハムやウインナーという動物性の仲間がいるだけまだましだが。

 孤立無援の私はとりあえず春まで眠り続ける仮死状態の植物たちしかいないので。

 必死に手をさすり体を震わせダンゴムシより丸くなってやろう。


 だけど凍り付くのだ氷になってしまうのだ。

 かじかむ手はついに寒さを忘れ痛みに走る、じんじんじんじん。

 私はここまでだ体一つでは冬には耐えられそうにもない。

 あたりまえで仕方のないことだが納得がいかない。それとも私が間違っている?

 彼はそれを受け入れた。むしろ穏やかなる歓迎を持って接していたのに私ときたら。

 でもまあこれもまた一つの形にはなるであろうし、粉々になっていつかの雨の凝結因子になるよりは有意義で楽しい。

 寒いことには変わりがないけれど、とりあえず私は一つの形になって眠るのだ。


 このままで、このままに、このまま青い冬のままで。

 時さえ止まればきっと、悔いはない。


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