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詩集  作者: 矢作 日和見
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ドラゴンが死んだ



 父が死んだ


 ドラゴンが死んだ


 私の父が死んだ


 私のドラゴンが死んだ


 私は父の墓を作った


 私はドラゴンの墓を作った


 父の墓は小さくて大きく


 ドラゴンの墓は大きくて小さかった


 父の墓には白い花をそなえて


 ドラゴンの墓には赤い花をそなえた




 青と白でぐちゃぐちゃに汚された空を見上げた


 父のような雲がぷかぷかと浮かんでいた


 ドラゴンのような雲がぷかぷかと浮かんでいた


 それらはしだいにぼやけてしまって


 涙に混じって土に染み込んでいった



 ……


 ……



 私は父を愛していた


 私はドラゴンを憎んでいた


 人々は私たちを認めなかった


 世界は私たちを認めなかった


 人々は私たちを恐れた


 世界は私たちをうとんだ


 それはドラゴンのせいだ


 それはドラゴンであるが故だ



 ……


 ……



 父はいつも笑顔だった


 ドラゴンはいつも不満げだった


 父の手はいつも暖かかった


 ドラゴンの鱗はいつも冷たかった


 だけど





 父は弱かった


 ドラゴンは強かった


 ただそれだけのこと


 でも私は思った


 父が弱いから、ドラゴンはいるのだ、と


 父が優しいから、ドラゴンはいるのだ、と


 けれども私はいらない


 ドラゴンはいらない


 父がいればそれでいい


 父さえいればそれでいい


 ドラゴンは私から必要とされなくなった


 ドラゴンは誰からも必要とされなくなった


 ドラゴンの背中は小さくなっていった



 ……


 ……



 ドラゴンが死んだ


 父が死んだ


 私のドラゴンは死んだ


 私の父は死んだ


 誰もいなくなった


 優しさも強さも去っていった


 私は胸に手をあてて


 空っぽの心臓をぎゅっと握りしめながら


 うつむきながら墓を後にした













 冷たい雨がしとしとと降り出していた



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