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高校二年に上がった夏前、拓郎は放課後の教室で義人と何時ものようにだべっていた。
「そういやさ、生まれた子見たか?」
「あ? ああ、可愛いケモミミっ娘だったな」
異世界から帰還した元クラスメイトの少女は子供を産んだ。
その産まれた子供は獣耳の生え、尻尾も生えた獣人であった。
「けど、母親は精神崩壊して、この地球だしなぁ。おまけに住まいは研究所」
「詰んでるってのはこの事かな」
誰も居ない教室だからこそ話せる事があった。
しかし姿を公表はしないが存在は公表しているので、そういった意味でも聞かれてもたいした問題ではない。
「ある程度保護されるんだろうけど表を出歩けないのは、相当辛いだろうな」
「両親も化け物とか言って、娘もほったからしみたいって話だ」
「うへぇ、唯一の萌えっ娘を化け物とか、絶対にオタクとかそっち関連に知られたら大変な事になるな」
二人はたまに元クラスメイト達の居る隔離施設へと会いに行っている。
帰還者達の精神面でも立場的にも隔離しているしかないのが現状である。
特に異世界とはいえ人を殺して来ている、社会復帰の為に復帰プログラムを受けている人も居た。
「…萌えって言えばさ」
「ん?」
「俺、彼女できた」
「…え?」
唐突な拓郎のカミングアウトに、義人は固まった。
彼女のできない、何者同士と思っていた義人には、拓郎が彼女を作ったなんて戯言にしか聞こえなかった。
しかし真剣な顔をして言われるものだから、それが嘘じゃないと理解してしまった。
「あ、え? 嘘、…じゃない?」
「マジだ、付き合って5か月目になる」
「…ホワイ? WTF?」
友人である義人に一切そんな素振りを見せなかったのだ、義人は信じられずにいた。
いや信じたくなかった。
「ど、何処かの国の機関から来て、ハニトラで情報引き出されてるんだろ?
そうなんだろ?」
「いや、普通に日本人だよ、下校中にある菓子屋あるだろ? どら焼きが美味しい所の、そこの娘、同級生の」
「おま、え? いや、実はどっかの機関に脅されてお前に近づいて」
「あのさ、いい加減に現実逃避やめろって、そもそも俺達の情報なんてたかが知れてるだろ?」
一般の学生に公開している情報はたかが知れている、当事者ともあって、他の人物よりも多く情報を持っているが、他国に公表できるくらいのものしかないだろう。
「そもそもわりとオープンみたいだし」
「…お前が彼女なんて、しかも可愛いぞあの子、ロリ巨乳じゃないか、ふざけやがって」
「可愛いだろ? 見た目にたいしてしっかりしてるし、良い子だし」
「ぐっ、なんだその腑抜けた顔は!? クソ、これだから彼女居る奴は…」
「僻むなよ」
「ぬぬぬ、裏で何かしてるって評判も無いし…くっそたれ」
拓郎は少しふんっと自慢するように胸をはる。
自分の事ではないが、彼女が褒められるととても嬉しかった。
「けどよ、お前巻き込まれ体質っての分かってるのか?」
「それも彼女知ってるよ」
「お前を利用して目立つとか」
「彼女を悪く言うなよ、それに彼女は目立ちがりやじゃない、こそこそ隠れて静かな事を好むし」
「くっそ彼氏ずらしおってからに」
「彼氏ですので」
拓郎の彼女は恥ずかしがり屋で目立つ事が苦手である。
それに今の拓郎は普通の一生徒としか見ていなかった。
「拓郎くん、廊下まで話し声が聞こえてきましたよ。
…恥ずかしいのでやめてください」
「恵子さん」
そろりと扉が開き、拓郎の彼女である恵子が顔を赤くしてとことことかけてくる。
近寄ると拓郎の袖をそっと掴んでじっと見つめながら抗議する。
その仕草に拓郎はデレデレと照れてしまい、思わず今すぐにでも彼女を抱きしめたい衝動にかられていた。
それを無表情で眺める義人。
「…こいつの何処に惚れたんだ?」
義人がそう恵子に尋ねると、もっと顔を赤くして焦り始める。
そしてもじもじとしながら、ぼそぼそと話始める。
「そ、その、わ、私を…、思って、くれる、所とか…大事とか…もちろん。
他にも、優しくて、た、逞しくて、か、か、かっこよくて、た、頼りになて……んっ」
羞恥心が最高潮にまで達すると身震いし、思た事を勢いよく言葉にしていく。
「仕草とか、大人扱いをしてくれる事とか、どら焼きを美味しく食べる所です! 拓郎くんの匂いも……、ハッ、わ、私何を…」
爆発した感情を吐露する、しかしすぐに正常に戻り、口走った事を思い出し、頭を抱えて顔を真っ赤にし始めた。
拓郎は愛おしさと可愛さに我慢の限界が来て、ぐっと引き寄せて恵子を抱きしめる。
「俺も好きだ、俺にはもったいないぐらい、だよ、恵子さんは」
「た、たた、たく、ろう、さんっ…!」
二人は顔をじっと見合わせ紅潮しあう。
それをげんなりとして眺める義人。
義人の存在は一気に二人のカップルの頭から消え去っていた。
(異世界転移して、このバカップルの仲引き裂かれないかな。
勇者に寝取られとか、もしくは彼女が聖女になってイケメンから攻められるとか)
義人はそんな妄想をしていた。
仲の良い親友をパッと出の女に取られたのだ、今までの仲は何だったのかと思い起こし、少し嫉妬した。
(ぐう、恋は人を変えると言っていたが、これは…辛い)
目の前のイチャイチャする二人を見て、これ以上居られなくなった義人はそろそろと移動しはじめる。
(ぬあ、キ、キスするぞあいつら!!)
ちらりと見た二人は顔を近づけ、キス目前という状態になっていた。
拓郎が少し背丈がある為、かがんで恵子の顔に近寄よっていく、恵子は少しぐっと背伸びをするようにして互いに距離を縮めた。
そして間もなく二人は目を閉じ、唇を塞いだ。
初めて見る生のキスに義人は混乱する。
ドラマで見る様なものではない、間地かで見るキスは何とも甘美で、まるで人の性行為を見ているかのような目を離したくても離せない、けれど性行為を見ている様な興奮はない、いけない事を見ている様であった。
義人は目の前の光景に、俺も彼女が欲しいという思いが沸き上がって来る。
そんなタイミングで、義人の携帯電話から着信音が漏れる。
(何でだよ! 普通ならもっと先に掛かって来てキスを妨害するところだろ!?
空気読むな!? いや俺の為に空気読めよ!!)
カップルはその音に義人の存在を思い出して、慌てて離れる、名残惜しそうにしながら顔を真っ赤にしいた。
それからゆっくりと視線を義人の方に目を向ける、その視線は少しだけ厄介者を見て、何処かへ行ってと訴えている様であった。
「へいへいごめんなさいね! お邪魔しましたね! くっそー!」
義人は逃げる様に教室から出て行き、携帯を取り出してそれに出た。
「そ、その、俺、大事にするから、一生。だから、その、まだ結婚はできないけど、出来る様になったら、恵子さん結婚、しよ!」
「っ! は、はい、ふ、不束者ですが、よ、よろしくお願いします!!」
こうして二人は結ばれ、その雰囲気と勢いに任せて、再び顔を引き合わせキスをしようと唇を近づける。
「おい! 転移が起きたって連絡あったぞ!!」
義人が教室の扉をがらりと勢いよくあけてそう告げる。
しかし。
「!?」
二人は離れる事は無かった。
離れようとする恵子を拓郎は離さないようにする、邪魔されようとも、恵子を離したくない一心だった。
それを感じ取った恵子は、恵子自身ももう話さないと言わんばかりに抱き着いて、長い長いキスをした。
しかし、傍から見ればたまったもんではない。
「ぬがあがっがあがあっが」
発狂しそうになる義人は、頭を抱えて転移の事を伝え、なんとかキスを中断させようと思考を巡らせる。
目の前の光景にお腹はとても脹れていた。
(そうだ、拓郎は昔異種族ハーレムを狙っていた事を話せばいいんじゃないか?)
ふとそんなを思いついた。
嫉妬のあまりチャチャを入れて別れさせようろしたのだ。
義人はその事を話すために口を開き、言葉にしようとする、が。
(お前それでいいのか? 親友なんだぜ、祝福してやってこそ親友だろ?)
と、別な自分が語り掛けてくる。
それに抵抗するように、俺達は異世界同盟だ、彼女は不要ら。とまた別な自分が語り掛け、二つの意識は争い葛藤しあっていた。
しかし葛藤は一瞬出来事であった。
「拓郎は異世界でハーレムを築こうとしてたんだぞ」
言ってしまった、嫉妬が勝り祝福する気持ちが飛んでしまったのだ。
そして目論見通りにキスを中断させる事ができた。
しかし、二人の行ったキスの時間は、十分なほどであった。十分だからこそキスが終わったのだ。
「…知ってます」
恵子の反撃が始まった。
ぽつりと答えると、今度は義人が攻められる番だった。
「知って…え?」
「私拓郎くんが異種族を好きな事も知っています、ハーレムって言ってたのも。
けどそれを含めて好きです、大好きです、傍に居られるだけで、もし可能なら私はその異種族になりたい、愛してくれるならハーレムでも、そうも思ってます……っは!」
再び勢いに任せて恵子はそう答え、顔を真っ赤にしていた。
それを聞いていた義人はあり得ないと目の前の女を見た。
(なんだこれ、こんな男にとって都合の良い女が居る訳ない…ありえん、ありえん)
「ほ、本当は私一人を…、あ、ああ、こんな、私、欲張り…」
「俺は恵子さんの事大事にする、俺の嫁は恵子さんだ」
「…! 拓郎くん…っ!」
(ぐわあああああああああ!!)
義人は目の前のイチャイチャとした光景に当てられ、精神的に大ダメージを受けてしまった。
あまりにも甘く、入り込める様な状態ではない事を、自ら体験して分かった。
(お、おのれ! おのれえええ。
俺を倒しても第二第三の俺が、お前達の邪魔をするだろう!)
義人はこれからも何があったら邪魔しに入るつもりであった。
そんな事をしてるくらいなら彼女を作ればいいのにと、後に邪魔をされたカップルは語る。
「って違ああああああう! 連絡で転移があったって連絡が来たんだよ! こっちに様子見とか意見を聞きに来るって話なんだよ!」
「それ俺達必要?」
「主に意見を聞きに来るんだよ! 必要かどうかは話聞かないと分からないよ!」
恵子を自宅まで送り、それから二人は自宅に向かう途中に黒服に連行される形である建物に向かう事になった。
そしてそこで、映像付きで異世界に消える生徒達の姿を確認する事ができた。
一クラスすべての転移する光景に無感情で眺める。
「これは偶然起動していた個人のカメラの映像なんですよ」
「よく撮れたもんだ」
スーツを着込んだ女性がタブレットで見せた。
「魔方陣無しタイプってと俺達が最初に出くわしたあれか」
「だろうな、しかもまたクラスで異世界転移だぜ、何か条件でもあるのかね」
「場所はH県S市の高校です」
その説明をして、その高校の情報が書かれたメモを開く。
そこには転移した人物の情報などが記載されていた。
「しかしこれで俺達は異世界に転移巻き込まれ体質じゃないって事が証明されたな」
「くっそ、彼女ができたからって嬉しそうにしやがってからに」
「それはおめでとうございます」
「ありがとうございます、ふふ、それに早いですけど婚約もしました、今日」
「キィー!!」
そんなコントをしつつ、情報を確認していく。
「んー? しかしなんでこんな若者が? 普通自衛隊とかそういうののほうが良いんじゃないかな」
「それはどうだろうな、若いからこそじゃないかな」
「なら中学でも」
「ある程度素養は必要だろうし、でもなぁ、異世界に素養って言ってもな」
「やっぱり伸びしろか? 特定の年齢付近の集合している場所を狙って転移とか」
「今回はそのタイプだろうな、特に最初の俺達の様なタイプだし」
「ってとあの幼女? いや、別な可能性もあるのか」
「流石に手も出せないんじゃ仮定をするしかないしな。せめて二回目の転移の奴らが戻ってきてるならある程度決めこめるが」
義人の中で、いくつかの過程を作り上げているが、どれも確かな証拠もなく、決めあぐねていた。
「んー、ぱっと見普通のクラスだけど、義人、これ特に秀でた能力の奴も居ないよな」
「そこは俺達と同じか」
二人のクラスもこれといって何かに秀でた者は居なかった。
まとまりもなく、団体行動をすれば崩れるというのが分かる程度であった。
「これって人間関係とか書かれてないけど、後性格も」
「おいおい、そんな無理言うなよ」
「だって性格とか関係も基準になる可能性もあるじゃん、俺達は纏まりなかったし、褒められる性格の奴も居なかったし」
「まあ、そうだな」
「それに魔法使う時、感情を爆発させた方が思わぬ力出るって言ってたし。
感情が起伏が激しい奴を含んだ、成長しやすい奴を対処に選んで転移してるとか」
「そういうやつが多い所を狙って転移させてるとかか?」
「かもな、だったら二回目の奴の説明がつく」
「ん? どういう事だ? 二回目は俺達が中心じゃなかったじゃないか」
「あれは俺達も含めて、と仮定した方がいい。
あの場に居た俺達が対象にされてたが、残念ながら俺達は何かしろの影響下にあった、だから別な奴がターゲットになった」
「結局のところ机上の空論だなぁ」
「しゃーないだろ、情報が無さすぎる、何度も言うが空論とか仮定して話すしかない」
何をするにも現状では情報があまりにも無いのが問題であった。
その後異世界での魔力を操作する才能や、霊感があるかなどを議論するも、結論に至る事はなかった。
ただ異世界談議に花咲かせただけである。
「そういやなんで日本なんだろ?」
「んー? 龍脈とか地脈とかそういうよく分からないのじゃないの? 日本がそういう土地とか。
ほら日本神様多いって話あるじゃん」
「八百万の神ってやつか。
でもそういった歴史ある土地とかも海外にはあるだろし、本当に分からんもんだな」
「せやな、やっぱり異世界に行ってみて研究したいものだ」
「まあ無理なんですけどね」
「ちくせう…」
結局話はここで終わった。
途中でスーツの女性は話について行けなくなり、気まずそうにしながら俺達の話を聞き流していた。
その後夏休みに入るまで一切続報が入る事は無かった。
夏休みに入り数日、拓郎は恵子とリア充生活を送っている横で、義人は一人パワースポット巡りなどをしていた。
神社などを巡ったり、異世界に行くという夢を馳せて過ごしていた。
「ぐぅー、リア充どもめ、こんな所にも蔓延ってからに」
人気があれば恋人あるいは夫婦がお参りやパワースポット巡りをしていた。
それを羨ましそうにして恨めしく眺める義人は、いきり立ち次のスポットを目指して足早に移動し始めた。
「ぬ、また電話だ」
何時もの機関からの電話に、またどこかで転移事案が発生したのかと、義人の苛立ちは高まっていく。
しかし真逆な事であった。
「え? 第三陣が帰還? 早いな」
まだ一月くらいしか経過していないのに、すでに帰還したのだ。
最初の転移者に比べればとても早い部類である。
「第二陣は…、やっぱり別世界説か? いや、それとも転移方法の関係で帰れないか…」
義人は少し不謹慎だがワクワクしながら帰路につき、施設へ確認に向かうのだった。
施設につくと、イライラとした表情で拓郎が椅子に腰かけていた。
「ぷっ、デート中すまんのう〜」
「やめろその腹立つ顔…」
デート中と相まって、それが中断されて大変不機嫌な拓郎であった。
それを見て憂さが晴れていく義人、笑いを堪えてすこし間抜けな顔をしていた。
係員に案内され、白い防護服を着て洗浄されながら奥へ奥へと入っていく。
「今回は3名のみだ」
「めっちゃ不機嫌そうだな」
モニターに映る三名すべてがとても不機嫌な態度でベッドに横になっていたり、テレビを眺めていたりした。
「なんか言ってたの?」
「そうですね、騙されたとか、同じクラスメイトの一人に悪態をついてました」
「んー、って事は途中で帰還か」
普通なら第一陣の様な状態になるはずだが、それが無いという事は平和なうちに帰されたのではないかと二人は感じた。
義人はマイクに電源を入れて、一人のアプローチを仕掛けてみる事にした。
「やあやあ、どうもこんにちは」
『あ? なんだ貴様』
「おー、こわいこわい、先輩に向かって口汚いですね」
『は? 何言ってんだ? 先輩?』
「そうだよ、君たちの、二年ほど前に異世界に転移した者だよ」
嘘は言ってないが、行ったのは白い空間のみだ。
義人の嘘に呆れつつも、それを拓郎は止める事はしなかった。
『二年前、そうか、あの騒動のか、マジかよ…』
「あの騒動? 異世界での事かい? それともテレビで見た事かい?」
『どっちもだ、いやまさか、こんな所で会えるとは』
先ほどまでの苛立ちは消えていた。
それと同時に第一陣と同じ世界に転移したという事も分かった。
「いきなりですまないが、最初に真っ白な空間に飛ばされたかい?
俺達はまず最初にそこに飛ばされたんだが」
『ああ、俺達もそうだ、そこでただ力を授けようってだけ言われて。
だけどよ、こっちにあいつらに戻されてから力がなくなったんだよ…』
再びイライラとして、糞っと悪態づく。
力がなくなった事にたいしての苛立ちであった。
「国は何処に?」
『ドロン王国って所、英雄様もそうなんだろ?
前大戦で大活躍だったとかって話だな、今回は魔族相手って話だったけどよ、訓練中にクラスメイト達のせいで戻されちまった、ああ、腹立つ!』
聞いても居ない事をべらべらと喋るもので、二人にとっては大変楽な事だ。
「けど戻って来られて幸せだったな」
『は? 何言ってんだ』
「だってその国君たちを騙してるんだぞ」
『え?』
「君たちは和を乱すってんで強制的に戻されたんだろうな、力に溺れてるみたいだし、調子に乗ったら何時か手を付けられなくなる、扱いに困るからって帰されたんじゃないかな?」
『嘘だろ?』
「でも本当に良かった、あのまま戦争に加担させられてたら、全滅か精神も肉体も大変な事になってただろうしね」
「帰ってきたら絶対に真面な生活を送れないだろうね」
『なんだ? どういう事なんだ?』
共に居る職員に喋って良いかと尋ねてから、第一陣の状況を説明する事にした。
すると見る見るうちに顔を青ざめて行き、ベッドに腰かけたまま動かなくなってしまった。
第一陣がハマった異世界の国の話術と手口、それから二人の推測話に思い当たる所がある様で、「騙された」とか「あの時のあれは…」などぶつぶつと呟き始めた。
「けどよかった本当に、あのまま異世界に残ってたら壊れてただろうし」
「普通の生活も遅れないだろうしな、なんせ一陣も力に頼って生きていたのにその力を無くして、そして人殺して精神まで病んで」
「腕とか足も無くなってる奴居るし、動かなくなった所もあるみたいだし」
それだけ言うと、何も返答しなくなってしまった。
自分がもしそうなったと想像し絶句したのだ。
ただ最後にぽつりとこうこぼした。
『あいつらひょっとしてあっちでずっと苦しむのか?』
「お前優しいな、普通そんな気遣う言葉なんて出てこないだろ、ましてやお前を蹴り落そうとしたんだろ?」
『だ、だってよ、知らなかったから』
「まあ戻ってこない奴らの事は忘れろ、そうすりゃ楽になる」
『……』
じゃあなと別れを告げて、スイッチを切り、二人は向き直った。
これくらいしかかけてやる言葉はなかった。
「異世界の奴ら凝りてねーな」
「やべぇな、また戦争すんのか」
「というかあいつ、あっちで苦しむのか? って聞いて来るから絶対にざまぁとか言い出すと思ってた」
「お前性格歪みすぎじゃね?」
「うるせぇ、彼女が居てぬるま湯につかってる奴に言われたかねぇよ!」
「そんなんだから彼女ができないだぞ」
「ぬぐぅあっ」
それから他の人物に話を聞くが、どれも同じ様な反応しか帰って来なかった。
その後も何度か通い、第二陣の情報を探るが、何処かの国が異世界からの召喚を行ったという情報を入手する事は出来なかった。
だが彼等を召喚した国が、祭り上げる神の名前は聞く事に成功した。
名前は『アーネスト』勝利に導く神と教えられていたち情報を得る事ができた。
義人は、謎の白い空間で出会った少女がアーネストではないかと睨んでいた。