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 拓郎は電車の中で義人と天井に張られている広告を眺めていた。


「なあ」

「なんだ?」

「高校に上がったけど、結局あいつら帰って来ないな」

「そりゃそうだろ、一年も経ってないのに解決できるわけないだろ」


 拓郎と義人は同じ学校に通っている。

 クラスも同じで、登校も同じ電車に乗り移動する、腐れ縁というものに成り下がっていた。

 会話も他愛無い話ばかりで、時に異世界に行った元クラスメイト達が何をしているか想像しているだけだ。


「はー、ほんま俺達なんで異世界に行けなかったかな」

「あんな話してたからだろ多分」


 義人は相変わらず行けなかった事を後悔している。

 反対に拓郎は平穏無事な生活を送れて、今の生活に不満は感じていない。彼女ができない事や、勉強に苦戦していると思う事もあったが、荒事に巻き込まれるよりはましだと思っていた。


「はあー、移動中の異世界転移もありだと思うんだけどなぁ」

「やめてくれ、フラグになったらどうするんだ」

「フラグがあるって事は主人公になれるチャンスじゃないか」


 そんな事を口にする義人に呆れている拓郎であるが、嫌な予感を感じていた。

 ざわりとする様な感覚が体を駆け巡る。


「きたきたきた!!」

「え?」


 義人が興奮して騒ぎ出した。

 何事かと拓郎が周りを見回すと、周りには魔方陣の様な模様と円が現れて、光り輝き始めていた。


「やっぱりフラグじゃないか!?」

「いええええい」


 周りの通勤中の学生やサラリーマンなども驚き魔方陣を眺めていた。

 慌てて飛びのこうが、意味が無い。

 大きな魔方陣から逃れるなら電車から降りないといけないくらいだ。

 3両編成の車両の為、後ろの車両に移れば回避ができるかもしれないが、魔方陣の方がそれを許してはくれないだろう。


「やっふうううううう!!」

「うるせぇ、耳元で騒ぐな!

 つうか召喚って決まったわけじゃないだろ!」


 拓郎は隣で叫ぶ人間の声を耳を塞いで対応する。

 しかし次の瞬間、魔方陣が光り輝き、目を開けている事すら難しくなりおもわず目を閉じてしまう。


「……、あれ?」


 拓郎は恐る恐る目を開ける。

 また謎の白い空間に飛ばされているか、異世界に行き目の前に未知の光景を想像していたが、目の前に広がる世界は何時もと変わらぬ登校時に使用する電車の中であった。

 隣を見ると、真顔でじっと目の前の見ている義人の姿がった。

 周りには人の気配がなく、隣の車両から恐る恐るこちらの車両を見ている人の姿があった。


「…どうやら転移を拒否させられたみたいだな」


 拓郎の言葉に義人は反応しない。


「おいおい、正気に戻れよ」

「俺は正気だ、正気だからこそ、怒り、そして悲しむ」

「……そうか」


 義人は眉を顰め複雑な表情をしていた。

 心中察し、励ますでも慰めるでもなく、拓郎は同じ様に目の前の流れる景色を見ていた。

 ただ拓郎は心の中で異世界に行かずに安堵していた、それは落ち込んでいる義人の前では言えないが。


「…運転手と、転移の時合った役人に報告しないとな。

 またマスコミに追い掛け回されるのか…、あーめんどくせ」


 拓郎はこれから起こる事を考えると頭が痛くなってきた。

 去年の騒動でマスコミに追い回された事が頭に浮かび萎えてきた。


「運転手ー…、あれ?」

「…どうした?」

「運転手居ないんだが…」


 義人が拓郎の視線の先を見ると、そこに居るはずの電車の車掌が居なくなっていた。


「巻き込まれたな、羨ましい」

「いやいやいや! それどころじゃないだろ」


 車掌が居なくなったのだ、つまり今ここで電車を操作できる人物は居ない。

 その為この電車は現在をもって暴走電車という事になる。


「やべぇな」

「そうだな」


 迷惑な転移である、そう思いつつ拓郎は運転席へと向かって行った。


「お、おい」


 義人が呼び止めるが、拓郎は止まらない。

 それどころか自信満々の様子だった。


「お前言ってただろ? 考えておけって」

「え?」

「転移した後の事だよ、乗り物で転移なんて物も話にあったからな。

 その事を想像して怖くなってバスと電車の運転方法は調べてある」

「マジかよ…、お前頼もし過ぎるだろ…」


 拓郎が運転席に付き、レバーなどを確認し始めて笑顔になった。

 どうやら知っている通りの操作をすればいい様だ。

 義人は黙ってそれを見守って、電車が止まるのを待った。

 電車は拓郎の操作で徐々にスピードを落としていき、衝撃も無く駅に停車するように緩やかに止まった。

 それから無線を使用し、報告する姿を義人は逞しくなったなと眺めていた。


「お前、あの空間に行った時は頼りなかったのにな」

「そりゃそうだ、お前に不測の事態に備えて事前に覚えとけって言われて覚えたんだぞ」

「知らんかった」


 拓郎はサバイバル術などを様々覚えて来た。

 それがいま役に立ったのだ、その苦労も報われるというものだ。


「あれ? でもお前俺より異世界オタクになってるんじゃね?」

「そうかもな…」


 ネタを仕入れては仮定し、その事態に対応できるようにしていた。

 だから最近では義人並みに知識がある。


「ただ経済とかは勘弁、商人系も」

「お前そこまで考えてたのか。

 まあ俺も無理そうだそういうのは」


 国を立て直す事を目的とした異世界転生や転移モノも読み漁ったが、それをなせる事は難しそうだと思っていた。

 商売をする時の駆け引きは、見ているだけで疲れると思いながらその小説の話を読んでいたりした。


「また無線来た」

「はあ、面倒だ」


 さきほど鉄道会社に説明していたが、それを鵜呑みにできるほど相手は非常識な人間ではない。

 これから来る面倒事を想像し再びため息をついた。

 結局勝手に操作した事を咎められる事無く、再び検疫に駆けられたり、マスコミに追われたりしながら過ごす事となった。



 それから三か月後になると噂が落ち着いてきたが、二人の周りには一緒にいれば異世界に転移できるのではないかと思っている人が現れたりもした。

 なんとなくそんな人種と付き合ってみると、最初は話さなくても次第にそんな質問をしてくるのだ、目的が分かるとあまり付き合いたくなくなってくるものだ。


「…という事があったんだ」


 そんな事を拓郎は義人に報告すると、呆れて答えた。


「俺は普通に接してるぞ、俺も行きたいからな」

「気楽でいいな、逆に行きたくないって思ってる奴は離れて行って辛い」

「真の友達じゃなかったってだけだろ」

「真の仲間みたいに言うな、まあ、仕方ないか」


 人間関係も様変わりしてい来る。

 それが煩わしく現在の悩みでもあった。


「だいたいさ、あの転移陣、俺達中心じゃなかったよな?」

「そうだったな」


 対象者は近くにいた男子生徒だったことを記憶している、俺達はその少し離れた所に座っていた。

 そうなると二人は異世界に行った所でモブその1と2の様な者だ。


「なんで転移しなっかたんだろうな?」

「多分あれじゃね? あの時あった幼女が俺達だけキャンセルしたとか、俺達に異世界に転移しないように何か細工したとか」


 あれから義人は何故転移しないのかと嘆き悲しみ落ち込んだ。

 そして理由を探してそんな結論に達していた。


「普通の状況なら転移されるはずだ」

「まあ、な」

「けどそれが無かった、じゃあ原因はあの幼女だろう」


 憎たらしく、義人は白い空間で出会った少女の事を思い浮かべ、苦虫を噛んだような表情を作る。


「もし幼女の場合、転移したあいつらが失敗した可能性もある」


 元クラスメイト達の事を言っているが、それを口にしても義人は表情一つ動かさない。

 失敗したという事は、死亡した可能性が高いという事である。

 義人は元クラスメイト達に関する感情はほぼなくなっていた。


「けど前は転移の陣出てなかったよな」

「それな、だから後者の可能性もある」

「後者だった場合は、また別な世界とか? ノータイム転移は元々飛ぶ予定だったところで、今度のはまた別な世界」

「さあな、でもどっちにしろこれから先俺達は異世界に転移は難しいだろうな」

「…俺はそれでいいけど」


 義人はため息をついて、電車の席にもたれ掛かる。

 近くには二人を監視してる国の機関の人物が居た。

 二回目の転移事例で、尚且つ巻き込まれた二人ともあればマークしなくてはならない。


「そこの人、堂々と隣に居てもいいよ」


 義人が手招きして彼等を呼ぶ。

 前回の時も数か月ほど監視が付いていたので、慣れてしまった二人には、誰が二人を監視しているかは大体察しがついていた。

 しかし義人が呼んでも監視者はばつが悪そうにして視線を逸らすだけだ。


「前々からついてきてるの分かってるし、良いよ隣で監視して」

「おいおい、仕事なんだから困らせるなよ、ばれてないふりしてあげないと」

「えー、だって隣の方が会話に混ざれるし、それにあっちも助かるべ」

「接触したら接触したで上から何か言われるんだぞああいうの、そっとしておくのが良いって、報告して交代とか手間もあるだろうし。

 暢気なものだなクソ学生めーなんて事しか思ってないって」

「まあそうかもしれんが、護衛とかもあるだろ、他の国とかどっかの機関とか俺達を誘拐しそうだし」

「考えたらキリがないなそういうの。

 護身術も身に着けるか…」

「俺も考えてみようかな、いろいろ役に立ちそうだし…」



 しかし、襲撃や拉致といった事も起きず、二か月が過ぎ、秋の気配が感じられる季節に変わっていった。

 一回目の転移事故から一年が過ぎた頃、ついに帰還者が現れた。

 それを知らせてくれたのは国の機関であった。

 前々から帰還したら教えてくれとダメ元で言ってたのだが、本当に教えられるとは思ってもみなかった。

 ただ今回教えてくれた事にはどうやら理由があった様で。


「酷い状態だよ」


 二人の自宅に立派な車が止まると、二人を連れ出して車で数時間掛かるとある施設に連れていかれた。

 車と自宅で軽く事情は聞いていたが、詳細についてはあまり聞かされていなかった。

 なんでも中学、転移した教室に突如として彼らが帰還したのだという。

 それを目撃した生徒や、教師、周りの人物たちのを巻き込んで検疫、そして除菌を徹底的に行われたと話も聞いた。


「何があったらあんな状態になるのかね」

「やっぱ行かなくて正解だったわ」


 帰って来たのは24人中7名のみ。

 話を聞いてみればそれ以外全員死亡したという。

 そして帰還した人々もボロボロの状態であった。

 女性は妊娠し発狂していたり、男性は身体の一部が欠損していたり、また精神に異常をきたしていたり、正常な精神状態であっても何かのきっかけで暴れだしたりと、それはもう散々な状態だった。


「正常な人ってあの二人だけ?」

「誰だっけ、見覚え無いわ」

「居たよな…いなかったような」


 二人の見ている人物たちは元クラスメイトであるが、その表情に幼さをあまり感じられない。

 表情も垢ぬけていて、すっとした落ち着いた状態であった。

 精神的に成長している、大人を見ている様な状態気分が二人にはあった。

 しかし帰還した二人にはその人物たちの記憶があまりない。

 クラスで目立たなかった人物なのだろう。


「やっぱり未知のウイルスもあるんだね」

「んだな」


 義人と拓郎は防護服を着て、施設の中に入り、隔離された所から映像を介して見ていた。

 それほどまで厳重な態勢でしか帰還者を見る事ができない。


「あの中学もしばらく閉鎖して生徒も隔離されるんだっけ?」

「らしいな」


 正常な状態の人物から話を聞いたところ、転移した世界は中世ファンタジー世界で、魔法などもありったと説明した様だ。

 さらに転移した国でとても活躍していたと帰還者たち話すが、身体能力は年齢にたいして鍛えた程度の体力しかなく、魔法なども使えないそうだ。


「利用されるだけ利用されてポイか?」

「さー、そこまでは聞かなかった」

「けど返されて力も取り上げられるタイプだったか、記憶が残ってるだけでもマシ、か?」


 詳細は分からないが、本人たち曰く活躍したとしか言っていない。

 どんな活躍をしたのかは定かではないが、帰還者を見て碌な事をしていなかったのだろうと義人と拓郎は思った。


「俺達呼んだ理由も聞き出すためだろうしな」

「そうだろうね、元クラスメイトとか家族とかなら情報聞き出せるって思っての事だろうし。

 ね?」


 二人そろって一緒についてきている防護服越しに眼鏡をかけている男性に聞くと、苦笑いをしていた。


「どんな話聞き出したいの?」

「ある程度なら誘導可能かもしれん、怒らせて機嫌損ねるかもしれんが」


 そういうと苦笑いしながら申し訳なさそうにして言った。


「その、転移した世界の説明は、…まあ、それなりにしてもらったんですが、どうも言い辛そうにしていて」


「ああ、まあ、なら想像はつくかな」

「やっぱ人間同士とかただの国同士の戦争に駆り出されたとかかな?」

「お二人は、デリケートな事もぐいぐい言いますね…」


 少し二人に呆れている男性に案内されて、マイクと映像がある部屋までやって来た。

 男性がマイクにスイッチを入れると、監視している部屋の電話が鳴り響く。

 中でベッドで横になっていた少年が立ち上がり、電話に渋々ながら出てきた。


「おー出た出た、久しぶりだな、元気だったか」

「いやいや元気そうじゃないやん」

『…誰だ?』

「ご挨拶だな、俺だよクラスメイトだった佐々木義人だお」

「田中拓郎だぞ」

『……知らん』


 少年は考えたが思い出せない様で、その一言だけ呟いた。

 覚えているが、ふざけた様に話す二人に腹を立て、知らないふりをしているだけかもしれないが。


「奇遇だな、俺も知らないんだわお前の事」

「多分目立たなかったからな俺達も、お前も」

『……』

「まあそう嫌そうな顔をするなよ、俺達もあの白い空間まで行った仲じゃないか」

「俺達はあの神ぽい精霊の様な幼女に危険と言われて、教室に戻されたけどな」

『はあ?』


 そこでやっと感情が動いた。

 あからさまに呆れ、同時に首を傾げていた。会話の意図が見えず、狂人と思われたのだ。


『お前ら何を言ってるんだ?』

「ああ、お前達は結局誰があの空間に送ったのか分からなかったのか」

「俺等だけで対面か」


 何を言っているのか少年は分かっていない。

 少年は一度も異世界に送り込んだ少女の存在すら知らない様だ。


「いやー苦労してきたみたいだな」

「そうだな、大変だったな」

『…お前らに何が分かる』

「ん? どうしたんだ?」

『お前らに何が分かる!! 俺達がどんな思いで生きてきたのか分かるのか!!』


 苦労も知らず、のうのうと平和な国で生きている二人に少年は腹を立てる。

 声を荒げてそう答えるのを見て、義人は情報が引き出せると思い、話を続けた。


「知らないよ。

 ただ大方召喚された国でこき使われてたんだろ?

 馬車馬の様に働かされてたんだろ?

 国の為とか言われて」

『…!?』


 まるで見てきた様な義人の言い草に少年は驚いてカメラに向かって視線を向けた。


「騙されて欺かれて、帰れると言われて、必死に頑張って。

 それで沢山殺したんだろ?

 魔物? 異種族? 人間?」


 順に倒してきた者を言い当てる様に喋ると、どれにも反応を示した。

 魔物は日常生活で対峙していたのだろう、それほど反応は示さなかったが、異種族と言われ反応が過敏になり、人間と言うと頭を抱えた。

 少年はどれも殺してきたのだろう事は、その様子で分かってしまった。


「戦争に駆り出され、味方が死んでいくのを見て、犯されるのを見て」

『やめろ!』

「召喚された理由も考えず、力を振って生き残って来た」

『やめろやめろ!!』

「…お前、ひょっとして逃げたな」

『違う! 逃げたんじゃない! 助けようとしたんだ!!』


 最初見た時の少年の精神状態がそれほど憔悴しきって居なかったため、正常に話せるから大丈夫と踏んでいたが、話せば脆くなっている事に気づいた。

 そして義人は、少年は逃げたのではないかと推察した。

 逃げたおかげで多少なりとも精神の消耗は少なく、それだけ正常なのではないかと。


「まあよく頑張ったよ。

 俺なら見捨てて異世界観光としゃれ込んでただろうし、内政知識を利用して一儲けしつつ力を蓄えて安全な国か海を渡って逃亡が無難かな」

「まあその前に魔物とか言葉とか文字や常識の問題もあるけどな」

「お前そんなんばっかただな」

「夢を追うよりはいいだろ?」

「せやな」


 そんなコントをしていると、少年は恨めしそうに話し始めた。


『お前らが居れば変わってたのか? どうにかなったのか?』

「さあね、状況も詳細に分からないよ。

 生き残りを見ての感想だから」

『……お前の言ったとおりだよ、呼ばれた理由も国同士の戦争だった。

 悪逆非道な帝国を打ち倒すのだ…、ってさ、だから思うじゃん、魔王とか魔族倒してさ、強いモンスターを倒す勇者って皆が…』


 乗せられ行動したのだろう、帰る為にも国の助けが必要と。

 だから国を守り、世界に平和をなど適当な事を言われ行動したのだろう。


「やっぱりあの時話していた通りになってるな」

『どういうことだ?』

「あの空間で国同士の戦争になるとか、魔族言ってもエルフとかの亜人というか異種族と変わりなかったり、人間と違う見た目だから敵としてしか見てないとかそんなの話し合ってたんだよ、人間至上主義の国だーとかな」

「そしたら異世界行き拒否されたってわけさ」


 そういうと少年はその場に力なく尻もちをついて呆然としていた。

 義人と拓郎の話し合いをしていた内容が正解していたのだろう。


「あの幼女、精霊でもあり神だったのかもな、しかもあの国限定の。

 もしくは勝利の女神とかそういうので、あの国が祈りを聞き受けて召喚したとか」

「ああ、そうか、そういう解釈もできるな」

「すると二回目の召喚、あれは敵国とかが召喚したとか?」

「いや、まだその世界とは決まってない、また違う異世界かもしれん」

「けど俺達拒否された理由が」

「やっぱりあの幼女に何かされて、異世界には飛べないようにされたんじゃないかな」


 途中まで少年は俺達の話を聞いていたが、途中から受話器を置いて、話を聞くのをやめた。

 付き添っていた大人に二人の会話を中断されて、一度防護服が必要のないエリアまで連れていかれる。


「やっぱり未知の細菌とかあったんですか?」

「あったらあったで、海外とかから要請きたりするだろうな」

「今は公式発表を控えてますが、近々それに関しても公表になるでしょうね」

「おー、やっぱりあるのか、けどどんな細菌なんだろ? 人型が居るなら似たような細菌の可能性もあるかな。

 けどあっちには魔力がるって話だし、不思議な力を持っていて弱いく消え去った菌が残っている可能性も…」

「拓郎は科学者にでもなるつもりか?」

「いや、ならんよ」

「…逞しい方達ですね、こちらは天手古舞だというのに」


 羨ましそうに役人の男性が苦笑いしている。

 微妙な立場なのか、様々な重圧もあるのだろう精神的に疲れている様だ。


「それよりも、異世界が存在すると分かったんだ、常識が崩れてこれから大変になるだろ」

「それ様に対処マニュアルとかできるだろうな」

「むしろ、根拠のない話にもこれからは目を向けないといけなくなるだろうな」

「どういう事だ?」

「ほら、昔話にあった話とか、妖怪とか吸血鬼とかの話、それに最近だと行方不明者とかさ」

「ああ、眉唾物の話が実は本当だったとか、行方不明者とかは異世界に飛んでいたとか?」

「そうそう、後は想像していた世界は、実は第六感で透視したとか。

 ほら、ファンタジー作者とか、エルフもあっちに居たかもしれんし、それを透視して、インスピレーションが沸いたとか思い込んで物語にしたり」

「…それ悪魔の証明になるからやめようぜ」

「想像するだけならタダだろ」


 役人は二人の会話を異様なものとして見ていた。

 昔なら一蹴りしていた話だろうが、今はもう実体験した者の仮定話であり、無下にもできない空論でもあった。


「そうで、今回の会話は録音されていたのですが…」

「やっぱりそうだよな」

「されてるよなぁ、まあ、恥ずかしいけど、しかたないにゃー」

「いいよ」

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