第十七波『ピカレスク・ニート ~汝、暴虐なれ・元ニートは地球も異世界も救う〜』
本日のタイトル
『ピカレスク・ニート ~汝、暴虐なれ・元ニートは地球も異世界も救う〜』
著者:「Ginran」様
ジャンル:ニート・イン・ザ・ダーク
タイトル評価:4.0(最高5.0)
非常に秀逸なタイトル。
私には到底つけられない言葉の並びであり、作者の高いセンスを感じた。
更にこのタイトルの好点はそれだけにあらず、作品の内容を綺麗に表現している所にある。
『ピカレスク小説』とは社会的地位の低い者を主人公に据えた、一人称視点による小説という意味であり、『ピカレスク』だけとなると悪党、賊、チンピラというような意味になる。
つまりこの作品は、社会的下層民主人公による、暴力と不条理に満ちた反社会的な物語であるということである。
それだけに惜しい。
『元ニートは地球も異世界も救う』というフレーズは蛇足だった。
これはあらすじにあるべきだろう。
「ピカレスク・ニート」と言っているのに、「元ニート」と言ってしまっては「じゃあ最初からニートじゃないじゃん」と言いたくなる気持ちがわかるだろうか。
単純に、今言うべきではない、という邪魔なフレーズなのである。
あらすじ評価:2.0
タイトルでこれだけのセンスを見せながら、あらすじに来てこのやっつけ仕事にはがっくりさせられた。
一人称視点で描かれているはずだが「少年」という単語が出てしまっているし、殆どあらすじの体をなしていない。
ただ、ただ残念だ。
ここで『この小説、異世界も地球も救う話だよ』というようなことを書いておけば話の展開もわかりやすく、読み手も準備しやすかった筈だろう。
タイトルが良かっただけに、実につらい減点である。嗚呼、勿体ない。
世界観評価:4.0
この作品の大きな特徴の一つは導入部での世界に対する順応である。
それは主人公だけではなく、読者が順応する為の時間でもあり、これほど自然に異世界へと順応していく過程を描いた作品なかなかに見当たらない。
既に書籍化している異世界転移系作家さんにも「これを見習え!」と勧めたい程で、「異世界に飛んだ人の正しい行動」の見本をまさに描いている。
サブタイトルが違えば、と思わなくもないが、そこは冷めた目でやり過ごすことに決めた。
その他、種族や生活感の構築は深く丁寧に作りこまれており、ふとした表現が光景として目に浮かびやすい。
色や音がこちらにまで届きそうな言葉の並びにもセンスを感じるのが非常に高評価。
減点としたのは都市や国の位置関係のわかりづらさによる。
大抵の作品ならばこの程度減点しないのだが、これだけ世界を作りこんでおいて何故、地理や距離については描写しないのか。
他の出来が良いだけに本来隠れてしまうようなちょっとした粗が目立ってしまったという、私としても不本意な減点となった。
文章評価:4.5
どの方面からみても非常に高水準。
水準が高いだけに、この作者に対して誤字・御用が少ないとか脱字がないというだけで評価点をあげたくない偏屈さが顔を出してしまった。
しかしそれでは公平さに欠けてしまう為、歯を食いしばって評価点を上げることにする。
また、この作品の文章は自然と目に流れ込み、文字が文字で終わることがない。
時に色付き、時に香り高く、時に心苦しさを読者に届けてくれる。
私の琴線をエレキギターの如く掻き鳴らし、無理矢理自制しなければ読み止める事が出来ない程の強い引力を持つ文章に感じられた。
内容評価:3.0
先ず、これは「なろう的評価」であることを前提として伝えて置かなければならない。
極端に主観に偏った評価ならばさらに1点高くなるのだが、こと「小説家になろう」というサイトに置いて、この話が大々的な人気を持つ未来は恐らく来ないのではなかろうか。
詳しい理由を言おうとすると盛大にネタバレしてしまうので殆ど触れる事は出来ないが、ヘイト耐性が低い人はまず読めないとだけ言っておく。故に3.0という半端な高評価に留まった。
しかしそれを乗り越えた先に4.0の未来が待っているので、これを読む方はぜひ堪えて欲しい。
本当は4.5ぐらいつけたとて良いぐらいの展開なのであるからにして、3.0に留めざるを得なかった苦心を察して貰いたい。
総合評価:4.0
なろう受けはしない。しかし名作である。
仮に私が出版社を経営していて、何らかの賞や名誉を独断的に与えられる立場であったなら、この作品を何らかの形で顕彰しているはずである。
いっそ国語の教科書に載せたらどうだろうか。流石にオツベルと象に比肩するとは言えないが、それでも名作であることには変わりない。(どうでもいいが私は宮澤賢治先生のファンである)
仮に宮澤賢治先生が今、このサイトで小説を書いても人気は出ないだろうからそういった意味では同類である。
私はそれほどまでにこの作品を評価している。
勿論、他の人にとってはこの世界の水が合わないということもあるだろうが、そうとしても参考教材としての使い道はあるかもしれない。
拘り過ぎだろうか。しかし稀有な作品であると私は強く思うのであり、これを紹介出来る光栄を感じながらこの総評を書いている。
暇があるなら一読を。無駄な時間にはならない事請け合いである。
作品リンク
https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9683cw/




