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第十六波『斎藤義龍に生まれ変わったので、織田信長に国譲りして長生きするのを目指します!』

  本日のタイトル


『斎藤義龍に生まれ変わったので、織田信長に国譲りして長生きするのを目指します!』




  著者:「巽未頼」様






 ジャンル:医療系歴史ファンタジー






 タイトル評価:1.5(最高5.0)

 パッと見から心惹かれないタイトルだとは思っていたのだが、内容を読んでみると尚更このタイトルで良いのかという心配が浮かんでくる。

 心惹かれないというのは「どうせ内政・軍備の知識チートを用いて列強大名になって、鉄砲抱えて常勝無敗で天下取りに行くことになるのだろう」というなろう系歴史ファンタジーのテンプレルートを辿るとの思い込みが勝り、タイトル通りの内容にはならないと踏んでいたことによる。

 そして現状でほぼ予想通りの展開となっているので、タイトルは最早大した意味を持っていないものとなった。

 折角この作品には珍しい特色があるのに、それをタイトルに反映させないのは実に勿体ない。




 あらすじ評価:2.0

 必要最低限の筋は書いてあるが、どう考えても不足している。

 作品のあらすじと作者からの告知&注意書きが同程度の行数というのもやるせない。

 タイトルとあらすじの2つから見るに、この作者は伝えたいことを短くまとめるのが苦手なのだと思われる。

 そう思ったからこそ正直、歴史物を書く為の語彙力に不安を覚えながらの及び腰状態で読み始めたものだが、その点においては良い意味で裏切られたといえる内容となっている事に感心させられた。




 世界観評価:--

 史実ベースであり、日本史に忠実なので世界観は評価項目に含めないこととした。

 これが例えば妖怪が出てきたり、宇宙船が出てきたりすると話は変わるのだが、とんでもないものは主人公だけなので評価しようがないという事でもある。

 



 文章評価:3.5

 まず一口に歴史ジャンルと言っても、「歴史物」と「歴史系ファンタジー」の2つがあると言っておく。

 「歴史物」とは「史実を再現した物」であり、「歴史系ファンタジー」とは「舞台が史実である物」という違いがある。

 この作品は「転生者」という史実にない重要要素が混じっている事から後者に属する。

 『それはわかるが、この話は文章評価ではないんじゃ?』と自分でも言いたくなるところだが、そのどちらに属するかによって同じ文章でも評価点を大きく変える必要があるという事を伝えておきたいが為に上記の話を用いてみた。


 「歴史物」は「史実を再現した物」であることから、登場する人物の言葉遣いや登場する物がその時代にある程度則する必要がある。

 その代表例が「ござる」「候」「拙者」という三語となる。


 比して「歴史系ファンタジー」は「舞台が史実」なだけで、登場人物は全て史実にいた人間と同姓同名の架空人物という扱いになるので、口調や容姿ががどうであれ構わないという事となる。


 ファンタジーはあくまで史実に類似した物、もしくはどこかしらに史実と共通点がある物であって決して史実ではないので「歴史上こうだったのに、この作品でこうなってるのは間違いでは?」という追及などは、史実とファンタジーを混同しているだけで正直愚の骨頂である。


 それらの事を踏まえて評価する場合、この作品はファンタジーであるのだから口調が砕けてようが容姿が史実とかけ離れてようが減点対象にはならない。

 逆に現代口調に近いソフトな表現が多い為、歴史系に苦手意識を持つ人でもある程度読みやすい内容となっている。

 その点を私は評価した。

 追加として、誤字脱字、構成、改行、更に想像だけではわかりづらい部分に絵図を用いて表現している丁寧さも高評価。




 内容評価:4.0

 歴史系ファンタジーで最もありがちな『平和な現代を生きた人間が転生したらなぜか全く人死に忌避を抱かない無情なる戦国大名になった』という不自然さ、とは真逆の人間が主人公の作品といえる。

 主人公は医療従事者であり、人の怪我や死に対しては現代一般の人間よりも強い反応を見せる人命至上主義者である。

 その為、とにかく人が死なない事を主目的に行動しており、現代の価値観を失わずも戦国時代の命の安さに対して必死に向き合っている主人公の姿が他の歴史系ファンタジーにはない特色となっている。


 少し脱線気味な話だが、歴史好きなだけの学生やら、一会社員やらが、いきなり人の上に立ち、数千、数万の人間の命を握って失敗もなく立ち回るというのは極めて不自然であり、私はそういうのがあまり好きではない。

 戦国時代に生きた人間には人の上に立つ事に馴れている者も多いだろうし、平和に塗れた人間がそういう人間達の上にたって軋轢もなく上手くいく筈などあるわけがないと考えている。

 そして周囲の大名家には内部争いや軋轢があるのに、主人公がいる家や領地だけは皆忠実で仲たがいなど考えた事もありません、という機械人間だらけの作品となればもはや読む気が失せる。

 

 しかし、しかしである。この作品は、とにかく内部争いに傾倒しており醜い人間らしさがまざまざと表現されている。

 というよりひたすら内部抗争に明け暮れる事を余儀なくされており、うっかりしたら家が滅びそうな綱渡りを強いられている。

 そこがこの作品のもう一つの大きな特色かつ魅力であり高評価に値する美点である。

 がゆえに、その醜い部分をあらすじで書いて欲しかったと私は勿体なさを感じてしまった。


 減点となったのはタイトルでも触れた通り、現状を見ると「平穏無事に国を譲る」ことなど、到底不可能と思える内容となっていることである。

 そもそもが既に織田家より斎藤家の方が勢力として上か、悪くても互角となっているので、そのような状態で美濃国を明け渡しますといっても、家臣や国衆一同から「何寝言言ってんだふざけんな」となるのは明白である。

 更に美濃国守護を朝廷から任命されているため、最早世代交代以外で平和的に国主の座を降りる事は許されないとも言える。

 今後、タイトルのような展開に戻るには自勢力を衰退させる必要があるが、そうなるとまた内乱だらけになるので収拾がつかなくなるだろうし、元より主人公がやろうとしている事に反するので有り得ない展望である。

 減点はしたものの、その点を今後注視しつつも期待していきたい。




 総合評価:3.5

 平均評価でいうならば3.0程度なのだが、この作品はとにかく内容評価に重点を置いている為、タイトルやあらすじの評価はそれほど重要ではないとした。

 素直な感想でいえば、『もうちょっと頑張って』と言いたくなるのだが、『ではどんなタイトルなら高評価となるのか?』を問われた時に良回答が中々浮かばないので、自分にして難しい事を他者に要求してぐちぐちいうのも変な話だろうと思うのでこれ以上追及しないこととする。


 この作品の見所はやはり、主人公の特異さと、いかにして信長に国を譲れる状態に持っていくかである。

 それを不自然さなく描ききれるのであれば、私の評価は一変することだろう。

 とはいえ違う着地点に落ち着いたところで、それはそれで私の想定通りでもあるので、だからといって評価が下がるということはないかもしれない。

 まぁタイトル評価が0.5、あらすじが1.0ぐらいまで落ちる可能性はあるが、先述した通りに良い代案も浮かばないので何とも言えないところである。

 

 それはそうと、歴史系ファンタジーの中でもかなり親切、丁寧に書かれている作品であることは間違いないので、これから歴史系ファンタジーに初挑戦してみようという方や、今まで苦手としていた方もこの作品ならばちょうど良い塩梅で味わえるだろう。

 ちょっとでも好奇心をくすぐられたのであれば、さらさらと読み進められるかもしれない。

 是非、ご一読あれ。

作品リンク

https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n1980eh/

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