第十五波『地味な剣聖はそれでも最強です』
その他、読んでいる・読んだ作品。
『四度目は嫌な死属性魔術師』…現在30話。タイトルに「嫌な」とあるのだから、主人公は嫌われ者であった方が個人的に面白みを感じただろうと思う。
『史上最強の大魔王、村人Aに転生する ~村人(規格外)による、普通だけど普通じゃない英雄譚~ 』…書籍化広告に釣られて読んでみたものの、私の琴線に触れるところは何一つなかった。主人公は規格外でも作品は通常規格。
『ピカレスク・ニート ~汝、暴虐なれ・元ニートは地球も異世界も救う〜』…58話まで読んだ現評では、埋もれている名作と言った評価。書籍化しても当然とさえ思える出来栄え。ただ万人受けはしないのだろうとも思う。
『リアリスト魔王による聖域なき領地改革』…リアリズムの意味を辞書で引いてみた。私はそれを作者に伝えるべきか悩んだ。しかし止めた。何故ならこの作品とリアリズムという言葉には一分の関係性もないからである。
『斎藤義龍に生まれ変わったので、織田信長に国譲りして長生きするのを目指します!』…歴史ファンタジーの秀作。こうだったら面白いなという要素がふんだんに盛り込まれている。
『男なら一国一城の主を目指さなきゃね』…現在10話まで。後回しになりそうなので評価はまだなし。
『光武大帝伝』…ファンタジーではない中国史物。よく出来ている上、作者の愛が伝わってくる。
『最強の魔導師は平穏を望む ~寝過ごして目覚めた五百年後の世界でも最強のままでした~』…例えば還暦を過ぎて、老後は平穏に暮らせればと望む人達がこれを読んだのなら「平穏」に過ごすことを諦めるのではないだろうか。
本日のタイトル
『地味な剣聖はそれでも最強です』
著者:「明石六郎」様
ジャンル:最強と言う言葉の意味について考察するファンタジー
タイトル評価:2.5 (最高5.0)
作者の意図がわかるようでわからないタイトル。
初見では、剣のみに特化しすぎたあまり隔絶した戦力を持つに至り、戦が瞬殺ばかりで地味になるという意味なのかと考えた。
内容を読むと予想通りかとも思ったが、しかし読み進めていくと地味なのは戦い方だけではない。
まず生活が地味であるし、さらにとりまく環境がド派手でありながら主人公が振り回されない事がより物語自体までもを地味に見せている。
また主人公の周りには金銭的、地位的、戦術的、戦略的などの生来チートが勢揃いしているが、主人公はその中でどれをとっても役立たずである。
戦力的、には優れているが、戦術、戦略規模においては価値が低く、名誉こそ持ってはいるが、地位も金銭も持っていないし興味がないというスタンスをとっている。
それがことさら地味さを助長している、などと考えた上でタイトルを見直した結果、やはりよくわからないタイトルだなという結論に至った。
それ以外で気になった箇所は「地味な剣聖」という言葉に「それでも」が繋がっていない点である。
「それでも」とは「不変」「状態維持」という意味であり、「昨日に比べて気温は上がったが、それでもまだ寒い」というように、何らかの変化をもたらす事象が起きても依然として本質(寒いという状態)は変化していないという意味で用いられる。
それをふまえてタイトルを考えると「地味な剣聖」と「それでも最強」という言葉には全く互換が見当たらない。
「地味だが最強」という風に使っているのだとは思うが、「それでも」は「なお」という言葉に置き換えれても「だが」には置き換えられない。
「地味な剣聖は、なお最強です」と言い換えた時に意味が通らないという事は、意図的に「それでも」という誤用に特別な意味を持たせて使用しているか、もしくは単純に間違っているという2つになる。
そう前提した上で作品を読み返し「それでも」の意味について考えてはみたが、私の出した結論は「誤用」であった。
ゆえに減点評価とした。
また「地味でも最強」という言葉の並びが「最強と言われる人間は何故か皆戦い方が無駄に派手」という揶揄であるとしても、「でも」と「それでも」は用途が違うので結局減点には値する。
あらすじ評価:3.5
過不足なく、程々なあらすじであり、さわりの部分を紹介するという種類のあらすじとしては丁度いい。
しかし何だろうかこの地味さは。「おおこれは」という興奮も覚えなければ、「うーんこれは」と腰が引けることもない。
目が止まるのは「五百年の修行」と「世間一般基準では十分最強」という2つの不思議な言葉で、「世間一般基準では人間は五百年も生きない」という根本的な疑問を与えられた。
更にいえば「一般基準で考えれば精々人の身体的全盛期は20代前後の10年そこらで、生まれてから30年すれば衰えが始まる為、実質的に成長は30年程度だというのに、その一般基準上の最強に至る為におよそ16倍の500年というのは何事だろうか」という疑問も浮かぶ。
それらは別に悪条件というわけではなく、疑問とは興味であり好奇心を引くものなので私を釣るには良いあらすじだということである。
世界観評価:2.5
世界は広いように感じるが、実は描写されている世界はかなり限定されて局所的である。
まず、名前も役職もないようなワンシーン限りの一般人が全く出てこない。
そして生活感が全くない。
ではそれが悪いことかといえば、作者が必要ないと考えているのであれば悪いともいえない。
余計な一般人や会話をいれると世界観や生活感は繊細になるが、逆にいえばそれだけ文字数をとられ雰囲気を削られる。
よくいえば、ほのぼの。悪く言えば中だるみしやすくなるので、作品の雰囲気にあわないと考えれば余計な人間が一切出てこないという事もありだろうと思う。故にこれは減点対象とはしない。
ではなぜ2,5という中間評価止まりなのかといえば、しばしば「これ何の為の物語だっけ」という疑問にぶちあたることによる。
同じ疑問を抱く人が多いかどうか知る術もないが、私には主人公が結局何をしたいのかがさっぱりわからなくなることがある。何を目的で生きているのかがわからなくなる、ともいえる。
極端な話「彼が主人公であってるよね?」という疑問さえ出かかることまであった。
適切な言葉を用いるのが極めて難しいのだが、「なろう的ファンタジー」で始まった物語が「アンチなろう的ファンタジー・ファンタジー」といった感じの世界に変遷していっているような印象さえ受けており、作者の意図としてどんな世界を見せたいのかがよくわからないという意味で大幅な減点とした。
文章評価:4.0
書きなれているという印象を強く受ける。
誤字脱字の少なさもそうだが、何より文章という物をただの文章として書いているのではなく、一言一句に「これを伝えたい」という意思を込めており、その意思の群れを纏めたものが文章であると胸を張って書いている自信も感じられた。
そういった作者の場合時折勢いが先走って熱に侵される事もあるのだが、この作者の場合は意思が熱暴走を起こして独り善がりになるという事も多からず制御されており、執筆した後しばらくして心と頭が冷めた時に他人ごとのように読み直して推敲しているのではなかろうかと思わせる丁寧さも伺わせる。
心配りもしっかりした構成となっていると感じた。
時系列的矛盾もなく構成的なミスもほとんど見当たらない仕事ぶりは非常に高評価。
減点としたのは、専門用語というかオリジナルの流派名や技名等に一切ルビが振られないという事にある。
私自身、より作者の意図や意思を感じたいがために、そういった独自の用語には一度でいいからルビが欲しいと思う性質であるが、「読者が好きに呼んでよいよ」という作者の寛容さからルビがないのだとしたら的外れな減点となるため判断が難しい。
しかし伝えたいという意思が多くみられる文章をしているのだから、やはり欲しかったとは思わざるを得ないという事でここは減点としておく。とはいっても悪いという意味ではない。
それともう一つ。
主人公の一人称視点による地の文で「お兄様」「お父様」という表記が多々見られた。
それはそれでおかしいというか気持ち悪いのだが、それが後に「隠居」や「当主」と呼称が変遷しまくっているのが殊更不自然に感じられた。
内容評価:3.5
作中、最も多く出てくる熟語は「最強」だろう。
そして最も多く説明されている言葉もまた「最強」だろう。
この作品は「最強」という言葉をなくして存在しえず、「なろう的最強ファンタジー」がなくても生まれなかった作品であると思われる。
いわゆる「俺TUEEEE」という奴だが、そういったものは早々に淘汰されるか、それだけの力があっても、変な言い方だがそれに見合った性格をしていない為、長期的俺TUEEEEが生まれようのない作品となっている。
その上で、簡潔にこの作品の内容を紹介しろと言われた時、私はこれほどに困る作品を思い当たらない。
簡単に読もうと思えば読めるのだが、難しく読もうとするとどこまでも難しい。
一筋縄ではいかないというか、評価が難しい。
仮に2人の人が100点満点中80点という同じ点数をつけたとしても、全く評価点の違う80点になりえるとでもいえばいいだろうか。それほど読み手にとって感じるものが違う作品となっている。
総合評価:3.0
よく出来ている。よく練られている。
そういった評価となるのが適切だと思う。
その上で、というより、それだけに物足りなさも感じる作品だというのが私の総評となる。
現状までを例えるなら、精密な計算によって予め飛行距離が正確に算出された飛行機が、想定通りの距離を飛んで着陸したといったところだろうか。
それが悪いことだとは言わないが、読書中は常に心が平坦であり、まるで参考書を読んでいるかの如く静かな世界にいるような心境になった。
考えさせられるが揺り動かされないというか、心底評価の難しい作品だなぁと感想を書いていてしみじみ実感しなおしたところである。
そのせいか、かつてない程に感想が長くなってしまった。
空白含まず3400字という短編一つが書けそうなほどのボリュームを四苦八苦しながらも、慎重に言葉を選びつつ書いてみたが、まとめてみると案外一つの言葉に収まるのではと、ことここにきてようやく気が付いた次第である。
その言葉とは何か、至極簡単である。
この作品を表すには一つの熟語があれば良い。それ、すなわち「最強」だろう。
作品リンク
https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9846ee/




