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第十一波『淡海乃海 水面が揺れる時』

その他、読んだ作品

『ふはははは~。倒幕派を殲滅してやったぞ~♪』……評価する言葉もなし。歴史でも文芸でもない。

『元貴族令嬢で未婚の母ですが、娘たちが可愛すぎて冒険者業も苦になりません』……設定と展開に矛盾が多い。忌むべき容貌の女性が不特定多数と同衾という時点で奇特な男だらけとなる上、処女検査をすれば事実確認が出来る嘘に騙されるというのも立場上おかしな話である。読み続けるのは厳しい。

『転生者が島津四兄弟の長兄島津義久となって日ノ本などを蹂躙するお話』……時代考証は素晴らしいが、九州が舞台ながらも標準語ベースであるというのが現実感を喪失させてしまう最大の悪要因。


 本日のタイトル

『淡海乃海 水面が揺れる時』


  著者:「イスラーフィール」様



 ジャンル:誰も知らない戦国物語



 タイトル評価:4.0(最高5.0)

 雰囲気があって良いタイトル。

 淡海乃海の意味がわからない方は取り合えず読んでみるとすぐにわかる。

 最高点より-1.0としたのは「揺れる時」より「荒れる時」等の方が雰囲気があったと感じたことによる。

 淡海は平時から吹走流で水面が揺れているので、静かな時の方がないという蛇足感も要因としてある。

 


 あらすじ評価:2.5

 『戦国時代、近江の国人領主家に男子が生まれた。名前は竹若丸。そして二歳で父を失う。その時から竹若丸の戦国サバイバルが始まった。竹若丸は生き残れるのか? 家を大きく出来るのか?』


 上記丸写しを勝手に添削校正してみると……

 『時は戦国。近江の国人領主家に竹若丸という男児が生まれた。竹若丸は戦乱により僅か二歳にして父を亡くしてしまう。これにより、二歳にして当主となった竹若丸の生存戦略が幕を開けた。竹若丸は生き残りを目指すのか、それとも大名への道を目指すのか――』

 とした。

 本来のあらすじでは煽りもなく物足りない。

 「サバイバル」という言葉もタイトルの情緒や重みを削ってしまう悪要因となってしまった。



 世界観評価:4.0

 戦国転生物である以上史実ベースである為、評価は世界観の構築というより、いかにギャップの整合性をとるかに焦点が絞られる。

 現状、致命的といえるような矛盾やギャップはないが、別感想でも言った通りに既に存在するものを再構築して舞台を作り直し続けるというのは一から作るよりも難しい面がある。

 その難関を超え続けているという点は高評価に値する。



 文章評価:3.5

 概ね良好といえる。重すぎず軽すぎず、改行のペースも個人的には的確な配慮としたい。

 

 減点要因として、一人称で語られる口調に難を感じる。

 元は50を超えた年配男性だった筈だが、本小説を読む限りその口調はいかに譲ったところで30代を超えないのではないだろうか。

 中年、年配らしい語句も言い回しもなく、どちらかというと若々しささえ感じられた。

 


 内容評価:3.5

 全体を通してみれば些事だが、序盤で感じた大きな違和感についてまず言及する。

 主人公は「朽木」を「くちき」と読むほど朽木について無知な筈であった。

 しかしその後、いつ調べたのか朽木元綱という武将についてある程度詳しく描写している箇所がある。

 名前の読みすら知らない武将が挙げた手柄や活躍した場所、その半生など、詳細に覚えているとは到底思えず、一度現世に帰って調べたのだろうかと首を傾げざるを得ない。


 上記はともかくとして、全体を通してみると朽木元綱というマイナー武将にスポットを当てたことで、歴史的事実にある程度左右されずに自由に動ける妙を得ているのが面白い。

 言い換えると、今更織田信長や豊臣秀吉を主人公にしても新たに出来る事などないが、一般的に無名な武将ならば好き放題やれるから先がどうなるかわからなくて期待が持てる、ということである。



 総合評価:3.5

 本作品は書籍化したものであるが、それに相応しい作品であるとは断言できる程度に面白い。

 何より、先が分からない戦国物というのは滅多にないので異世界ファンタジーのような展開への期待感が持てるのが高評価。

 残念なのは小説とは別に感想欄が見るに堪えず、もはや感想を書く気すら起きないスラムとなっていることだが、それによって小説評価が下がるということはなく、純粋に一読者として続きを期待するばかりである。

作品リンク

https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9975de/

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