姫、痺れをきらす
森の中で待機をして二時間ほど経った。
王都とは目と鼻の先、歩いてでも30分もあれば塀を越えられるような距離なのだが、こちらに気が付く気配がない。
黒化した獣であれば気が付いて集団で襲いかかって来てもおかしくないが、奴らは王都から出ようとしない。
一度、黒化していない動物を捕まえて、中に入れてどのような反応をするか確かめたかったが、こちらに気が付かれては隠れている意味がなくなってしまう。
今は遠くから見るしかできなかった。
そんな中、王子は怒りを鎮めながらも魔眼を使い王都の状況を確認していた。
「見えました。」
「何が見えたんだい王子?」
「王都の周りに幾らか野生モンスターが居たので観察していました。距離は北門の付近になります。」
「噂には聞いていたが、君の遠見の魔眼は相当な力も持っているようだね。数キロ先までは僕は見ることが出来ないよ?」
確認をしてみたら、ここは王都の東に当たり、一番近い門は東門になるらしい。
ここから北門に行く場合、直線距離でも5kmは離れていると聞いた。
この話と先程の会話を合わせると、王子は私の居た屋敷から5km以上は離れた場所から覗きを行っていたのが分かる。
「いえ、遮蔽物が無ければ10km先を確認できる自信はありますね。」
範囲が広まった。
後でサブマスか御従兄様に連絡を取り報告をしておこう。
覗きは撲滅しなければいけない。
「そのモンスターなのですが、塀の近くを歩き回って居たのですが、黒化にオソワレテいなかったのです。」
「ほほう、それは興味深いね?」
そう、黒化したものは黒化した者以外を襲う習性がある。
それは目視であろうと、臭いであろうと、音であろうと関係なく。
「塀は壊されていましたので、奴等からも見えていたでしょう・・・ですが、何もなかったように町の中を徘徊していました。
モンスター達も馬鹿ではありませんが、目の前に獲物がいて、気が付いていないように見え多のでしょうね、塀を越えて黒化したヒトに飛び付きました。
その瞬間、モンスターの攻撃が届くよりも早く奴らは気が付き、一斉にモンスターへ襲いかかりました。
やはり、操られていて『塀を越えた』ものだけを襲っているのでは?」
「それはあり得るね。
だけど、その情報と憶測だけで確定するのは危険だと思うよ?
奴等が動き出して、次への余裕があるなら動物を捕まえて試してみよう。」
「分かりま・・・」
王子とアキラさんが情報を確認していると、王都の方から犬の遠吠えのような大きな鳴き声が聴こえてきた。
これが奴等の合図なのだろうか?
「魔術師部隊、急ぎ使い魔による観測を開始しろ!」
「既に始めてます!」
「城下の黒化、一斉に城門へと動き始めました!」
「瓦礫の中からもかなりの数が出てきてます!」
「一体、一体だけ中型のモンスターサイズの黒化が現れました!!
声はこのモンスターから出ているようです。」
「全体の、塀付近を徘徊してた奴らはどうなって居る?」
「徘徊してた奴等も全部が城門へと向かっているようです・・・」
使い魔を使い、魔術師部隊が情報を伝えている。
動き出したのなら私も動きたいのだが、早く指示を出してもらえないだろうか?
「一度、誰かが中に入ってみるのはいかがでしょうか?」
「「「はい!?」」」
ふと思い付いた事を言ってみた。
全員が訳がわからないよ?と言わんばかりの顔をしている。
「誰も居ないのでしたら、私が行かせていただきますが?」
「「「はい!?」」」
調査は慎重に成らなければならないのは理解できるが、実際に行動して調べなければわからないものがある。
「ただこの場所で待っていても、得られる情報は限られてしまいますわ。
なればこそ、敵が動いている今こそこちらから動いて情報を集めませんと!」
「そうだね・・・それも面白そうだね。」
「ちょっと、賢者様!?慎重に行かねばならないのでは!!」
「いや、奴等が動き出す瞬間が見たかったんだ。
先程からの徘徊する動き、ルート、外部からの反応。別途使い魔を出して確認していたが、おおよそ奴等の動きかたが解ったよ。」
「では・・・」
「次の行動まで待とうと思ったけど、我慢できない人が増えてきているからね。
君を含めてね。」
王子の顔に光が戻り、しっかりとした笑みを浮かべた。
何故そこで私を見る?
出るのならさっさと合図をして欲しい。
「皆!故郷が襲われるなか、よくぞここまで堪えた!今こそ我等が力で奴等を倒し国を取り戻すのだ!!
武器を取れ!出陣だ!!」




