姫、挨拶をする
「ベルンディッテ!!」
突如現れた少女の名前を叫ぶ。
降り下ろしの途中に蹴り飛ばされるも、前回程のダメージはないようだ。
巨体の肩ギリギリで落ちるのを堪える。
あ、いやこれは落ちた方が良かったかもしれない・・・
あいつの相手するのめんどくさそうで・・・
「へぇ、前は簡単に吹っ飛んだけど、今回はいっちょまえに堪えたじゃねえかぁ!」
「貴女の相手をするなら落ちていた方がマシ立ったかもしれませんね・・・」
「言ってくれるじゃねぇか、このガキ。」
「子供なのは認めますが、貴女も大概ではありませんか?」
「この体は代用品でな、別にオレ自身の体じゃねぇんでなっ!」
瞬間、ベルンディッテが消える。
瞬時に左に戦斧を構え右足による奇襲を防ぐ。
前回アキラさんに放った一撃だ。
ここまで同じ戦法で攻めて来るとは、相当に舐められているようだ。
「おぉ~おぉ~、防いだよ防いだよ!短い間にやるようになったじゃねぇか。」
ケタケタと彼女が笑う。
防げばしたが、その小柄な体からは考えられない程の威力に左腕が少し痺れている。
借りた戦斧出なければ吹き飛ばされていただろう。
「貴女は一体何者なんですか!?」
「ん?オレか?そうか名乗ってなかったな!アイツの近くにいたから知ってるのかと思ったが知らなかったのかぁ。」
痺れがとれるまでの時間稼ぎにと思ったが、何やらモジモジとし始めた。
外見が可愛いので似合うんだが、内面がアレなので困り者だ。
「オッホン、ではでは自己紹介といこうかぁ。
私は、イブ神魔教団巡回神父ベルナルド。
魔神の教えを広めるべく世界を回り、世界を変えるために日夜布教活動に勤しんでおります。
こんにちでは邪神教団などと呼ばれておりますが、そのような事はございません。
魔族の尊き教えを守り、他の神の信者を我が神の徒に誘い信者を増やす事を是としている真っ当な宗教にございます。
ま、今は女の子の中に閉じ込められてるけどなぁ!」
口調が変わり、物腰も丁寧に、綺麗な声で告げてくる。
その動きにうすら寒い物を覚える。
「私はエリシャール。最近冒険者になった若輩者ですわ。」
にらみ合い、ベルンディッテの顔が笑みで歪んだ瞬間に始まった。
斧と素手とのぶつかり合い。
慣れない武器だが威力はある。
しかし、ベルンディッテはそれ以上に動けるのに私の攻撃を一発一発丁寧に対応していく。
先程から身体強化を全開にしているが、全て受けきられている。
楽しんでいるのだ、私が諦めるのを勝てないと理解するまで、同じ速度、同じ威力で撃ち合い、倒れるまで続けて完膚なきまで倒すまで。
「楽しいなぁ!おい!」
楽しいのはお互い様だ!
こんなに状況でも楽しいと感じている自分がいる。
心の奥底から何かが覗いているような感覚。
そんな感覚が強まるにつれて私自身が加速していく。
先程から武器の使い方が頭と体に流れ込んでいく。
自分の思った通りに、体が動いていく。
「ええ、楽しいですわね!!」
「おっと、まだ速くなるのか!本当にテメェは面白いな!!」
ようやく彼女が攻勢にでる。
私自身、意識できる限界速度で戦っているが、それ以上の速度で打ち込んでくる。
私の動きは戦斧の動きではなくなっている。
かと言って、槍の動きではない。
此は戟の動きである。
突き、薙ぎ、払い、斬る、引く。
どのような攻撃にも対応できるように創られた武器。
この世界には無い武器の動きだ。
ベルンディッテはそれを全て見切って拳で受けきっている。
それどころか、攻撃の隙間を縫って私に当ててきている。
その全てが、あえて急所を外している。
いけない、このままでは体を壊される!
「本当に色々とやってくれて楽しかったぜぇ!
ここまで楽しめたのは20年前の戦士以来だ。
これ以上はコイツを待たせられないんでな、コレで終いだ!!」
その一言で右の胸が撃ち抜かれる。
心臓ではなく、肺と肋骨か!!
生きて苦しみ抜けというのか!!
くそう・・・




