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姫、登る走る斬る

地面に凄まじい衝撃が走る。

その一撃で吹き飛ばされた者達もいる。

巨体そのものも自らの攻撃の反動に耐えられず、手の半分が潰れてしまっている。

自分の力を制御できていないのか、体が力に着いてこれないのか・・・

すぐさま再生が始まっているのを見ると、それすら考慮しての一撃なのかもしれない。


直撃こそ免れたが、衝撃で少し吹き飛ばされてしまった。

その場に残っていた狼達は見る影もない。

残骸は巨体の再生と共に取り込まれてしまっている。

見ていたくはない光景だ。誰かモザイクかけてください。

しかし、これはチャンスだ。


「エリー、無事か!?」


王子が叫んでいるが、このチャンスを逃すわけにはいけないので無視する。

あの高さまで、どうやってたどり着こうと悩んでいたが道が出来たのなら使わない分けにはいかない。

先ずはその腕を駆け上がる。


『全く、無謀にも程があるよ。』

「あら、アキラさん?全軍の補助はよろしいんですの?」

『今も現在進行形で補助をしているが、君達が危なかったんで手を出させてもらっている。

さっきの一撃で無傷でも体内に衝撃が浸透してるから内部から治させてもらっているよ。』

「前回と言い、本当に良く見てらっしゃるのですね・・・ありがとうございます。」


腕を足場にして進み始めると、腕から刺が無数に生えて私を串刺しにしようとしてくる。

コレくらいならまだ追い付かれない。


『ソイツは前回と同じで、人を核として増殖している。前回と違うのは全身がスライムのように変化して全身が武器のように襲い掛かり何もかもを捕食しようとしている。ほら今も・・・』


それと同時に、腕の裏から触手が飛び出して私を捕まえようとする。

捕まえるにしても勢いがありすぎる。


「うっとととと!?」


更にスピードを上げて避けると、触手が自分の腕に刺さり、貫いて毛糸を編み込むかのように再生していく。

刺して、潰して、取り込むのか!?


「危ないですわね!?」

『そんなところに飛び込む君が悪いんだよ?』


速度を落とせば確実に取り込まれる。

逃げ道は前しかないし、逃げるためではなく、倒すために前へ進む。

もう少しで顔にたどり着く。

手斧をしまい肩に乗る。

こちらを意識していたのだろう、巨体の首がこちらを向ける。

その顔は何もなかった。

毛も、目も、鼻も、口も、耳も。

異形にも程がある!


「アキラさん、お願いしますわ!」

『全く、今度から自前の物を用意して欲しいよ。』


巨顔の口元が蠢き、横に口が別れた。

まるでイソギンチャクのように触手と牙を生やして、捕食することしか考えていないような形だ。

前世の知識が無ければ悲鳴を上げて逃げてた。

酷い顔だ・・・


声にならない叫び声と共に口の触手が伸びてくるが、それは叶わなかった。

肉が潰れる音と共に、巨顔へ黄金の戦斧が突き刺さった。


「ありがとうございますわ。」

『大切な物なんだから、大事に扱って欲しいよ・・・』

「投げたのはアキラさんじゃないですか?

でも、コレで一気にいけますわ!」


戦斧を受けとり、笑みを浮かべる。

巨顔の口から引き抜き、クルリとまわり、首へ。

前回も使わせて貰ったが、この斧は異常だ。

重いようで軽く、どんな物であろうと斬れてしまいそうに感じる程の切れ味。

聖剣とかに分類されるのではなかろうか?

それほど簡単に首を斬ってしまったのだ。


ゆっくりと、スローモーションのように首が落ちていく。

これは捕食するための器官に過ぎない。

この首の下に核となる本体がいる。

勢いを殺さずにもう一度斧を振りかぶり、首の下へ叩き込む。


「前と似たような状況だな嬢ちゃんよぉ。」


振り抜いたはずの斧と共に私は蹴り飛ばされていた。

そう、ベルンディッテに・・・

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