姫、火事場泥棒をする
私は、悲鳴を上げそうになるのを必死に堪えた。
今、この場には居ないが、近くに魔物がいるかもしれない。
ここまで降りてくるのに幾分か音を立ててしまっている。
急ぎ周囲を見渡し魔物が居ないかを確認する。
果樹園はリンゴの木が植わっているようで、隙間から遠くまで確認できる・・・
破壊された玄関からは家の中がはっきりと確認できる。
魔物も居なければ、人も居ないようだ。
ではこの死体はこの家の人なのだろうか?
「魔物の姿は確認できませんが、死体をこのままと言うのは不味いですわね。」
私は意を決して家の中に入る。
本当に誰も居ないようだ。
家を観察して分かったことがある。
この家には最低でも三人以上の人が住んでいたようだ。
玄関前の死体は大人の男性だった。
中の家具や道具などから大人の女性と子供が・・・
子供は二人かもしれない。
憶測でしかないが魔物にさらわれ、男性が抵抗した結果殺されたのだろう。
これ以上は考えても仕方がない。
この先は最悪の結末が待っている。
私は外に出て家の周りであるものを探す。
農具だ。
スコップと鉈と手斧が置いてあった。
私はスコップを取り家の隣に穴を堀始める。
彼を埋葬するためだ。
このままでは腐り、臭いから動物や魔獣等を寄せ付けてしまう。
最悪、彼がアンデッド化して近隣の家を襲い掛かるかもしれない。
それでは死してなお報われない。
せめてもの弔いはしてあげたかった。
「これくらいしか私には出来ませんが、安らかにとは言えませんが、今は静かに眠ってくださいませ・・・」
彼と血に染まった土を共に埋め、薪にする予定であったろう木で墓標を作り、私は祈った。
「やることはやりましたわ!
そうしましたら、次にやることはただひとつ!!」
台所なう。
流石に何日目か分からないが空腹にも限度があった。
はしたないと思いつつも家の台所から食料を拝借している。
黒パンとソーセージにチーズ、キャベツや玉ねぎの酢漬け、発酵乳もある。
なんと、ジャムまであった!
今までの暮らしでは考えられない食事だが、初めて食べるものばかりなので心が踊る。
彼には申し訳ないと思うが放置してダメにしてしまうよりは良いと考えた。
「パンが硬すぎますわ。ああ、水分を吸わせて軟らかくすれば良いのですのね?変なところで役に立つ知識ですわね・・・ジャムも甘くて美味しいですわね、お屋敷で食べたものより荒い造りのようですが果肉の食感がまたたまりませんわね。」
ソーセージも硬かったり、チーズを削ったり、酢漬けの酸っぱさに鼻をつまんで涙を流したりして食事を終えた。
農家の方には失礼だが、こういった食事も悪くはなかった。
食べ方を知っていた前世に感謝である。
お腹が膨らみ、私はタンスの中を確認している。
女性が居た形跡があるので服を探している。
流石に何時までも死装束のままではいけないと思ったのだ。
その中から一番丈夫そうなワンピースを見付ける。
コレに男性のボロになったであろう作業用の上着を着る。
体に対して大きくはあるが問題ない。
革で出来た靴も見付けた。
そのままでは履けないが、布を足に巻いて調節する。
小さな鞄も見付けたのでパンとチーズ、ジャムを入れていくことにした。
そして、最後に鉈と手斧を腰に縛り付け、彼に謝罪の祈りをして血で出来た足跡へと歩き出すのであった。




