姫、説教を見る
死体の処理が終わると皆疲れて地面に座り込んでいた。
そんな皆にアキラさんが回復魔術をかけて回っている。
この人だけが疲れた様子がなく、ずっと魔術を使っている。
人の事は言えないが、どんな魔力量をしているんだろう・・・
回復しながら色んな人と会話をしているようだ。
「ルーク、君は僕のあげた槍を使いこなせていないようだね?それに集団戦闘で動きが鈍くなってるよ。集団戦闘でも普段の戦いが出来ないと今後苦しむのは君自身なんだからそこを直していかないとね。」
「申し訳ないっす、賢者様からもらったのにまだ分からないとこがあるんですよ・・・」
「ふむ、それを踏まえて帰ったら特訓をしよう。丁度もう一人増えるし、覚悟はしておいてね。」
「うげっ!?お手柔らかにお願いします・・・」
ルークは酷い怪我はなく、苦戦はしたが問題なく戦えたようだ。
アキラさんからの特訓、そんなに嫌なのか・・・
「パティちゃん、怖かったろう?もう大丈夫、戦闘は終わったよ。」
「は、はい・・・」
「落ち込むのは仕方がないさ、確かに何も出来なかったのは良いことではない。だけど、今回は君は恐怖を体験した。
それが何処からなのかはよく考えて、次は自分がどんなことを出来るか、何をしなければならないのか、自分が出来なかったらどんな被害が出るかを考えるんだ。
君は既に反省もしているし、何が悪かったのかが分かっている。
これを乗りきらないと冒険者として彼について行けなくなるよ?」
「・・・はい。ありがとうございます。多少は強くなれたと思ってましたが、私ダメダメですね。」
「やることが分かったんだ、ダメダメじゃない。帰ったら君も特訓して皆で強くなろう。」
「はい!宜しくお願いします!」
パティさんは残念なことに何も出来なかった・・・
黒化知り合いに襲われるなんて事がなければそれなりに動けたと思われるが、今回は不幸が重なった。
しかし、アキラさんのお掛けで立ち直れそうだ。
そんな風に冒険者の人達に声をかけていく。
励ましたり、怒ったり、慰めたり、誉めたり、皆に声をかけている。
リーダーと言うのだろうか、全員の事を把握し、それぞれに心のケアや今後の動きを示している。
そういった意味でも賢者なのかと想い知っる。
最後に声をかけたのは、
ピカレスクさんだった・・・
「やあ、ヒーロー。君らしくない迷いのある戦いだったじゃないか?」
「あ、いや、それは・・・ですね・・・」
ヒーロー!?何それ!?普段無愛想で威厳のあるピカレスクさんが赤くなって困ってる!
「言いたいことはよく分かる。それはあまりに衰えたと言うしかない。
かつては修羅英雄とまで呼ばれ、邪神教団と縁のあるものを全て殺し尽くさんとした者が、もう戻ることのない黒化した知り合いに情が出て倒すことが出来なくなるなんて・・・
勇者が聞いたら悲しむよ?」
「おっしゃる通りです・・・」
説教をしながら杖でピカレスクさんを強めに突いている・・・
しかも、ピカレスクさんだけ回復しながらしてないようで身体中から血が滲み出している。
それに加えて正座までさせられている・・・
なんだろう、サブマスに怒られている時を思い出す・・・
「ピカレスクの旦那はな、本当の名前はヒーローって言うらしいんだ。
昔は龍帝山脈の反対側で冒険者をしてて、かなり有名だったんだ。」
「あら、そうだったのですね?」
突然モンジさんが説明に入ってくれた。
「旦那は向こうで結婚して、息子が出来た時に邪神戦争が始まっちまい邪神教団に奥さんが殺されちまったんだ。
そこから旦那は変わっちまって、邪神教団の関係者へ復讐するためだけの殺戮を繰り返すのか修羅になったんだ。
そんなときに勇者のパーティーに誘われて賢者様に出会ったんだとさ。
戦争が終わってからはこっちに来て、この町に故紙を落ち着けたそうだ。」
「そんな過去があったんですのねぇ・・・」
「そこで色々あって、旦那は賢者様に頭が上がらないらしい。」
なんだろう、近い未来自分もああなりそうな気がしてならない・・・
いや、それだけは御免被る。
なんとしても回避しなければ。
「いいですか?そもそも落ち着いて子育てをしたいとここまで来て、孫まで出来て爺バカしてるのも構いません。
孫は可愛い。大いに結構です!僕も孫がいたらそりゃ甘々になるでしょうね。
でも、住み慣れて安息の地とした場所に危機が迫っているのに、そこに害を成すものに対して情が出て手加減してしまうとは何事ですか?貴方はまた同じ過ちを繰り返すのですか?息子は助かっても孫を失う可能性があるのですよ?それを忘れてませんか?」
ピカレスクさんが無言で、手を強く握りしめている。
色んな意味で悔しいのだろう・・・
「そして今回、重要な事が分かりました。」
「重要な・・・事ですか?」
「ええ、この黒化現象には邪神教団が絡んでいます。」
ピカレスクさんの目付きが変わった。
殺気が爆発したように吹き出し、全員が臨戦態勢を取り、身体中から冷や汗が吹き出した。
「それは本当ですか?」
「ええ、今回の戦闘でベベルモンド司祭が出てきました。」
「そうでしたか、なら気が緩みきった俺が一番いけませんでしたね・・・」
「うん、それでこそ君だよヒーロー。」
「その名前は捨てました。」
「うん、分かってる。だからこそそう呼んでいるんだよ。」
「最低だなアンタ!!」
戦友とのやり取りみたいで羨ましく感じる。
そんな事をしていると、誰かが呼んできたのか業者が戻ってきた。
帰ろう、町へ。
ベルモンドの名前がベルナルドのなっていましたので訂正いたしました。




