姫、敗北を味わう
「コイツはまた・・・あれを一撃とは、大魔法使いの名前は失ってないじゃねぇか・・・」
ヘンリーさんの横でベルンディッデが驚きの表情をしていた。
ヘンリーさんは黒い帯にくるまれ、顔しか見えていない。
苦悩しているようで、目を瞑って呻き声を洩らしているのが分かる。
「昔に比べたら相当に衰えましたけどね、当時なら詠唱も必要ありませんでしたのでね。」
「けっ!嫌味かよ?まあ、時間稼ぎにはなったか?あまり長居するとてめぇに殺されかねないしな。」
ベルンディッデとヘンリーさんがゆっくりと影に沈んでいく。
「てめぇらとはまた会いそうだ、それまで腕を研いて俺を楽しませてくれよ?とくにそこのお嬢様よぉ?」
「貴女、ヘンリーさんを返しなさい!!」
「生憎だが、次からはコイツもてめぇの敵だ。そこら辺を含めて楽しみにしてるんだなぁ!」
ベルンディッデが影に沈みきって、最後に手だけ出して手を振って消えてしまった。
周りの冒険者たちも戦いが終わったようで集まってくる。
皆が皆、後味の悪い結果になってしまった。
ヘンリーさんが連れ去られても、拐われなくてもその結果は変わらないだろう・・・
後衛の二人は気絶してしまっている。
何とか全員生き残ったが、私はヘンリーさんを救うことが出来ず、ベルンディッデには手も足も出なかった。
悔しさと何も出来なかった自分に苛立ちを覚える。
「悔しいでしょうが、その気持ちを忘れてはいけません。
貴女はまだまだ強くなれます。
ベルンディッデの事は私が知っていますし、彼がああ言った場合、確実にやって来ます。
それまでに強くなりましょう。」
そう言ってアキラさんが私の頭に手を置いてくる。
何故か涙が溢れてくる。
自由だと、何かが出来ると思っていた私は何もない出来ていなかった・・・




