姫、吹き飛ばされる
「コイツさぁ、久々の適合者なんだ、大人しく渡してくれるとありがたいんだけどなぁ?」
「貴女は、何者ですか!?
このままではヘンリーさんがまたおかしくなってしまうんです、退いてください!」
受け止められた手ごと切ってしまおうと力を入れているが全く切れる気配がない・・・
「コイツは選ばれたんだよ、俺達の神様に。」
「神様・・・?」
「そう、神様だ。魔族の神様だけどな。
何度か適合者は見つけたんだが、すぐに殺されちまってなぁ・・・久々だから何としてでも連れて帰らないといけねぇんだ。
周りの失敗作どもは自由にしていいからよ!」
失敗作・・・
その言葉で私の心が沸騰した。
無意識にもう片方の斧で彼女の腕を切り落としていた。
「って、おいおいいきなりやってくれるねぇ!?
あんた、何かしらの加護持ち?俺の腕をそんな簡単に切った奴は中々いないよっ!!」
「きゃっ!!」
お返しと言わんばかりに蹴りを返してくる。
防御よりも早く重い蹴りが横腹にクリーンヒットして吹き飛ばされる。
「おぉ!死んでないじゃない?良いね面白いよ?」
そう言いながら面白そうにケタケタ笑っている。
ヘンリーさんに切られた場所に蹴りが入って痛みで動けず、血も噴き出してきた。
すぐに立ち上がらないとやられるけど、痛みで立ち上がることが出来なかった・・・
「貴女は、邪神教団の司祭か、その関係者ですか?」
「あぁ?」
いつの間にか私の隣にはアキラさんが立っていた。
「そいつは聞き捨てならねぇ名前だな!!人の神様を邪神扱いしてんじゃねぇよ!!魔を扱うことは俺達の宿命で神の祝福でもあるがよ、誰が邪神なんて名乗った!?俺達はイヴ神魔教団ってちゃんとした名前があんだよ!!
その名前で呼ぶからには死ぬ覚悟は出来てるんだろうな?おいっ!!」
「やはりそうでしたか、ならば貴女を捕らえ事情を聴かなければなりませんね・・・」
空気が震えている。
二人の気迫が直に伝わってくる。
「俺の名はベルモンド、いや今はこの体の性別が変わっちまってるからベルンディッデってところだ。てめぇは?」
「私はアキラ、特に語るものも無い魔法使いです。」
「魔法使いたぁ、大きく出たっ・・・な!!」
喋りながらベルンディッデがアキラさんに蹴ってきた。
動きすら見えない。
私への蹴りが遊んでいたと嫌なほど伝わる蹴りだ。
「ほう、よく防いだな?」
「いえ、以前の貴方程ではないので簡単でしたね。」
「ん?てめぇ、何処かで会ったか?そんな真っ白な奴は知らねぇ・・・」
ベルンディッデが離れアキラさんを見て何か思い出しそうになっている。
アキラさんはその隙に私を治療してくれた。
さっきの魔術より早くなおってしまっている・・・
「あ~!!そうだ、痩せて真っ白になっちまってるから分からなかったが、てめぇ、エセ賢者か。」
「ようやく思い出してくれましたか?貴方には聴きたいことがたくさんあります。」
「あーあー、てめぇ相手だとここ体じゃ無理があんな。ちょいと全力で逃げさせてもらうぜ?」
「そんなことさせるとでも!?」
アキラさんが杖を構えると同時に、彼女の影が大きく広がっていく。
「さっき面白いもん拾ってな、てめぇ、にぶつけるのも楽しそうだ!」
彼女の影が地面から膨れていく。
影じゃないのかもしれない。
魔術的なものなのか、黒い物が影から膨らみ、巨大な球状の物体が出てきた。
「おら、起きろグズが!」
球体の上の彼女が蹴りを入れると、球体が蠢きだし、形を変えていく。
大きなずんぐりとした体が出来上がり、顔はなかった。
いや、首から上がないのだ。
「コイツは適合者になりかけていたんだが、途中で駄目になっちまってな、ここまでデカくなんのは初めてだったから捕まえておいたんだ。」
巨人と呼ばれる種族よりも大きくなり、首のあるであろう場所には、小さく人間と同じサイズの顔が埋め込まれていた。
ここからでもその顔は見えていた。
「ピエールさん!?」
その顔は黒く染まり、苦痛に歪み、血の涙を流していた。
「クハハハ、すげぇだろ?元々人間サイズがここまでデカくなんのは見たこともねぇよ!
面白すぎたから名前も付けてやったよ、やっちまいなギガンテス!!」
その言葉と同時にピエールさんが口を開き、怨念の如く深く低い雄叫びを上げ動き出した。




