姫、初めての苦戦
距離を詰めて一撃、二撃と振り下ろしていく。
黒化しているものの、ヘンリーさんは攻撃を防御していく。
その手に持つ剣は厚く折れず曲がらずを信条とした堅実な武器だ。
それなりの重量があると思われるが、研かれた技術により重心移動と体全身を使用した動きにより巧みに攻撃を防いでいる。
こちらは一発一発に全力に近い力で打ち込んでいるのに有効なダメージが通らない。
『これほどの実力だったなんてね、でも焦ったら駄目だよ?防がれていても一応は攻撃は通じてる。良く観察して隙を見つけるんだ。』
「分かっていますわ、でも防御が上手すぎますわ!!」
『冒険者は受けた攻撃が命取りになったりするからね、基本防御に値からを入れるのは常識なんだ。
でも彼は本当に防御が上手い・・・時代が時代なら本物の英雄になっていたと思えるよ。』
撃てども撃てども防がれていく。
だが、それ以上に彼の動きのキレが増していく。
攻撃を防ぎながらも動きに変化してきているのだ。
『防ぐんだ!!』
その声と共にヘンリーさんが攻撃に身を転じてきた。
まだ目は追い付く。
斧の腹を重ね斬撃へとぶつける。
黒化した力は強く、防御した私を後ろへと吹き飛ばす。
何とか受け身を取るも、即座に追撃が迫る。
上段からの振り下ろし。
身を起こして避ける事が出来ないので横へと転がって逃げる。
魔術を使ったような炸裂音がした。
私が居た場所にはクレーターが出来ており、その一撃の強さが良くわかる。
「敵はぁぁ・・・何処だぁぁぉぁ・・・」
段々と明確に言葉を発してきている。
敵を探しているのか、それらしい言葉ばかり口にしている。
「お前がぁ、敵かぁぉぁ!!」
先程より速度を上げて斬りかかってきた。
今度は威力重視ではなく、速度を上げて攻撃回数を増やしてきている。
「仲間はぁぁ・・・村はぁぁぁ!!やらせねぇぇえぇぇぇ!!」
連続で迫る剣を斧で打ち落としながらヘンリーさんの様子が変わってきているのを感じた。
『意識が戻ってきてるのか!?今までじゃ見たことがないぞ?』
「ヘンリーさん!!」
私は咄嗟に名前を呼んでいた。
「そこにいるなら応えて下さい、ヘンリーさん!」
「ぐうぅっ!?おぉぉぉぉ!?」
安直ではあるが、声に反応しているようだ。
動きを止め、頭を抱え始めた。
「じょ、嬢ちゃん・・・なのか・・・?
そこに・・・いるのか・・・?」
「はい!私です、エリーです!」
「眼が・・・真っ暗で何も見えねぇんだ・・・、ピエールは・・・みんなは・・・村の人は・・・」
「皆無事です!」
嘘だ。
これだけの黒化した人達が居るんだ、その村は既に・・・
「それなら良いんだ・・・、逃げろ・・・俺が・・・俺じゃなくなる・・・前に・・・」
「何があったんですか!?」
「駄目だ・・・、今すぐ俺を殺してくれ!!
段々、殺したくなっていくんだ!食べたくなるんだ!腹がへってぇぇぇ!!」
一度は戻った様に見えていたが、段々と元に戻って来てしまってあるようだ・・・
彼の体が徐々に蠢いている。
顔も歪み、変形してしまっている。
『残念だが、これ以上は体が変化してモンスターのようになってしまう・・・
介錯してあげるのが彼のためだ・・・』
「分かりました・・・」
意識を保とうとしている人を殺めるのは初めてだ。
そう考えると不思議と手が震えて来る。
仮にも知り合いで、良くしてもらった恩もある。
当然なのかもしれない。
斧を強く握り直し、ヘンリーさんの首へと振り下ろした。
斧は首に届かなかった。
いつの間にか表れた小さな手に止められていた。
「いやいや、ここでコイツを殺されちゃ困るんだよねぇ」
浅黒い肌をした少女がそこに表れたのだ・・・




