姫、守る
後衛と言っても、そんなに多くは居ない。
パティさんを入れても二人くらいしか居ないが、魔術による攻撃は馬鹿に出来ず、集団戦やモンスター戦では戦力の要となる。
例のごとく接近戦に強い人は少ないので前衛で守る必要がある。
しかし、今回は戦闘が開始されてからすぐに後衛に敵が回ってきてしまっている。
人数の差と、黒化の狂暴性を合わせた突破力で簡単に前衛の守りを抜けてしまっている。
アキラさんが魔術で見えない盾を作って対処してくれているが、時間の問題だろう・・・
流石に見知った過去の人に襲われてパニック状態になってしまってる。
なので、後衛から立て直さないとこちらの被害が増え、ろくに攻撃に回れない。
襲っている黒化した人は三人。
魔術の盾を叩くことに夢中になっているうちに全力でタックルをかます。
力が上がっていても、横からの不意打ちには弱いので黒化した人達は地面を転がっていく。
「早く!立って戦ってください!あれはもう私たちの知っている人ではないのです!」
叫び、声をかけるも恐怖で怯えきってしまっている。
これでは今すぐには役にたたない。
なら、目の前の障害を排除するしかない。
相手は、起き上がると剣を抜き出し襲い掛かってきた。
強化され速さも力も尋常ではないが、真っ直ぐな剣だ。
お祖父様やお兄様達に稽古をつけてもらっていた時に見た鋭さや、意志を感じられない。
眼が冴え、三人同時に来ているのに剣筋も、相手の挙動さえも緩やかに感じ取れている。
不思議と当たる気がしないのだ。
攻撃が来る度にカウンターで腕や足、腹を切っていってるのだが、すぐさま再生していっている。
やはり、一気に殺さないと止めはさせないようだ。
段々と黒化した人達の動きが良くなってきている気がする・・・
振り回すだけでなく、刃筋を立て留ようになったり、蹴りや拳が入って来たり、本来の動きになってきているような感じだ・・・
「このまま本来の技術が戻ったら勝てなくなりそうですわね。」
一人が鋭い突きを入れてきた。
まだかわせる。
武器をしまい、突き出した腕を左手で取り、右手で胸ぐらを掴み、相手の懐に入るように小さく一回転。
しゃがむような体勢から足のバネと腰を利用して相手を浮かばせる。
腕を抱えるのではなく、両手で投げ飛ばす両手背負い。
体が地面に落ちた瞬間に、胸に置いた右手で拳を突き入れる。
肋骨の殆どを砕き、心臓を叩く技だ。
相手の左手から剣を奪い、首を突き、止めをさす。
後ろから同時に残った二人が飛びかかる。
半分しゃがんだ姿勢だが、高めにジャンプしバック宙で体勢を調え、飛び込んできた片方の頭へ足をスタンプする。
地面にめり込み、骨が割れていく音が聞こえる。
最後の一人に斧を脳天へ叩き込む。
勢いをつけすぎたのか、足の下は潰れ、斧で叩いた場所は破裂してしまった。
後衛の二人は無事だが、まだ正気に戻って居ないようだ。
まだ敵は残っている。
どんどん狩らないと・・・
まだまだ楽しめるのだから・・・
足元の水溜まりをピチャピチャと音を立てて前衛の元へと向かっていった。




