姫、黒化を知る
黒化した生き物は、その体のポテンシャルを制限を無視して引き出すことが出切る。
それは生き物が脳内で無意識に設定しているリミッターを解除し、限界を超えて動ける事から来ている。
通常ならリミッターが外れて、限界を超えた力を発揮した場合、筋肉が悲鳴をあげ、筋が断裂していき使い物にならなくなってしまい、骨は筋肉の力に耐えきれず折れ、最悪の場合砕け散ってしまい、断裂した筋肉や肉に刺さり、混じり、治療すら不可能になりかねない。
「しかし、黒化した生き物はそれの状況下で長時間の活動が出来てしまっている。
黒化した場合、最初に汚染されるのは骨からなんだ。
なぜかと言うと、骨を侵食して強化していかないと、リミッターを外して動けない。
その次に外見、主に皮膚の指先なんかから侵食していき、最後に顔まで真っ黒になったら手遅れになる。
彼らはもう手遅れ、彼らを救うには殺すしかないんだ。逆に、彼女のように一気に殺さないとこちらが食料にされかねない。
皆、迷いは捨てるんだ、恨むなら不甲斐ない僕を恨んでくれ!」
念話と言うのだろうか?アキラさんの声が脳内に響いてくる。
私一人に話している感じではないので、ここにいる皆に声が飛んでいるのだろう。
メアリーさんを倒した私は、走りすぎてへばっているモンジさんをもって、アキラさんの元へ戻ってきた。
「モンジさんの回復、お願いしますわ!」
「わかったよ。
ありがとう、君が先陣を切って彼らを倒してくれたお陰で皆にも迷いが無くなったよ。」
「いえ、殆ど条件反射のような物ですわ。
アキラさんほどの迷いも、苦悩も持たない私ですので・・・」
アキラさんの手が私の頭に置かれ、軽く撫でられた。
血で汚れているのだが・・・
「それでも、お礼を言わせて欲しいんだ。」
「よくわかりませんわね?」
そう言って、再度黒化した人達の元へ走り出す。
皆も奮闘しているが、苦戦しているようだ。
基本、冒険者なんかはモンスターとか人とは違う形の生き物を相手にするのが殆どだ。
人の形をした相手と戦うことはあまりない。
あったとしても、相手の動きを封じたり、追い返す程度の戦闘くらいしかない。
人を殺める事はよほどの事でないと無いのだ・・・
そんな人達が本来よりも数倍の力をもって襲い掛かって来るのは初めてのことである。
状況的に、前衛だけだと一人で三人は相手にしないといけない。
黒化した時点で理性や知性、人格すら失われているので獣を相手にしているようなものだが、体が覚えている挙動などは黒化してても使ってくるので質が悪い。
更には、この世界は前世の知識で確認できたほど医療が発達していないし、人体の構造なんかも研究が進んでいない。
一般には、心臓や頭を狙えば相手は死ぬ程度の知識しかないのだ。
流石のピカレスクさんも見知った人で且つ熟練の技をもつ人を三人は難しく、苦戦を強いられている。
幸いにもアキラさんの魔術で回復と防御支援が入るため、こちらの被害は少ない。
あの人、呪文の詠唱や魔術の名前を一切口にしていない・・・
本当に賢者って呼ばれているだけの実力があったのだと感心している自分が居る。
体は昂っているのに、心の中では冷静になっている自分がいるのだ・・・
「私は、弱っている人達の手助けから始めましょうか・・・」
まずは、後衛に襲い掛かりそうな人達へ向かっていった。




