姫、戦闘開幕
モンジさんの声を聞いて私は荷台の上に飛び乗った。
向こうの集団とは距離はあるようだが、モンジさんの後ろに二人ほど走って追いかけてきている。
肌も髪も真っ黒に染まっている・・・
完全に黒化してしまっているようだ。
「あれはまずいてすね・・・
人は他の種族と比べて黒化する事が殆どなかったんてすが、あれほどの数が黒化しているのは初めて見ましたよ。
しかも、全員が完全に黒に染まってしまってる。
もたもたしているとこちらに被害が及びますよ!」
アキラさんが黒化した集団の方に立ち、全員に指示を出し始めた。
「いいてすか、非戦闘員は荷を捨ててでも、逃げてください!馬やロバ、牛も馬車から外して下さい!
酷いようですが、多少は囮になります。
足の早い人は町へ急ぎ救援と防衛の準備をするように伝えてください!
冒険者の皆さんはここを全力で死守しますよ!
生き残った人には、私の名前と権限、地位を使って破格の報酬を出します、無論今回は私も参加させて貰います!」
報酬とアキラさんの助けがあると聞き、皆が逃げ腰からやる気を上げていく。
実は、この人猪の時は手を出していなかったので実力が分からないのだ。
邪神戦争を終わらせた一人と言われているが、私は生まれていないし当時の脅威などを知らない。
ピカレスクさんみたいに分かりやすい強さでは無いとは思う・・・
そう言っているうちに、モンジさんの後ろの二人がすぐそこまで来ていた。
流石のモンジさんでも、掴まったら逃れられないと思い、私は飛び出していた。
「くそ!全力で走ってんのに何で追い付かれそうなんだよ!!」
「しゃがむか前に転がってください、モンジさん!」
「おう!」
モンジさんが前に転がった瞬間に、追い付きそうだった一人に私は飛びかった。
相手の顔を確認しないで膝を顔面に叩きつける。
全速力ではないが、それなりの速度は出ているので手応えはあり、顔が潰れた感覚はあった。
黒化してても生き物として動いているので、倒しかたは人と同じだ。
二人目もこのまま一気に倒してしまおう!
そう思ったが、私は止まってしまった。
「アメリーさん・・・」
ギルドの酒場で良く食事をしていた人だ。
私の失敗を笑って許してくれたり、作った料理を美味しいと言ってくれた優しい人だ。
真っ黒になってしまっているが、見間違える事はなかった。
ギルドからは「黒化した人はなるべく顔を見ないで倒せ」と言われた。
そう言う事だったのか・・・
知り合いを殺すことは躊躇われる。
迷いが生じる。
その一瞬が命取りなのだと。
私は斧の腹を彼女の顔面へ叩きつける。
迷いはない。
既に彼女は私の知っているメアリーさんではなかった。目は正気ではなく、獣のような声を上げてしまっていた。
その場で一回り、円運動でもう一つの斧で首へ・・・
「ごめんなさい、メアリーさん・・・」
大地にものが落ちる音と共に彼女の首から血が噴き出す音がする。
それを合図ののように、残った黒化した人達が走りだし、戦闘が始まった。




