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姫、出口で立ち止まる

墓所の出口が見えてきた。

外は夜なのであろう、墓所とは違う秋の夜風が流れ込んできて、夜空が見える。

このまま外に出れたらどれ程楽だったであろうか。

忘れていた、私の立場を・・・


忌み子として死んでは居るが、一国の姫であったのだ・・・

そりゃ、納棺して、封印するまでがこの国の葬儀の流れでしたわ。

そりゃ、姫様の葬儀ですもの、終わるまで墓所には護衛がつきますよね・・・


「このままノコノコ出ていけば、確実にアンデッド認定、護衛に串刺しにされ、魔術師の方達に骨まで焼かれ、残った骨まで叩き砕かれかねませんわ・・・」


幸いにも、外からの侵入者に対して警戒をしており、墓所の中まで警戒している者はいないようであった。

出口から警戒しながら外を見渡すと王都からは離れた山の中らしく、出口付近を護衛の兵達が陣を置いているだけで他に部隊が居るわけではないようだ。

山を降るのではなく、逆に登り、反対側に出てしまうのはどうだろうか?

何か囮になるもので気を引き、魔力を使い身体強化して逆の方向に駆け抜ければ平地で馬に追いかけられない限り捕まらないほどの速度は出せるはずだ。


「問題点は、この空腹と、何を囮にするかですわね。」


考えてみれば、毒を飲む前から食事を取っていなかったのだ。

しかも、毒で死ぬことを前提にしていたのでその前日から食事を抜いていたと言う徹底っぷり。

それでもうなされていた時にスープか何か与えられていたのかもしれない。

はしたないかもしれないが固形物が食べたいのだ。

具体的に肉を。


「はぁ、やはり毒を飲む前の晩に出たチキンを食べておけば良かったかも知れませんわね・・・これが未練と言うものなのですね・・・」


鶏は大好きだがそんな未練は嫌だ。

鶏・・・鳥・・・

ここから逃げる反対方向に石を投げて、木にぶつければ何かしらの騒ぎになるのでは!?

周りに適当な石は!?


ありませんでした・・・


あるのは、少し外に出たところに岩があるくらい。

気が付かれずに近寄る事は出来そうだが、多分持てないし投げられそうにない。


「困りましたわ、側に来てみたものの、砕くことすら難しそうですわ・・・」

不用意に近づいてる私が居た。

岩は私よりも大きく、大人一人分はあると思われる。

ヒビがあれば剣を挿し込み割ることが出来たかもしれないが、そんなことしたら音で気が付かれてしまう。

万事休すと言ったところであろう。


ため息混じりに座り込み、岩に背中を預ける。

空を見上げると、雲もなく月明かりと星が見える。

前世は星がほとんど見えていなかったと言っているが、星空が見えないと言うものはどんな感じであったのであろうか?

満天の星空がゆっくりと下に動き・・・

違う、これは私が後ろに倒れて行っているのだ。


「あらら?あらららららら?」


背もたれにした岩がバランスを崩しゆっくりと山の麓へ傾いていく。

岩は重力に抗うこともなく倒れ、私も倒れた。

しかし、岩は倒れるだけでなく、そのまま山を下り始めた・・・


兵士達の元へと・・・

ようやく墓所から出れました。

ここから姫様の逃亡ライフが始まります。

始まると良いよね!

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