姫、突き刺す
拾った斧で大狼の下腹に一撃が決まる。
先ほどからの冒険者達の攻撃が入っていなかったのと、私の蹴りが通じたのを見て、外側の毛が強靭なのだろうと考えていたが当たったようだ。
普段は外の危険にさらされない内側、腹の部分の毛なら柔らかいようだ。
ブチブチと音を立てて毛を断ち、肉をえぐるように切り裂いていく。
このまま振り切ってしまおうと力を入れた瞬間、上手く力を利用されたのか大狼が飛び跳ねて斧から逃げていた。
血は噴き出しているが内蔵には到達していなかったのかしっかりとした目でこちらを見据えている。
「ウフフフ・・・、決まったと思ったのですが、中々魅せてくれますわね?
せっかく支給されたエプロンドレスが血塗れですわ。」
あそこまで斧が入った状態で逃げられるとは思ってもいなかった。
私自身仕留めたとすら思っていたのだ。
まだまだ経験が足りない。
しかし、大狼との戦いをまだまだ楽しめるだ、自然と口から笑みがこぼれていく。
咄嗟にひろった斧だが、大きく両刃の物で扱い難い。
少しばかり距離が離れてしまっている状況で、大振りの攻撃では当たる見込みは無いと言える。
ならやり方を変えなければ・・・
「それではぁぁ・・・いっきますわよぉぉぉぉ!!」
体を回転させハンマー投げの要領で斧を投げつける。
驚いてはいるが大狼は余裕で回避をしている。
それでも、力を入れた入れる度に腹の傷から血が噴き出しているのが見れる。
このまま長期戦に持ち込めれば出血多量で死んでしまうのだが、それは面白くない。
主に私が。
それ以前に、逃げられる可能性もある。
なので今仕留めたい。
地面に落ちている片手剣とレイピアを拾い上げ、大狼に向かい走り出す。
突撃を許すほど大狼も馬鹿ではない。
迫り来る私には爪での攻撃をしてくる。
この爪の攻撃で冒険者達が吹き飛ばされているのは見ていたが、正面から見ると尋常じゃない風圧が発生している。
当たれば私の体くらいならバラバラにされてしまうだろう。
大狼の眼前にたどり着く前に爪による攻撃で三日月のような爪痕と砂埃が生まれる。
その衝撃と風圧を利用して私はジャンプをして空中へと舞い上がる。
飛んだ勢いを乗せて大狼の頭を越えて背中まで到達する。
宙返りをする要領で回転し片手剣を背中に突き刺す。
背骨と肋骨には当たらなかったようで、幾分毛と皮の抵抗は強かったが皮は貫通している。
そのままレイピアを片手剣で出来た隙間に突き刺し、心臓付近を確認しえぐり回す。
大狼が今まで以上に悲痛の叫びを上げていく。
レイピアを回す度に血が噴き出す。
根本までレイピアが突き刺さり、手すらも捩じ込んだ辺りで刺さったままの片手剣に手をかけ、背中から腹へと引き裂いていく。
既に皮に切れ目が入っているので、体重をかけるだけで簡単に切れていく。
パックリと割れた大狼の体から大きく胎動する物が見える。
剣を捨て、地面に落ちている槍を取り、最後一撃として心臓へと突き刺した。
大狼の叫びはない。
ゆっくりと反対方向に倒れていく。
レイピアでえぐっているときに痛みで死んでしまっていたのかもしれない。
槍を放し、血が降り注ぐ中私は立っていた。
「ありがとうございました。
私は貴方の事を忘れませんわ。」
戦場を静寂が支配している。
誰もがこちらを見ていた。
私がゆっくりと剣を空に掲げると冒険者達が一斉に声を上げた。
勝利の勝鬨だ。
残りは大型と中型の一匹・・・
結末を知る前に私は血の池へと倒れていった。
魔力切れなのだと感じながら意識を手放した。




