姫、飛び込む
大狼の知覚範囲外から私は全力で飛び込んで行く。
大丈夫、あの巨体ならば唐だの何処かには当たるはずだ。
近づくにつれて流石の大狼も気が付いたのか避ける体勢をとろうとした。
しかし、遅い。
私は足に力を入れんとする大狼の横腹に両足を叩き込む。
あの黒化したオーガ達に食らわせた一撃よりも重く鋭い一撃だ。
大狼は不意の攻撃に威力を殺しきれずにキャインッと鳴き声を上げ倒れていく。
「あら、以外と可愛い声を上げて上げられるのですね?」
着地から素早く体勢を整え大狼を確認する。
周りの冒険者達が騒いでいるが、大したことではないので放っておく。
大狼が立ち上がる前にもう一撃入れておきたい。
鉈を構え、大狼へと飛び掛かる。
鉈を降るかぶり、頭へと叩き込む。
しかし、二発目と言うこともあり器用に牙の部分で弾かれてしまう。
更に頭を振ることで追撃がやって来た。
空中に居る私には防ぐ手立てもなく、軽々と地面に叩き付けられる。
牙や爪、全身のバネを利用してのこうげきではないので、そこまでのダメージがないのは救いだろう。
すぐさま大狼の顔面に飛び直し、鉈を左目に叩き込む。
この攻撃は流石に効くのか、先ほど以上の叫び声を上げ地面をのたうち回って居る。
ここで問題が発生した。
「鉈が抜けませんでしたわ・・・」
鉈が目に刺さったままだ。
そう、武器を失ってしまったのだ。
土煙が上がるなか、大狼が起き上がる。
流石に御立腹のようで、息を荒らげてこちらを見ている。
牙を剥き出しにして、襲いかかってきた。
目的は周りの冒険者出はなく、私一人に切り替わっているようで、私のみを執拗に追いかけてきている。
牙や爪が来る瞬間に足に魔力を込めてかわしているのだが、武器が無いため攻撃を返すことができずにいる。
「このままではじり貧になってしまいますわね・・・何か考えませんと・・・あ」
逃げているうちに、先ほど冒険者達がやられてしまった場所にたどり着いたらしい。
既に退避は終えているようで人は残ってはいない。
運が良い。
回避を続けながら、私はそれを拾い上げる。
次の攻撃の瞬間、噛み付いてくる牙の下をくぐり抜け、大狼の腹へその一撃を食らわせる。
退避を優先したために戦場へと忘れられた斧を大狼の腹へと叩き込んだのだ。
「あらあら、これは良い落とし物ですわね。」




