姫、観戦する
大狼達が冒険者達に襲いかかる。
一番大きな大狼はピカレスクさんと一対一を決め込んだようでにらみ合いをしている。
残りの大きな一体は冒険者の集団に特攻を決め前衛集団を軽々と吹き飛ばした。
残りの三体は回り込み遊撃による後衛の各個撃破に移ったようだ。
吹き飛ばされたとは言え、前衛達もその程度でやられる訳がない。
直ぐに立て直して各々の武器を大狼に突き刺して行く。
また、一部の冒険者は後衛を狙おうとしている三匹から守るために動き出していた。
今回の作戦で西門に集まった冒険者は40人ほど。
ピカレスクさんと睨み合っている奴を除けば一匹に10人は割当てられるのだが最初の一撃が効いたのか隊列や状況をかき乱され三割は使い物にならない状態になってしまっている。
孤立してしまった後衛の魔術師が数人やられてしまって前衛だけでは決め手に欠けている場所が出てきた。
三びきの大狼はその巨体と素早さを生かし冒険者達を翻弄しながら確実に悪巧み数を減らそうとしている。
このままではじり貧になり負けてしまう。
そう思って観戦していると、三匹のうち一匹に動きがあった。
一人の冒険者が大狼に一撃を入れ怯ませたところから攻勢に移った。
「足が早いのはお前達だけの十八番じゃないんだよ!!」
ルークだ。
町最速と呼ばれる脚力生かし大狼を追従して確実にダメージを与えていく。
多少離されようと槍のリーチを生かし、巧みにリーチを誤魔化しながら後ろ足に攻撃を入れている。
むしろ、アイツの方が速くなってきてるのでは?
既に人の走れる速度ではない。
大狼も傷つけられながらも速度を緩められずにいる。
緩めればルークの更なる攻撃を許し、更には魔術師であるパティ達がタイミングを計りながら魔術を撃ち込んでくる。
そうしている内にもルークの攻撃が蓄積され大狼の右後ろ足が糸が切れたように動かなくなりバランスを崩し転がっていく。
ルークはそのまま通り過ぎ、コレを待っていたと言わんばかりに中規模の魔術が叩き込まれる。
魔術による轟音が鳴り響き土煙が立ち込める。
「やったか!?」
後衛の一人が声を上げて上げる。
それはいけない、フラグを立ててしまっている。
土煙が晴れると右後ろ足を引きずり、血だらけになりながらも何とか立ちあがった大狼が現れた。
「あれでまだ立てるの!?」
パティが驚き杖を構える。
魔術を放った後衛たちを睨み、大狼が遠吠えを上げる。
全身に響くような鳴き声。
コレが噂に聞いたハウリングボイスと言うものなのだろう。
遠くにいる私にもビリビリと響いてくる。
近くに居る冒険者達はたまったものではない。
たいせいがない人は失神したり、臨戦態勢を崩されてしまっている。
「まだだ!」
一人の男の声が空から聞こえてくる。
先ほど通り過ぎて走り去ったルークだ。
その高さは30m以上も上空を飛んでいた。
ルークが走り去った先に大きな土煙が見える。
彼の異常な脚力でその高さにまで跳んだのだ。
「そいつがお前の最後の叫びだ、喰らえ!!」
空中で全身をバネにして、ハウリングボイス中の大狼に槍を投げ放つ。
その瞬間、槍から大きな炸裂音が生まれる。
音の発生とともに槍が大狼の口から生えていた。否、槍が大狼の口から刺さり、貫いているのだ。
ルークが着地すると同時に槍が突き刺さった大狼の腹が破裂する。
「大狼、討ち取ったりーーー!!」
ルークの勝鬨と共に周りの冒険者も大声を上げる。
空にはドーナツ状の雲が一つ生まれ、一筋の雲がその中を貫いていた。
一匹目の大狼が倒された。
て言うか、ルークってこんなに強かったのか!?




