姫、緊急警報を聞く
昼休憩中に食事が終わり、依頼された刺繍を進めていると外から早鐘の音が鳴り響いた。
基本、早鐘町に驚異が迫っているときに鳴らされると聞いた。
何事かと皆と一緒に外へ出る。
物見櫓の方から一人の衛兵が息を切らせてやって来る。
「狼だ!大狼の群が東の森から近付いてきてる!
確認できたのは五匹!内二匹が成獣だ!!」
「確認、報告ご苦労!皆さん聞きましたね?
Bクラス以上の冒険者はすぐに西門に向かい衛兵と迎撃準備を開始してください!Cクラス未満の方々は手分けして町の中に大狼の襲撃を知らせ衛兵達を集めて、同時に非戦闘員に家から出ないように伝えてください!
これはギルドからの緊急依頼となります!!」
息を切らせて走ってきた衛兵から報告をするとサブマスは大声を上げ集まっていた冒険者達に号令を下した。
冒険者達も自分達の役割を理解しているように意気揚々と走り出して行く。
「全く、ギルドマスターが不在の時に限って大狼がやって来るとは、私も帰ってくるのが遅かったら危なかったかもしれませんね・・・」
ぼやきながらもテキパキと冒険者と衛兵、ギルドスタッフに指令を出していくサブマス。
若い女性冒険者達が黄色い声を上げて指示通りに動いていく。
あれで妻子持ちと言うのだから彼女等は浮かばれない・・・
私は初めての襲撃と言うこともあり大人しく見学していろと言われてしまった。
暇である。
暇なので見学をすることにした。
鉈を持ち、西門へ。
大丈夫、戦闘には加わらない。
見学しているだけだ。
襲われた場合は正当防衛としてそれなりの事はさせてもらう予定だ。
そうして私も意気揚々とスキップをしながら西門へと向かうのであった。
「お前等!!いいか、相手は五匹だ!多くはないが相手は大狼だ、油断するんじゃねぇぞ!
A以上なら一人で対応できるが生憎今日は俺しか居ねぇ、1体は俺がなんとかしてやる、残りの4体は1体に対して前衛が5人以上で囲み、後衛と連携を取り確実に撃破しろ!
いいな、こんな犬ころ何かで死ぬんじゃねぇぞ!!」
西門に響き渡る一人の怒号。
遠目からでも分かる、オーガかと間違えるほどの肉体を持つリザードマン、この町最強と言われるピカレスクさんだ。
彼の周りには大勢の冒険者達が集まっており彼の指示を聞いている。
本来なら長身に細身の体を持ち、筋力もその細さからは考えられない強さを持つリザードマンだが、彼はリザードマンとは思えないほどの筋肉をしていた。
扱う武器は鬼の大鉈と呼ばれ、自身の身長を超えるほどの巨大な剣。
そんなものを軽々と振り回す彼に敵うものは居ない。
この町の冒険者達の憧れである。
そんな彼が指揮を執っているのだ、皆気合いが入っている。
彼らもそうだが、何と言うか、緊張感よりも浮かれた雰囲気が漂っている。
まるでお祭り前のような高揚感がこの場を支配している。
私もワクワクしている。
大狼は見るのが初めてだからである。
名前の通り大きな狼なのだが、サイズが違う。
ただの狼であれば、大きくても2mはいかない。
だが、大狼は平均サイズが10m以上はあると言うのだ。
更に、記録では倍はある20mを超える大狼を見たとされる記録がある。
そんな物が目の前に来るのだ、ワクワクしないわけがない。
私は物見櫓のよりも低いが近くにある高い民家の屋根で観戦することにした。
ここからなら戦場全体が見渡せる。
既に大狼達がピカレスク率いる冒険者達に近付いている。
「本当に、ワクワクが止まりませんわぁ・・・」
一番大きな体をした大狼が遠吠えを上げる。
信じられない音が響く。
まるで町全体が震えているようだ。
其を合図に残りの大狼が散開し勢い良く飛び出していく。
町を守るための戦いの幕が切って落とされたのだ。




