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姫、縫い微笑む

他の冒険者に私が刺繍が出来ると知れ渡るのは早かった・・・

仕事以外の時、休憩時間も常に針を持って作業に当ててる程だ。

更には予約待ち等も出てきてしまい自由時間も無くなってきた。

耐えろ、これは借金返済後に武器と防具を買うために必要なことなのだ。


休憩時間に作業を進めていると他の女性冒険者に声をかけられるようになった。

私をギルドの見習い職員と勘違いしていたようで冒険者になることを言ったら驚かれていた。

何処か貴族の御嬢様だとか噂されていらしい。

いや、嘘設定的に間違ってはいないのだが。

この休憩時間中や仕事終わりに刺繍を教えて欲しいと言う人も何人か出てきたので一緒に縫っていたりする。

ここにいる魔術師のパティさんも難しい顔して縫っている。


「もう少ししたらエリーちゃんもギルドを辞めて冒険者になるのか~、私だったらこんな技術があったら冒険者じゃなく刺繍一本で食べていくな~」

「ええ、申す少しで借金の返済も完了しますし、晴れて自由の身となりますので。」

「他のみんなも嘆いてたよ、ギルドから腕の良い裁縫士が居なくなるって。」

「私も刺繍は趣味ですが、元来じっとしているのが苦手でして、外で動いていたいのです。」

「以外~、見た目も言動も完璧に御嬢様なのに。

人は見た目によらないね~」


他愛ない話をしながら手を動かしていく。

こんな時間も嫌いではないが、私は冒険者になってみたいのだ。

刺繍で食べていくなら最後の手段でもかまわないし、冒険者をしながらでも刺繍を縫うことは出来る。


そうやって時間を過ごしていると赤毛の青年がやって来た。


「おい、パティそろそろ出発の時間だぞ。」

「あ、ルーク。まって、すぐに準備するから。」

「こんにちわルークさん。」

「うえっ!?あぁ、こんにちわ・・・エリー・・・さん。」

「ルークってエリーちゃんのこと苦手だよね?こんなに可愛いのに。

妹にしたいくらい!」

「苦手って言うかよぉ、何て言ったら言いか・・・、説明出来ないんだけど、ちょっとな。

気を悪くしたらすまない、エリーさん。」


私はこのルークさんから苦手とされているようだ。

嫌いと言う訳ではないらしい。

どちらかと言うと恐れに近いのかもしれない。


「はい、準備できたよ!行こうルーク!

行ってくるねエリーちゃん。」

「いってらっしゃいませ。」

「大丈夫、今日は近辺調査だけだから。」


パティさんとルークさんは幼馴染みだそうだ。

二人とも元は商隊出身だったそうだが、運悪く商隊は壊滅的なダメージを受けて解散、二人とも親は亡くなって冒険者になったそうだ。


そして、近辺調査。

以前、私が壊滅させた黒化した村の後にも動物たちが黒化しているのが見つかったそうだ。

まだ被害は出ていないが獣は場合によっては群れをなす。黒化した獣が群れをなすタイプの場合、その脅威度は跳ね上がる。

特に狼などの場合は最悪と言ってもいい。

犬科と言うのは中型であろうと、速さなどでは人間では勝てず、大型となれば力負けすることもある。

そんなものか体の制限を超えて群れをなして襲い掛かってくるのだ。

どれ程の強さかはおのずと理解できる。


だけど、その話を聞いたときに心がときめいた自分が居たのだ。

戦ってみたいと。

どうやら私は戦闘狂なのかもしれない。

お爺様は戦場で無双と呼ばれ、お父様も昔は狂戦士とまで言われていたと聞く。

そう言えば、二人いるお兄様なんかは毎日のようにお父様を交えて笑いながら死合いをしていた。

うん、戦闘狂の血筋だ。


「ウフフ、本当に、楽しみですわね・・・」


自分自身の楽しみが見つかったのが嬉しかったのか、笑いながら刺繍を縫い上げていく。

まずは資金を集めて戦に備えなければ。

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