姫、新たな仕事を
ウェイトレス仕事にも慣れ、失敗も無くなり始めた頃、オークのアンゼリカさんが女性冒険者から服のようなものを受け取っている場面を見付けた。
「アンゼリカさん、何をしていらしたのですか?」
「あぁ、これね?冒険者の人達も優秀でも何かと生活する上で必要なものも多くてね、武器や防具、寝床に食事、衣類だって必要になってくるでしょ?」
「そうですわね、私も鉈以外の武器が欲しいですわ。」
剣もあるが切れないので論外である。
売ろうとしたらサブマスから「それをうるなんてとんでもない」と言われ怒られた。
意味が分からない。
「鉈って、あんた本当に意味が分からない子だよ・・・
まあ、そんな風に必要な物が沢山ある。薬や冒険用の消耗品だって必要だ。
お金がかかるなら何処かしら節約しなくちゃいけない。
そんななかで安くはないけど必要なもの、直せるものを探すんだ。」
「そうですわね?」
「そこで考えられたのがコレさ」
そう言って腕に抱えた衣類を見せる。
「ほつれたり破れた服や下着を直すのさ。」
「それならば、ご自分で直せばよろしいのではありませんの?」
「それが出来る奴等なら苦労はしないさ、そういった事が出来ない奴等もいる。
なら誰かに直してもらえばいい。でも他の人も出来ない。出来ても人の分まで手が回らない。
そこれならばとギルドで格安で受けることにしたのさ。」
「はぁ・・・」
「そうしたら来るわ来るわ、流石に多すぎてギルドが服の修繕講座を開くレベルにね。
この講座で頼む人は減ったけど、それでも直して欲しいって人は出てくるのさ。
ギルドは修繕講座を開いたからこれ以上は冒険者からお金をとっても仕方がない。
なら職員個人で受けてもらえばいいんじゃない?と。
そうして冒険者はギルド職員に個人の依頼として修繕作業を頼むようになったのさ。
部屋で暇潰しと小遣い稼ぎとしては丁度いいのさ。」
「なるほど、それは私でも受けることは出来るのでしょうか?」
「あんた、裁縫とか出来るのかい?」
「ええ、屋敷に居た頃は淑女の嗜みだ!と言われメイド達に覚えさせられましたわ!」
「あんだけ皿を割ったあんたが淑女とはねぇ・・・」
事実、前は毎日のようにパッチワークや刺繍を縫っていたのである。
信じられないようだが、やっていたのだ。
「信じられませんのなら、ここで実演してみますわ。」
そう言って、アンゼリカさんの抱えた衣類から白い布を一枚引っ張り出す。
パンツだこれ。
アンゼリカさんの裁縫道具を借り、脇のほつれたパンツを直していく。
しかし、この下着、味気無い。
冒険者が使う実用重視とは言え、あまりに飾り気が無い。
私としてはレースは動く上で邪魔だと考えるが、白一辺倒で柄も飾付けもない下着は御免被る。
着けるのならばそれなりに飾り気があった方が良い。
女性としては当然だと思うし、男性だって何も無い下着より綺麗な下着の方が嬉しいものだと前世の知識が訴える。
なので、やることは1つ。
刺繍を開始する。
普通なら専用に涌をつけて布を固定するが今は無い。
ならそのまま縫うだけだ。
不可能だと思われるが、やってやれないことはない。
両手の小指と掌、薬指と中指で布を広げ固定する。
そこからは慣れの世界だ。
白い生地なので薄いピンクの糸で薔薇と蔦を刺繍していく。
持ち方が旧モン○ン持ちみたいだ。
モ○ハンってなんだろう?
30分ほどでパンツの左側にワンポイントの刺繍が出来上がる。
「ふふん、どうです?中々のものだと思いませんこと?」
「はぁぁ・・・これは凄いもんだわ。
道具揃えりゃこれで食べていけるんじゃないかい?」
「いえ、私は自由気ままな冒険者になりたいのでそれは考えて考えていませんわ。」
「そうかぁ、そりゃ残念だねぇ。
これ、あたしがあんたに刺繍の依頼をするのはありかい?」
「ええ、構いませんが、私、刺繍の道具を持っておりませんわ?」
「そんなくらいなら、あたしの家にガキの頃に習い事でやらされてたお古があるからくれてやるよ!」
「まあ、本当ですの?それは気合いを入れて刺繍しないといけませんわね!」
そうして私は住み込みでの稼ぎ以外にお金を稼ぐ方法を見付けたのであった。
この刺繍が思いの外好評で、沢山の女性冒険者が押し寄せて来るとは思いもしなかったのであった。




