姫、賢者と神の確執
喉ものから血を吹き出していた神獣が光の粒子となり消えていく。
その中から膝をつき苦しそうな顔をした爪牙王が現れた。
それを見たアキラさんはゆっくりと目を閉じた。
すると、真っ赤に染まった体は崩れていき、中から人の姿のアキラさんが現れたら。
「これが神獣としての格の差だよ、爪牙王。」
「貴様は、それほどまでの力を持っていながら何故彼女を救えなかった!?何故、今なお世界をさ迷う!貴様には世界を統べる力も意志の強さもあるはずだ!それこそ強者としてのつとめじゃないのか!!」
「それは違うよ。
僕はこの力を手にいれたのは、彼女が亡くなった後で、僕には彼女との約束とみんなとの約束があるから、それを成すために世界を旅している。」
「それこそ、自らの力ではなく配下の者達にやらせるべき事じゃないのか!!
力あるからこそ弱き者を統べ護るのが自然の郷摂理じゃないのか!?」
この二人、ミヤコさん以外でもわだかまりがあるようだ。
アキラさんは悲しそうな目で爪牙王を見て言った。
「それは生涯を睹して仲間と、配下の人達、人々を護るものの生き方だよ・・・
僕は違う。
僕は僕の仲間達の為に、もとの世界へ帰る方法を探しているんだ。
それこそ、人の上に立つ事は出来ない。
最後には彼らを裏切ることになるんだから。」
「なっ・・・!?」
この場に居た全員に衝撃が走る。
元の世界へ、帰る!?
確かに勇者達は向こう側から召喚された存在だ。
召喚されたのなら帰ることは可能なのだろう。
勇者召喚の文献は屋敷に居た頃に読んだことはあったが、誰一人として元の世界にはもどらず、こちらで成功してしあわせに暮らしたとあった。
実際、ジジイの知識があるからこそ分かるが、向こう側はこちら側と比べたら、ある種の地獄と言って過言ではない。
ジジイの地位は特殊過ぎたが、それ故に弱い地位の人間は山ほど見てきた。
それならば戻らぬ方が良いと、どこか頭の中で決めつけてしまっていた。
「意外そうな顔をしているね?
そう、僕達召喚者は拒否権の無い一方通行な召喚によって呼び出され、十数年に及ぶ邪神戦争を戦わされていたのさ。
邪神を倒し、全てが終わったと思った時に帰る方法が存在しないと聞いた時はそれはもう絶望したよ。」
アキラさんの目線が睨むように神様へ向かう。
「叔父さんに怒りをぶつけられても困るんだがねぇ。
お前さんも叔父さん達の立場を知ってるだろう?
だから勇者も、僧侶も理解して今の居場所を自分で作った。
諦めきれてないのはお前さんだけだよ魔法使い。
叔父さんはお前さんのそういう女々しいところが嫌いなんだ。」
森の空気がゆっくりと変わっていく。
神様の言葉と共に嫌悪感を表すように、空気が重く沈んでいく。
「貴方方を恨む気はありませんよ。
この世界の理をねじ曲げ、僕たちに適用したのは神ですので恨みようがありません。
ただ、僕は諦める気はありませんので。
例え何百年経とうが必ず帰ってみせますよ。」
「全く、強情な・・・
いいさ、叔父さんはもう何も言わないさ。
その足掻きを見続けさせて貰うよ。
それと、たまには君の国にも顔を出しに行きなよ?」
ため息を吐きながら神様が遺跡の奥へ歩いていく。
ゆっくりとその姿が闇へ溶けていった。
「さて、後はこいつの後始末か。」
「そうだね、僕としてはすぐに出ていくから」
「そうですわ!ガンバルティアに向かわなければいけないんでした。」
「おや、里帰りとは、何かあったのかい?」
「ええ、神様から国に脅威が迫っていると言われましたので・・・」
「おだやかじゃないね。
あの人はあれでも神の一人だからね、予言めいたことは結構当たるんだ。
前回のウエインでの事もあるから急いだ方がいいかも知れないね。」
「それならば、町に戻ったら越境の手続きは私が手配しておきます。」
「で、アキラ君よ、コイツはどうするんだい?」
「面倒だから捨てておくよ。」
「ちょっと待てクソ賢者!?さすがにそれは酷くないか!?」