翁、過去語り参
港町で目覚めて、無償で助けてくれた医者に礼を言って外に出た俺を待っていたのは終戦と敗北の報だった。
開戦から続いていた勝利と快進撃の報は何だったのだろうか、世界の1/5を手にいれんとしていたあの勢いは何だったのだろうかと思える報だった。
今となっては本土と北に南の島しか残っておらず、侵略対象であったこの港町は我が国の兵が居なくなったことを喜んでいた。
そう、周りを見ても、船着き場を確認しても我が国のものはなくなっていたのだ。
つまるところ、帰れなくなった。
幸いなことに、長年師匠としか喋っておらず、この国の言葉が内陸の深い山奥の方言になってしまい、田舎者にしか見えなかった事か・・・
それでも田舎者を狙う奴等には良い鴨に見えたのだろう。
気がつけば幾人ものチンピラに囲まれ金を出せと脅されて、カッとなった衝動で全員を返り討ちにしてしまった。
記憶は曖昧だが、死んでたと思う。
頭に血が上っていて当時のことはあまり深く思い出せないが、チンピラを殴れば舎弟になり、闇の人間が来ては殺し、最終的にはマフィアの用心棒みたいなものになっていた。
その間に色んな奴等と手を合わせて来た。
どれも見たことがない技を使ってきて世界の広さを知った。
まあ、全部殺してしまったので惜しいことをしたと悔いた。
致し方がない、目的は金なのだ。
目標の金が貯まった後は国に帰ることにした。
兄や父上は駄目でも、母上や妹は生きているはずだと。
船に乗る前に組織と一悶着あったが、適当に潰しておいた。
お陰で懐は数十倍にまで膨らんだ。
初めからこうすれば良かったのだ。
船旅は何事もなく進み、故郷にもたどり着いた。
船の中で密航した女の子を見つけたり、追っ手が出てきたり、船に仕掛けられた爆弾何かもあったが至って普通の船旅であった。
故郷で見たものは、全てが焼け落ちた町だった。
都が空襲の末に燃えたことを知っていたが、この町も燃えていた。
あまりの悔しさと、怒りと、悲しみで、家があったであろう場所で泣き、叫んだ。
それからは自分が思った以上に吹っ切れたようで、西の都へと向かうことにした。
西に行っても大陸でしていたことと変わらなかった。
チンピラを殴り、マフィアにスカウトされまた用心棒に。
大陸の言葉が使えるって事で海を渡ってきた最強の暗殺者とか呼ばれ、警護対象の旦那からは真っ赤な拳法着をもらい、これが制服になってしまった・・・
「知らねぇのか?先生の服は自ら手にかけた刺客の血で染められてるんだぜ?」
「先生は向こうで人を殺しすぎて、強いやつを求めてこの都に来たんだ。」
「ウチの先生は、本気を出したら指先が触れただけで人のからだが吹き飛ぶんだ!」
変な設定がドンドン生まれていった。
言っていること全部可能だが、そこまでやらんよ?
そこの、足踏みで地面が割れるってなんだ?そんなことしたら組にどんだけ賠償金がかかると思う?
師匠の真似したらビルひとつ倒壊させたのが問題だったか?
そんな感じで用心棒的な感じで組の中でゆったりとした時間を過ごして、休日は山にこもり修行に明け暮れた。
シタッパが何度か弟子にしてくれと言ってきたが、次の日には来なくなってる。
見知らぬ武道家が襲いかかって来たこともあった。
ほとんどが見かけ倒しですぐにかえってもらった。
幾人かは本物が居た。
その時はもう止まらない。
始まれば殺すか殺されるかの二択しかなかった。
楽しかった。
そんな暮らしを定年まで過ごして、退職金で山奥に家を買った。
その後は、いんたーねっととかが普及したので情報を漁り、触ったことが無かったげーむに大ハマりして修行を続けながら過ごして居た。
ある日、修行中に山を登っていたら声が聞こえた。
天啓だったのかもしれない。
「私の世界を救ってくれませんか?」
とうとう頭がイカれたのかと思ったね?
何故に俺何だと?
そもそも、非科学的なものは師匠だけで十分だと。
だが、そろそろ自分の体も長くないってのも分かっていた。
ならこの異世界転生に乗ってみるのはありなのかもしれない。
丁度ネット小節漁りにハマっていたし。
なら受けてみるのも一興かと。
「有り難うございます。では、まずはその体から魂を抜き出しますのでじっとしていてください。
・・・
・・・
あれ!?何で!?魂が体から離れない!?」
良くわからなかったが、魂が回収できないようだった。
「ちょっと待ってくださいね?
・・・なにこれ・・・体が仙人になりかけてる・・・」
不穏な事を言っていた・・・
・・・・・・・・・
「これ、貴方の人生だけでラノベが書けるんじゃありませんの?」
「馬鹿言っちゃいけないよ、こんな修行と殺ししかない人生恥ずかしくて書けるか!
イチバンノ問題点はヒロインが居ないんじゃ・・・」
「あの・・・もしかして・・・」
「生涯彼女無しじゃ!!悪いか!?」