翁、過去語り壱
それは、15をこえて元服をして赤い紙を貰ってから人生が変わった。
当時は、そこそこ良い所の三男で恵まれていたのは幼い頃からわかっていた。
それこそ、学問なんぞよりも武に走り、柔道や空手に剣術、親に頼み様々な武術を学ぼうとしていた。
幼い頃から鍛えて居たが、無理に鍛えすぎたのか身長は伸びなかった。
そんな俺だ、召兵された時は多いに喜んだ。
当時で言えば、御国のために戦える。
その内面は、自分の力を試せる!戦場で戦える!とかそんな考えしかなかった。
母上は最後まで泣いていた。
父上も、兄たちも呼ばれたのだ。
残るのは今年七つになる妹だけだ。
駅で行ってきますと言ったときは、既に別人のようになってしまっていた。
しかし、当時はそれを誇らしく思っていた。
ああ、馬鹿だったんだ俺は。
電車の中で兄達と再開出来るように頑張ろうと誓い合った。
しかし、家族を見るのはこれが最後だった。
兄達は船で南へ、俺は西へ渡り大陸へ。
父は分からなかった。
小さいながらに同年代よりも体を動かせる俺は、摂行として有用と見なされた。
昔からかくれんぼや息を潜んで盗み見ることが好きだった俺にはもってこいの仕事だった。
国の領域を拡げるために無茶な行軍が続き、似たような世代が一人。また一人と居なくなっていった。
オトナと呼べる奴等は日に日に荒れていった。
初めは皆が志を高らかに船から降りていった。
しかし、進めば進むほどこの世界に果てはなく、本国からの連絡もない。
ただただ進むしか無かった。
食料が尽き、弾薬も無くなり、残った人達は志を棄て野盗になった。
俺もここで野盗にでもなれば良かったのだ。
何を思ったのか、本国に伝えねばと思って、一人脱け出し、来た道を戻った。
途中に村を見つけ、港は何処だ!?と問いただし、その方向へ走ったら。
走れど走れど見たことのある道へはたどり着けなかった。
そう、嘘を教えられたのだ。
気が付いたら時には戻ることすら不可能になっていた。
あまりの絶望に泣いていた。
ここで人生の転機が訪れた。
「てめぇ、脱走奴隷か?それとも世棄てか?てめえの人生がいらねえなら俺にあずけてみねぇか?」
その国言葉だったが、何故か脳内へ意味が入ってきた。
外国語は学んだが、そこまで流暢に喋れたり、理解できたりは出来なかったが、不思議と脳に入ってきたのだ。
そこには、ボサボサの白髪をしたオッサンが立っていた。
そう、この日から世捨て人としての日々が始まった。
・・・・・・
「事実は小説よりも奇なりと言う言葉がありますが、本当にラノベみたいな展開ですわね?」
「言うな、当時は必死だったが、今思い出すと恥ずかしくなるわい。」