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魔王、装備を使う

 クリンツ王国の王であるアカシアは、嫌な予感を感じていた。

 2日前、勢いに任せ戦争をやるということになり、宣戦布告への返事を使者に持たせたところ、先程の悪魔がその手紙を持っていった。これで手紙は届いただろう。しかし、何か嫌な予感がするのだ。何か選択を誤ったような。もうずっとそうして悩んでいるアカシアはストレスで本当に胃に穴があいたという。


 □ □ □


 「おい、あれじゃねぇか?」

 「立派な防壁だな。何のため何だか」

 「でもおかしくないか?」

 「何が?」

 「敵兵の姿が見えない」

 「ほんとだ」

 「確か、あっちから宣戦布告してきたんだよな」

 「ああ……。まさかビビって引きこもっちまったんじゃないか」

 「かもな」

 進軍しながら会話をしている兵士達の話を聞くものがいた。モノクルをつけ、灰色のマスケット銃を持った男。グラウだ。グラウは強く歯を噛み締めると、くるりと身を翻し、魔王城へと向かう。愛しき主に敵の到来を伝えなくては。

 

 □ □ □


 ノワールは、防壁の周りにせっせと簡易テントを建てたりなどと魔王城を攻める準備をしている兵士達を眺め、顔を綻ばす。

 セシルに聞いたところ、戦争の前には両軍の長が真ん中まで行き、「準備できた?」「うん。できたよ」という話をするのだそうだ。そしてお互いが陣地に戻ってから戦争開始。これを聞いたノワールはずいぶんとお行儀がいいんだな感じた。ノワールに戦争の知識はないが、何だかおかしく思えた。

 なんせ、相手の準備ができるまでは、攻撃は禁止らしいのだ。不意打ちなんてもってのほか。

 ともあれ、ノワールは己の装備の能力を試せる機会を得て、正直踊りたいくらい嬉しかった。圧倒的な力は振るってこそだ。この装備を得てから、ビクビクと周りに怯えていたのが嘘のように堂々と生活できるようになった。

 正直、この装備があれば誰にも負ける気がしないが、もしかしたら他の魔王に相手の能力を打ち消す能力を持っている相手がいるかもしれないので今すぐ世界を征服するような事はしない。まあ、今回は人間との戦争だ。気楽に行こうと、周りに集まってきた幹部に言う。

 「私達はノワール様からの命を全力でこなすだけです」

 「そうかい。ま、怪我はしないようにな。人間じゃ無理だろうがな」

 HAHAHAと和やかな雰囲気の中、常識人(自称)のセシルはどうしても不安をぬぐいきれなかった。なんせ約十万人相手に7人で戦うというのだ。

 ノワール含めた7人が強いのはわかる。初めてあった時には思わず逃げ出したくなったくらいだ。しかしそれでも数の差は圧倒的だ。

 「お、来たぞ」

 どうやら相手の準備が出来たため兵士が来たようだ。

 「おし、行くか」


 □ □ □


 「こちらの準備はできましたぞ。そちらは……」

 「もう準備は出来てる。さっさと始めようぜ」

 「は、はぁ……」

 今回の戦いを任された公爵は、拍子抜けするのと同時に怒りを覚えた。王が全力で行くというので、この戦で功績を残そうと出張って来たというのに、敵兵は準備していないように見える。魔王だという男もまだ子供だし。もしかしたら防壁の向こうに敵兵がいるかもしれない。とモチベーションをなんとか保ち、作戦本部となる簡易テントへ入る。

 「おお、公爵様。どんな輩でしたか?」

 「気狂いのガキだ」

 吐き捨てるようにそう言って、それより言葉をつなげることは無かった。


 □ □ □


 ノワールは敵兵が動揺していることに気付いた。それもそのはず敵将がなかなか陣地に戻ろうとしないからである。ノワールはそれに気付き、敵兵に声をかける。

 「俺はこのまま戦うから気にしなくてもいいよー」

 より困惑が深まったのを感じ、言葉を続ける。

 「ほら、君たちも敵将を倒した名誉、欲しいでしょ」

 今度は彼らの表情が変わり、一部の兵が襲いかかってくる。ほかの兵は未だにどうすればいいのかわからない。

 ノワールはさっきまで外していた兜をかぶる。とりあえずは襲ってきた兵を実験台にする。

 「『強欲』よ。奪え」

 このノワールの装備。『強欲』は、鎧の能力と、篭手の能力がある。鎧の能力は、周囲の敵意を察知してくれる能力だ。今も周囲からすごい敵意を向けられているのがわかる。

 そして篭手の能力。まずはものを無限にしまえるというものだ。多少制限はあれど、だいたい何でもしまえる。そしてもう一つの能力。それは何かを『奪う』能力だ。

 ノワールに向けて襲いかかっていた兵士は、まるで全身から力が抜けたように崩れ落ちた。

 ノワールはこの結果を見て、さらにテンションが上がった。

 周囲の幹部達も何が起こったのかわからない様子で目を見開いている。

 「半分は俺が殺す。残りはお前らな」

 「は、はい!」

 ノワールは『飛翔』し、兜に包まれた顔を敵の方へ向ける。この篭手の能力のおかげで、相手がどのくらいの数いるかわかる。

 この篭手の能力は奪うことだ。より正確にいうなら、知覚できる範囲のものを任意で奪えるのだ。どうやらそのために、篭手が知覚したものが何か教えてくれるのだ。

 それにより、敵兵が約8万人だとわかる。ので半分は4万だ。

 「『強欲』よ。奪え」

 次は4万人が崩れ落ちる。

 「お、おい。どうした」

 「し、死んでる……。死んでるぞッ!」

 崩れ落ちた兵の周りにいた兵が慌てる。

 ノワールは8万人の中から適当に4万人選び、そいつらの命を奪っただけだ。ノワールもこんな不確かなものが奪えるのかどうかわからなかったので、最初に試したのだ。奪った命は篭手の中に入れた。わかりやすくするためなのか、それとも命はそういう色なのか、黒い靄が篭手の周りを回り吸い込まれていく。

 それを見た兵は

 「魔王だ……。逃げろおおおッ!!魔王だああッ!!」

 と叫び逃げ出す。

 ノワールは、最初から魔王だって言ってるのに……。と不満げだった。

 「さあ、幹部たち。皆殺しにしてくれ」

 「「御心のままに」」


 始まるのは7人による一方的な蹂躙。

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