魔王、少女から話を聞く
クリンツ王国第二王子は、直属の騎士隊隊長からの報告を聞いていた。
「第一王女様が逃げ込んだ可能性のある村は、すべて処理しました」
「これであいつは死んだか」
「はい」
「やっと私が王になる道が見えてきた……」
「お言葉ですが、第一王子様の容態を見る限り、座して待っていてもいずれ王になれたのでは……」
「騎士風情が口出しするな」
クリンツ王国第一王子。現在原因不明の病に襲われ、床にふしている。医師の見立てでは、もって半年だそうだ。
第二王子。継承権のなくなった妹を殺そうとしたり、兄までもどうにかして殺そうとする青年。詰まるところ彼は心配性なのだ。
□ □ □
「……ここは?」
「起きたか」
少女が目を覚ました時1番はじめに見たのは、どちらかというと整っている、黒髪黒目の青年の顔だった。
「あ、あなたは?」
毛布を手繰り寄せ、胸元に持ってくる。
「俺はノワール。ここは魔王城」
「魔王!?」
魔王というのは、辺境に住む平民の耳にまで入るほどに、その悪名を轟かせている。実は、ノワールは結構最後の方に呼び出された魔王で、一番最初に呼び出された魔王と比べると、実に一年くらいの差がある。その間になんとか頑張って付近の街を支配した魔王がいたため名は広がっていた。
「あの……助けてくださってありがとうございました。えっと村の人は……」
恐る恐る聞いてくる少女に、ノワールは何でもないように答える。
「みんな死んでたよ。さらに言うと付近の村はすべて壊滅。生きていたのは君だけ……」
「私だけ……ですか。皮肉な話ですね」
ノワールは彼女の言葉に疑問を覚えたが、それについては特に聞く事はせずに、ずっと聞きたかったことを聞く。
「あの村で何があったのか、教えてもらえるかな?」
「はい……。と言っても一言で終わります。騎士たちが攻めてきて、村が壊滅しただけです」
空虚な笑みを浮かべて答える少女に、「これ、大丈夫か?」と思ったノワールだったが、顔に出すなんて事はせずに、1部聞き返す。
「騎士?」
「はい。あれは騎士団の紋章でした」
騎士か、と少し納得のいったノワールだった。話は聞けたし、騎士ならばいくらいても脅威にならないと判断し、彼女に今後を伝える。
「君は少しここで休んでいくといい。落ち着いたら、人間の国に連れていってやろう」
「はい……。あの!」
「どうした」
「村の人たちの遺体は?」
「ああ、手厚く葬っておいたよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「いえいえ」
遺体は魔物葬というノワール考案の葬り方だ。鳥葬と似たような感じをイメージしたらしいのだが、ノワールは鳥葬に詳しくは無いためとりあえず適当に魔物の餌にしてやっただけだ。
今や、元村はすべて一旦更地にして、建物を作り、亜人や悪魔を住まわせている。亜人たちが自給自足できるように畑も作っておいた。
それに伴い、魔王城の下にも城下町のようなものを作った。ここら一帯を、魔王国とし、城のあるらへんを魔王都にした。世界征服の足がかりとなる場所だ。
「そういえば、ずっと見ててくれたんですか?」
少しだけ、少女の話し方が柔らかくなってきている。
「いや、さっきまでメイドがいたんだけど、そのメイドの尻を追っかけてたら楽しくて……」
「あぁ……そういう……」
今のノワールの発言を正しくすると「メイドの尻(尾)を(目で)追っかけてたら楽しくて……」なのだが、当然そんなことを知るわけがない少女は、女の敵を見る目でノワールを軽く睨んだのだった。
□ □ □
「クレア」
「ここに」
彼女こそが、魔王城のメイド長を務める人物である。狐の獣人で、ふわふわの尻尾が光に反射して眩しく感じる。何を隠そうノワールがさっきまで追っかけていた尻とは彼女のものなのだ。クレア自身も気付いていて、いつ体を求められるかドキドキしていたのだが、結局声がかかる事はなく、少ししょんぼりしていたところ、再び呼び出されたのだ。シュバッと効果音がつきそうなほどの速さでノワールの前に跪いた彼女に、ノワールが少し引いたのは言うまでもない。
「引き続きあの子の世話を任せる」
「……はい」
「どうした?」
「…………何でもございません」
「そうか? 頼んだぞ」
「はい!」
結局ベッドへのお誘いではなかったことにまたしょんぼりしたが、頼んだぞと声をかけられては、どうしても嬉しくなってしまう。
御機嫌な様子で少女の部屋に向かうクレアを見ながら、「もしかして百合か?」などと考えながら、執務室へ戻る。執務室と言っても名前だけだが。
□ □ □
実は第一王女な少女(重大なネタバレ)は、洗脳攻撃を受けていた。
「ノワール様という御方は、膨大な魔力をお持ちになっていて……」だの「ノワール様はとても器が大きくいらっしゃって……」といった感じに、交代制らしいメイド達に如何にノワール様が素晴らしいかを聞かされるのだ。
そして3日ほどたった時。ノワールが、そろそろ人間の国に戻してあげようかなと会いに行ったら、
「ああ!ノワール様。私を人間の国なんかに戻すなどとおっしゃらないでください!私の血肉のすべてはノワール様のためにあるのですから!」
芝居じみた所作で話す彼女を見て、元凶であるメイドたちは揃って頷いていた。
「えーっと。まだ落ち着いてなさそうだから、また来るね」
と早口にいい、ノワールは逃げるように部屋から出ていった。
□ □ □
また3日後。再び彼女の部屋に赴く。
「落ち着いたか?」
「はい……」
頬を染めて俯く彼女を見て、ああ元に戻ったなと思い、帰る準備をしろといった。
「え?帰りませんよ?私のすべてはノワール様のものですから」
どうやら話し方などは元に戻ったが、後遺症は残ったようだと、冷静に分析しながら、ノワールは部屋から逃げ出した。
お読みいただき、ありがとうございます。
今回、試験的に書き方を少しだけ変えてみました。読みづらいでしょうか?