魔王、名付ける
「「我らが命、ノワール様のために」」
全員で声を合わせる配下たち。そんな彼らに、ノワールは問う。
「お前達も名前無いの?」
燕尾服を着た、執事の様な老人が答える。
「はい。なので、名前を付けていただきたく……」
「なら、爺さんはグラウ」
「ありがとうございます」
「次は……」
ノワールが目を向けた先にいたのは、黒いゴスロリを着た、雪の様に白い肌の少女。綺麗な銀髪を肩口で切りそろえている。彼女の赤い目が、ノワールをじっと見つめる。
ノワールはどこか既視感を覚える。それがなんなのか結局わからなかったが、彼女には黒が似合うと思った。ので、名前も黒に関連するものだ。
「ネーロ。お前はネーロだ」
「ノワール様にもらったお名前、大切にさせていただきます」
次は、肩を少し過ぎる淡い栗色の髪を寝癖でぐしゃぐしゃにし、眠たげな目でノワールを見つめる少女だ。よく見ると耳が尖っている。もしかしてエルフ的な何かなのか。などと考えながら名をつける。
「ヴェルデだ」
「ボクもノワール様に頂いた名前を大切にすると誓います」
菫色の髪をショートにした、やり手のOLを思わせるパンツスーツを着た女性。
「ヴィオレな」
「ありがたく頂戴致します」
最後に、立ってもノワールの腰ほどしかないであろう大きさの少女だ。明るい茶色の髪を垂らし、期待に満ちた顔をノワールに向けている。背中には、透明なビニールの様な羽が1対あった。妖精だろうか。
「ホアンだ」
「ありがとうございますっ」
「さて、これで名付けが終わった。ので、次は種族を教えて欲しい」
グラウが答える。
「私は最上級悪魔です」
ロッソと同じようだ。
「私はヴァンパイアです」
次はネーロだ。
「ボクはハーフエルフです」
ヴェルデ。
「私は最上級サキュバスです」
「サキュバス!?」
ヴィオレの発言を思わず繰り返してしまうノワール。
「いかがなさいましたか?」
「い、いや、サキュバスってあれだよな。精を食らって生きるという」
「私は少し違いますね。精ではなく生を食らっております」
つまり、命を奪い生きているのだそうだ。
「ならいいか」
しかしノワールにとっては、精を取られるよりも生を取られた方がマシなようだ。
それは、どうせ童貞を捨てるなら、処女相手がいいという、夢見がちな童貞丸出しな理由があるのだが、割愛する。
「ホアンは?」
「私は最上級妖精です!」
元気よく答えたホアンを見ながら、最上級妖精って違和感がすごいな。と思ったノワールだった。
と、ホアンが何か期待した目で見てきていることに気がつく。それが何を意味しているのかわからないが、とりあえず頭を撫でる。純粋な目が、在りし日の妹に重なったのだ。
(ん? 妹?)
俺に妹なんていたのかな、と一瞬思ったノワール。しかし、どうせ失った記憶の中にいたんだろう。と適当に納得し、「えへへ」と笑みを浮かべるホアンを眺める。これで正しかったのだろうか。喜んでくれている見たいだしいいか。と、またまた自己完結する。
「ノワール様……」
ネーロに声をかけられる。そこでやっと自分のしたことに気付き、こほんっと咳払いをする。
「これからのことだが……なんだよその顔は」
ホアン以外の配下が、期待した顔でノワールを見つめる。
「待て待て、女はともかく男は……男は……。ああもう」
視線の圧力に負け、結局なでていく。流石に男どもは頭にぽんっと手を置くだけだったが。
(忠誠が高いのはいいが、こんなことになるんだな)
「満足したか? これからどうするか話し合おうぜって」
「ノワール様の御心のままに」
「跪かれたままだと、話しづらいから立ち上がってくれ」
素直に立ち上がってくれる配下達。ノワールも玉座から立ち上がって、扉へ向かう。
「ついてこい」
せっかくだから、会議室で会議をしようと探しに出たのだ。もしなかったら作るつもりで。
はたして、会議室はあった。すぐ近くの部屋だったため、もう少し探検したかったノワールは少しだけ不満げだ。
会議室は、大きなテーブルといくつかの椅子があるだけの簡単なものだ。ノワールは意識して上座へ向かう。もしかしたら配下達は気にしないかもしれないが、こういうところから、上の者の振る舞いをしていこうと思ったためである。
配下達にも着席を促し、話し始める。
「議題はこれからどうしましょうか、だ。主に次は何を作り出すべきかとか。自由に発言してくれ」
「正直に申しますと、ノワール様の魔力量を考えると、順番など意味が無いように感じます。とりあえず、配下を増やし、それの居住空間をあとから作る形で良いと思います」
「そう、その配下召喚なんだけどさ、『超級配下召喚』ができなくなってるんだよね。誰かなんか知らない?」
ロッソの発言でノワールは思い出した。何故か『超級配下召喚』を合計6回やったら、使えなくなってしまったことだ。
「そのことなら知識にあります。どうやら、『超級配下召喚』にのみ、使用回数が決まっているようですな。多くても2回らしいのですが、6回もなさるとは、流石ノワール様」
グラウの世辞に恥ずかしい気持ちになりながら、自分の考えを出す。
「じゃあ、ロッソが言っていたように配下を増やしまくって、付近の国を侵略しよう」
「「御心のままに」」
会議とは言えない会議が終わり、ノワールはふと思う。俺ここに来てから何一つ食べ物を口にしていない、と。