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魔王、チュートリアルを受ける

 「この世界には、複数の魔王ーーあなたと同じように異世界で死に、そこから来た人たちですーーがいます。その中で最強の魔王。大魔王を目指してください。付近の国を襲撃し、支配するもよし、他の魔王を皆殺しにしてもよし、自分なりの方法で、大魔王になってください。か」


 続きを音読する。


 「しかし、どうすればいいんだ。出口すらないんだけど」


 いいながら、下手くそな挿絵の書かれた、本のページを捲る。

 『この本を所定のページまで読み終えた時からあなたの魔王生活が始まります!頑張って読んでください。』


 「はいはい」


 『魔王は、生前の善行の数に応じた能力値となっています。いいことを沢山した人が強い力を持ち、悪いことを沢山した人は弱いです。』


 「はっきり言うな」


 そうして自分の前世を思い返して見る。ところどころよくわからない記憶の欠損があるようだが、これといった善行は思いつかない。悪行だって特には。生きることが罪、とか言われたらどうしようもないが。


 『魔王は己の魔力を使い、部屋を拡張したり、増やしたり、配下を召喚したりできます。試しに下級魔物を召喚してみてください。』


 書いてあった手順はこうだ。言葉に魔力を込め、『下級魔物召喚』と言えばいい。男は、言葉に魔力を込める、というのが理解出来なかったために、とりあえず力を込めて言ってみる。


 「『下級魔物召喚』」


 ほんの少し、何かが体から抜けていく感覚がした。

 どこからか光が集まり、少しの間蠢く。光が消えると同時に魔物が姿を現す。


 しなやかな体に、鋭い犬歯。煌めく目にピコピコ動く耳、モフモフな体毛。そうそれは


 「猫?」


 しかも大きい。俺の知っている猫とは比べ物にならない。だいたい、虎より1回り大きいくらいだ。そんな生物をなぜ猫だと断定できたか。それは、外見が完全にイエネコなのだ。男は猫が好きだった。よってそれに最も近い種類も思いつく。ノルウェージャンフォレストキャット。長毛種で他のイエネコよりも大きめになる。しかしこんなサイズはありえない。しかし、もうそんなのは、男にとってはどうでも良かった。なぜならノルウェージャンフォレストキャットは男の一番好きな種類だったから。


 「おおおおおお。モフモフモフモフ」


 猫(仮)は嫌がりもせずにモフモフ攻撃を受け入れている。それどころか嬉しそうにも見える。


 一頻りモフったところで、一旦冷静になる。これは『下級魔物召喚』によってここにいる。つまりこれは魔物だということだ。どうすればいいのかわからなくて、とりあえず本の続きを読む。


 『魔物は召喚できたでしょうか。あなたによって召喚された生物はあなたに忠誠を誓います。あなたの命令一つで死兵となります。しかし、あまりに能力値が低い、且つ愚かな主人には愛想を尽かしてしまう場合がありますので、お気をつけください。』


 「まじかよ」


 男は思わず呟く。男は善行も悪行も目立つものがない。それはつまり、力で言うと、真ん中くらいだと勝手に思っていた。しかし、それが違っていたとしたら。もし今回あつめられたのはある程度の善行を行った者達だとしたら。精精募金くらいしかしたことのない男は、最低の能力値なのではないか。そんな風に思ってしまった。

 おそらく、この巨大猫が俺に少し噛み付いたらもう死ぬだろう。つまりは、この猫が俺に失望しないような動きをせねばならない。

 そう考え、1層気を引き締めた男は再び本の続きを読む。


 『次は部屋作成です。『下位部屋作成』で、あなたの居住空間を作ってください。』


 「『下位部屋作成』」


 巨大猫召喚時より少しだけ多く何か抜けていった。

 この部屋の1辺に扉が現れた。迷わず開ける。


 想像したのは、独身エリートビジネスマンの住むマンションの1室、だろうか。

 入ってきた扉が玄関のようだ。そのまま廊下を前に進む。まずは右手にトイレ。ウォシュレットもついているようだ。左に曲がる。少し進むと、左手に脱衣所並びに風呂が見える。なかなか広めのようだ。さらに少し進むと右手に部屋がある。書斎だろうか。12畳ほどの部屋にいくつかの本棚が置いてあり、そこにはびっしりと厚い本が詰まっていた。部屋の奥には、どこぞの社長が使っていそうな程に立派なワークチェアとデスクがある。この部屋を出て、さらに奥へ進む。

 正面の扉を開くと、手前にはカウンターで仕切られたキッチン。その奥にダイニングテーブル、さらに奥に、ソファに囲まれたリビングテーブルがあった。

 左右に扉がある。まずは左手の方を開ける。寝室のようだ。白いマットレスに、白いシーツ、白い枕。触ってみると、信じられないくらいふわふわだ。枕元には淡い光を放つフロアランプがある。右側の部屋も同じ様子だった。

 

 勝手に独身だと思ってたが、寝室が2つあるし、もしかしたら家族で住んでるのかも。やけに広いし。と勝手に設定を考えながら、本のある部屋へ戻る。そして続きを読む。


 『どんな部屋ができましたか?生前の善行が多ければ多い程、良質な魔力となります。良質な魔力は魔法効果を上げます。つまり、善行を沢山積んだ人程、これまで良い魔物、良い部屋ができたはずです。』


 「さっきの部屋よりいい部屋ってどんなのだよ」


 男は呆れつつ文句を吐き出す。

 あの部屋よりすごいとなると豪邸まるごと、とかかな。と益体もないことを考え、先を読む。


 『お疲れ様でした!これで最低限はわかったはずです。まずはこの部屋を発展させていき、最終的には大魔王を目指しましょう!


 あなたが、魔王として使える魔法の一覧は次ページにあります。ぜひ読んでおいてください。

 アドバイス!使用した魔力は一定時間眠ることで回復します。早寝早起きを心掛けて!』


 「ふぅ……」


 チュートリアルが終わったことで、一息着いた。なんだか変なことに巻き込まれちゃったな、と思いながら、ページをめくる。情報があって、損はしないだろう。


 『■召喚系■


 『下級魔物召喚』


 『中級魔物召喚』


 『上級魔物召喚』


 

 『下級亜人召喚』


 『中級亜人召喚』


 『上級亜人召喚』


 

 『下級悪魔召喚』

 

 『中級悪魔召喚』


 『上級悪魔召喚』


 


 『超級配下召喚』


 

 ■作成系■


 『下位家具作成』


 『中位家具作成』


 『上位家具作成』



 『下位部屋作成』


 『中位部屋作成』


 『上位部屋作成』


 

 『下位装備作成』


 『中位装備作成』


 『上位装備作成』


 『超位装備作成』


 あくまでこれは、あなたが魔王として使える魔法です。魔法の勉強をすればほかの魔法を使える可能性があります』

 

 

 「とりあえず寝るか……」


 疲れた声で言い、部屋に戻る。巨大猫を連れて。


 明日、配下を召喚しよう。そう思いながら。


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