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おとなりダーリン。  作者: 坂戸樹水
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 数日後、業者が やって来た。

貧乏作曲家ったってね、そこそこの機材 取り揃えなきゃ仕事にならんのよ。

今日は、そんな大量の機材を一気にパァーっと持ってって貰うワケ。



「お見積もりは、30万で如何ですか?」



 うぉおぉおぉおぉ!! スゲェ!! 30万!? 札束に目ぇ輝くわぁ~~!


 つか、このB社のハーモナイザー50万したんだけどね!

こっちのコンプレッサー57万したんだけどね!

諸々 総ざらいして30万とか、持ってけドロボ~~



「イタダキマス」



 業者は手際よく機材を梱包。

大事にしてくれな、大事に。ホント、そいつらには世話んなったからさ。


 業者は梱包し終えた機材をトラックの荷台へ乗せるを繰り返す。

その騒ぎに、近所の人達がワラワラと。

オイ、コラ、借金のカタに持ってかれてるワケじゃねぇかんな!

自主的に質に入れただけだかんな!

哀れんだ目で貧乏屋敷の無職を見るんじゃねぇよ!


(こんなコトで脚光を浴びようとは……)


 もぉ恥ずかしぃから部屋に引っ込も。

そうして踵を返した所で、大学から帰宅したユーヤ君と業者が鉢合わせ。

大きな目をパチクリするユーヤ君は、トラックに書かれた【ドーンと来い! 買取専門】のロゴを見るなり狼狽える。


「な、何やってんですか、ソレ、何ですかっ?」

「え? アチラの お宅に頼まれて出張買取を」

「だから、中身はっ?」

「え~~っと、音楽に使う機材みたいですよ?」

「みたいって……」


 ユーヤ君は慌ててオレの元に走って来る。



「何で売るんですか!!」



 来た。来た。

こんなコトもあろーかと、ユーヤ君がガッコに行ってる間に売っぱらっちまおうと思ってたのに、業者のヤローが渋滞で遅れて来るからぁ……


「あぁ、え~っと……実家に持って帰れねぇからぁ。ハハハ、」

「な、な、なに笑ってるんですか!! 機材の価値も分からないような人達に売る何て!!」

「えぇ~~まぁねぇ。でも、カタ落ちだかんねぇ。

何処いっても扱いは変わらんと思うよ? オレも中古で買ったの多いし」


 最新のデジピをポン! とプレゼントして貰えちゃう お偉い企業の御曹司クンには解かるまい。

小市民も最下層にもなりますと、こぉして小金を捻出するしかねぇんです。


 ユーヤ君はプルプルと震えてる。

眉を吊り上げて口をへの字にして、怒髪、天ブッ飛ばしな憤怒の相。

そうして どーするつもりなのか、手荷物をオレに押しつけると、業者の元へと走って行く。



「すみません! ソレ、やっぱり売りません!」



 は? あの子、なに言っちゃってるの?


「気が変わりました! ごめんなさい、本当に! トラックから降ろしてください!」


 オレはキョトーン。業者サンは もっとキョトーン。


「いえ、然し、もう契約が……」

「クーリングオフって使えますよね!?」

「ぇ、ええ、まぁ……その場合、お支払いした30万を、」

「30万ですね! 分かりました、直ぐ手配します!」

「イヤイヤ、ちょっと待ったぁあぁあぁ!!」


 ユーヤ君、キミ、何処に電話しようとしてる!?

もしかして、中都重工の社長様かな!? いきなし30万オネダリする気かな!?

どーゆー育ちしてんのさ、このバカヤローが!


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