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おとなりダーリン。  作者: 坂戸樹水
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『オレ、もう辞めたから、作曲』



 ――って、オレ、辞めんのね? 作曲。


 ついでに、『実家に帰る』とも言っちゃいましたよ。

いやぁ~~怖いよねぇ、後の無い大人の見栄って。

大体さぁ、引越し代も無いってのに どーするつもりなのかな、オレは。


 25才・無職は実家に電話して、

『オレよ、オレ、引越し代ねぇから10万円程 指定口座に振り込んでくれねぇ?』って、実の親から身分証を求められるターニングポイント見え見えじゃねぇの。



(って、段ボールだけは有り余っていると言う虚無感……)



 壁に貼り付けた手製の段ボール防音壁を剥がしちまえば、荷造り用の段ボールは早々に用意できてしまうんだな。

ってなワケで、部屋中 段ボールだらけなのよ。


「洋服は大したもんねぇし、捨てちまうか。機材は……」


 売れば引越し代になる。充分に。



「辞めんのか、作曲……」



 辞められるのか?

――って、そんな浮ついた気持ちじゃなく、ユーヤ君に言ってしまったコトで、思うクソ吹っ切れてしまったワケで。所謂コレは、郷愁のよぉなもんで。


(辞めるも何も、仕事がねぇんじゃオートで無職決定ですけども)


 コレまでの人生を賭けて来た。コレに嘘は無い。

ガキの頃に遊び半分で始めたピアノでコンクールは総ナメにして来た。

その業界では【神童】とすら謳われた。

実家にはトロフィーが腐る程 並べられてて、そりゃ今となっちゃ鈍器にしか使いようがねぇってくらいだ。


 ピアノはオレに沢山の世界を見せてくれた。

鍵盤さえあれば、オレはどんな世界だって作り上げられた。

音が降って来る。溢れて来る。そりゃもぉとめどなく。とめどなく。

オレは音と言う最強の武器を持って、自分の未来を斬り開く。

バッサリと。



「売るか、機材」



 バッサリと。おしまい。


 このボロアパともオサラバだと思うと、ちょっと、何てぇか……

まぁ、清々だよ。本気で。でも……



(ユーヤ君とは もっとお隣りサンしてたかったな、)



 ユーヤ君が越して来て僅かな時間だったけど、ホントに楽しかった。

いつでも笑顔で、オレみたいなオッサン相手に兄貴みてぇに慕ってくれて、

ホント、パン耳レベルの薄っぺらな生活が華やいだ。シャララララ~~って。



(傷つけちゃったけど……)



 どーせなら最後はイイ兄貴で終わりたかった。

だけど、明るい未来が待ってるだろうユーヤ君に偶像崇拝させちゃいかんって思うんだ。

ホントに実力のある人の下に就いて、シッカリとチャッカリと伸し上がって生き残って欲しい。

いつか、あの子のピアノが世の中に流れて、そうして あの子の世界に触れるコトが出来たら、コレ以上の幸せはナイって思うんだ。



「応援してる、ずっと。見守ってる、ずっと……」



 コレは嘘じゃねぇよ。




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